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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第十二章 進む近代化

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第217話 誓いの口づけ

 それから、三年ほどの時が流れ()っていた(ころ)

 私はダイガクの研究チームを二つ作っていて、同時進行でエンジン本体とトランスミッションの開発を続けていた。現在までのところ、研究はおおむね順調(じゅんちょう)(すい)()している。

 また、この(ころ)になると、リノアさんが第一子を出産(しゅっさん)してくれていた。

 生まれた子供は女の子で、後にタニアと名付(なづ)けられた。現在ゼロ歳の玉のような赤ちゃんだ。

 生まれたばかりのタニアを()かせてもらい、ご満悦(まんえつ)表情(ひょうじょう)をしているであろう私に、ユキムラがある提案(ていあん)を始めた。

「大おじい様は、また最近ちょっと(はたら)きすぎになっていると思います。お父様と相談(そうだん)して、長期(ちょうき)休暇(きゅうか)を取られてはいかがですか?」

 私は、それもそうかと考え、早速(さっそく)長期(ちょうき)休暇(きゅうか)取得(しゅとく)してクリスさんとイチャコラするために……、ゴホン。ではなくて、(かお)を見るために島の(さと)(おとず)れていた。

(やはり、高速(こうそく)道路(どうろ)と魔力ジドウシャを作って、本当に良かったです)

 旅行(りょこう)格段(かくだん)(らく)になったことに、私はとても満足(まんぞく)していた。

 そして、今。

 二人で仲良く手を(つな)ぎながら、(さと)の中を散策(さんさく)している。

 そうしていると、私はある少年がしている仕草(しぐさ)に気づき、クリスさんに質問(しつもん)してみる。

「クリスさん。あの男の子は、いったい何を()んでいるのですか?」

 私がこの(さと)を初めて(おとず)れてから、かなりの時が経過(けいか)している。

 その中で、この少年の(よう)に何かを()みながら歩いている姿を、時々、見かけていた。

 しかし、私は何かを食べているのだろう程度(ていど)にしか考えておらず、それに今まで気づかなかった。

 なんとなくその少年を視界(しかい)に入れていたのだが、何かを食べている(わり)には、ずっと口を動かし続けているように見える。

「ああ、あれですか……。私たちはドルムと()んでいるものなのですが、弾力(だんりょく)がありますから、ああして()んでいると唾液(だえき)がでまして、空腹(くうふく)が少しまぎれるのです」

 私はそれにものすごく思い()たるものがあり、少し早口(はやくち)になりながらクリスさんにお(ねが)いをしてみる。

「できれば、あれを作っているところを見学(けんがく)させてはもらえませんか?」

「かまいませんが、あれを()んでも(あじ)はしませんよ?」

 そして、ドルムの木と()ばれている樹木(じゅもく)から白い樹液(じゅえき)採取(さいしゅ)しているところを見学(けんがく)させてもらった時、私は思わず感嘆(かんたん)の声を上げていた。

「す、素晴(すば)らしい……。間違(まちが)いありません。これは『ラテックス』です!!」

 ラテックスとは、天然(てんねん)ゴムの原料(げんりょう)となる樹液(じゅえき)のことである。つまり、今までの(だい)用品(ようひん)ではなく、本物のゴムが作成(さくせい)可能(かのう)となるのだ。

 意外(いがい)身近(みぢか)なところにずっと(さが)し続けていたものが存在(そんざい)していた事実(じじつ)に、私が感動(かんどう)で身を(ふる)わせていると、クリスさんが不思議(ふしぎ)そうに(くび)(かし)げながら()いかけてきた。

「これは、らてっくす? というのですか?」

「ああ、すいません。昔の言葉で、この樹液(じゅえき)のことをそう()ぶのです。これさえあれば、あれが作れますね……」

「ヒデオ様も、あれを()んでみたいのですか?」

 私は軽く(くび)()って返答する。

「いえ、そうではなくて、もっと(べつ)の……」

 そこまで言うと、クリスさんは私の話を(さえぎ)って話を続ける。

「まあ! では、避妊(ひにん)()にお使いになるのですね。(いや)ですわ。私は、ヒデオ様の子種(こだね)をちゃんといただきたいです」

 とんでもないクリスさんの勘違(かんちが)いに、私は思わず(ほほ)()めながら否定(ひてい)(かさ)ねる。

「いえ、そうではなくて、もっと(べつ)の……」

 そんな私の説明(せつめい)(さえぎ)って、クリスさんの勘違(かんちが)いが(ひど)くなっていく。

「まあ! では、別の女性に使うつもりなのですね!! それなら、これは絶対(ぜったい)(わた)せません。ええ、ええ。(さと)のみなにも、きつく言い(ふく)めておかなければ」

 ふんすーっと、鼻息(はないき)(あら)宣言(せんげん)しているクリスさんを横目(よこめ)に見ながら、私は思わず(ひたい)に手を()てて天を(あお)いだ。

「お(ねが)いですから、避妊(ひにん)()から(はな)れてください……」

 私がそのように(しぼ)り出すようにして(つぶや)くと、クリスさんはキョトンとした(かお)になりながら聞き返してきた。

「え? (ちが)うのですか?」

「ええ。私が使いたいのは、魔力ジドウシャの車輪(しゃりん)にですよ……」

 そう。まずはゴムタイヤを作ってみたいのだ。

 私がようやく作りたいものの説明(せつめい)を終えると、彼女もやっと自分の(ひど)勘違(かんちが)いに気づいたようで、(ほほ)()めながら(うつむ)いてしまった。

 私は、ここで、時が来たら言おうと思っていた内容(ないよう)を、思わずポロッと(こぼ)してしまう。

「それに、私は、もう、クリスさん以外の女性に私の子供を()んで欲しいとは、思ってもいませんよ……」

 その発言(はつげん)を耳にしたクリスさんは、ガバッと顔を上げ、私の両肩(りょうかた)に手を()きながら、かなり早口(はやくち)になってまくし立てた。

「ヒ、ヒデオ様!! 今のは本心(ほんしん)ですか!?」

 クリスさんの必死(ひっし)形相(ぎょうそう)至近(しきん)距離(きょり)で見つめながら、私は、ああ、言ってしまったなとここで気づき、ありのままの本心(ほんしん)(つた)えることにした。

「ええ、本心(ほんしん)です。ですが、もう少しだけ()ってはいただけませんか? 私の(ゆめ)に、ようやく手が(とど)きそうなところまで来ているのです。その(すべ)てが片付(かたづ)きましたら、私はあなたの所有物(しょゆうぶつ)となるために、(かなら)ずあなたの元を(おとず)れますから」

「はい……。はい」

 クリスさんは両手で(かお)(おお)い、その隙間(すきま)から(なみだ)をボロボロと(こぼ)しながら、私の求婚(きゅうこん)(おう)じてくれる。

「ただ、その時には、あなたも私の所有物(しょゆうぶつ)になってもらいますね」

 私が()(かく)しにそう言うと、クリスさんは(うれ)しさのあまりなのだろう、()(くず)れてその場にしゃがみこんでしまった。

 私は彼女の強さに(こころ)()かれた。

 しかし、今だけは、弱弱しく()(くず)れるその姿(すがた)がとても(いと)おしくて、私も(ひざ)()ちになって彼女を(やさ)しく()きしめた。

 クリスさんは私の(むね)でしばらく()いていたのだが、まだ(うる)んだ(ひとみ)で私を見上げて、こう、おねだりを始めた。

「ヒデオ様、そのような(しあわ)せな未来(みらい)のためであれば、私は万の時を()えてでも()ち続けて見せます。でも、一度だけでいいのです。その(ちか)いの(あかし)を、口づけを、してはいただけないでしょうか?」

(そ、その(かお)でのおねだりは反則(はんそく)です。そんな表情(ひょうじょう)で言われてしまっては、私は地獄(じごく)()てまで(おもむ)いて、魔王ですらも(たお)してしまいそうです)

 私はそれに答える()わりに、目を閉じ、そっと(かお)を近づけていった────。

 ここに、その(ちか)いが成立(せいりつ)した。

 その瞬間(しゅんかん)、私たちの(まわ)りからは(すべ)ての音が()()り、お(たが)いの鼓動(こどう)の音だけが()(ひび)いていた。

 もっとも、実際(じっさい)にはこのシーンを目撃(もくげき)していた、ラテックスを採取中(さいしゅちゅう)(さと)のみんなから(あたた)かい祝福(しゅくふく)()けていたらしいのだが、それは、後になって判明(はんめい)した事実(じじつ)である。


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