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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第八章 学校教育の推進

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第153話 原油

 それから、三年ほどの月日が流れ去った(ころ)

 少し前にシゲルが旅立(たびだ)っていた。

 私はエストとの約束(やくそく)を守り、笑顔(えがお)で見送ることに成功していたのだが、家族たちはなぜか、そんな私の様子(ようす)を見て余計(よけい)(なみだ)を流していた。

 (なみだ)を流せない私の代わりに泣いてくれるその姿(すがた)がとてもありがたくて、私は(だま)って、家族たちに頭を下げ続けていた。

 そして、それからしばらくすると、まるで(おっと)の後を()うようにして、クレアさんも静かに(いき)を引き取った。

 相次(あいつ)いでひ孫夫婦を二人とも()くしてしまったため、私の(むね)に、ぽっかりと穴が開いたような(さび)しさを感じていた。

 しかし、エストが(のぞ)んだ通り、空元気(からげんき)でもいいからと自分を(ふる)い立たせ、なんとか日常(にちじょう)業務(ぎょうむ)()り行っていたのだが、(むね)のこの寂寥感(せきりょうかん)だけは、なかなか消えてくれなかった。

(こんなことでは、エストの巨大な愛情(あいじょう)(むく)いることができませんね)

 私はそのように考え、せめて気分(きぶん)転換(てんかん)をしようと、昼食(ちゅうしょく)をとるために外食(がいしょく)に出かけることにした。

 どうせ気分(きぶん)転換(てんかん)をするのであればと、ガイン自由都市で評判(ひょうばん)になっている高級(こうきゅう)料理店(りょうりてん)に入ってみた。

 この店は高級店(こうきゅうてん)であるため、料金がそれなりに高額(こうがく)になっているのだが、この都市の平民であれば、たまの贅沢(ぜいたく)として利用できる程度(ていど)(りょう)心的(しんてき)価格(かかく)設定(せってい)がなされていた。

 こういう店であれば、通常は個室(こしつ)が用意されているのだが、この店では全席(ぜんせき)自由席(じゆうせき)のオープンスペースになっており、こういった面でもコストカットを(はか)っていて、その分、価格(かかく)反映(はんえい)されているのだろう。

 それらの配慮(はいりょ)のため、記念(きねん)()などに利用される特別な店として、とても繁盛(はんじょう)しているようだ。

 一人で入店(にゅうてん)した私は、平民にとっては(めずら)しい牛肉を使ったフルコースを注文し、静かに料理(りょうり)を待っていた。

 そうすると、(となり)の席の会話(かいわ)自然(しぜん)と耳に入ってきた。

「ねえ、あなた。セネブ村の黒い水のことは知っている?」

「なんだい、それは?」

「なんでも、セネブ村には、黒い水と言われている(あぶら)()き出しているそうなのよ。その(あぶら)(だれ)でも無料で使えるらしいのですけれども、とても(にお)いがきついので、お金に(こま)った平民しか利用していないのですって」

 私はその話を聞いた時、とても思い当たるものがピンと()かんだ。

「すいません、ちょっとよろしいですか?」

 気づくと、(となり)の席に話しかけてしまっていた。

「あら、初代様から話しかけてくださるなんて光栄(こうえい)ですわ。なんでしょうか?」

「その黒い水について、(くわ)しく教えていただけませんか?」

「それは(かま)いませんが、私も友人から聞いただけですので、そこまで(くわ)しくは知りませんよ?」

 そのようにして、話の詳細(しょうさい)を聞き出した私は、(ぜん)は急げとばかりに、その足でセネブ村へと()かった。

 (さいわ)いなことに、割と近場(ちかば)にあったため、乗合(のりあい)馬車(ばしゃ)を使えばその日のうちに到着(とうちゃく)することができた。

 同じ乗合(のりあい)馬車(ばしゃ)から()りた村民が村長に連絡(れんらく)してくれたようで、しばらくすると、彼の方から(たず)ねて来てくれた。

「これは、これは、ガイン家の初代様。このような辺鄙(へんぴ)な村にお()しくださり、とても光栄(こうえい)ですが、何用(なによう)でしょうか?」

「この村で使われている黒い水について興味(きょうみ)がありまして。私の想像(そうぞう)している通りのものであれば、この村は大きく発展(はってん)することになりますので、その()き出ている場所まで案内(あんない)していただけませんか?」

「あれに、そのような価値があるとは、とても思えないのですが……」

 そう言いながら案内(あんない)された場所を見て、私は感嘆(かんたん)の声を上げた。

素晴(すば)らしいっ……! 間違(まちが)いありません。これは『原油(げんゆ)』です!!」

 (うれ)しさのあまり思わず大声を上げてしまった私を、村長は怪訝(けげん)な目で見ながら()いを発する。

「ゲンユですか?」

「ああ、これはすいません。ここからは遠い国の言葉では、そういう名称(めいしょう)なのです。この黒い水の正式な名前がありましたら、ぜひとも教えていただけませんか?」

「私たちはこれを原油(げんゆ)()んでいます」

 私はこの国での、原油(げんゆ)にあたる単語(たんご)を知った。

 ちなみに、原油(げんゆ)とは、未精製(みせいせい)状態(じょうたい)石油(せきゆ)のことである。

 なおも怪訝(けげん)な目で見ている村長に、私はこの原油(げんゆ)価格(かかく)を聞く。

「すいません、この原油(げんゆ)(たる)()めて、ガイン自由都市のダイガクまで(はこ)びたいのですが、おいくらで売っていただけますか?」

「これは、みんな自由(じゆう)に使っているものですから、お金は必要(ひつよう)ありませんよ?」

「それはいけません。この原油(げんゆ)は、この村を……、いえ、この国を大いに()ませる原動力(げんどうりょく)となりますので、きちんと価格(かかく)設定(せってい)をしておかなければ大損(おおぞん)してしまいますよ?」

 私はそのように説明(せつめい)(くわ)え、ランプ用の(あぶら)参考(さんこう)にしてとりあえずの取引(とりひき)価格(かかく)設定(せってい)した。

 ただ、私では適正(てきせい)価格(かかく)判断(はんだん)できなかったため、後に正式に担当(たんとう)商人(しょうにん)を決めて、変動(へんどう)相場制(そうばせい)取引(とりひき)することも合わせて約束(やくそく)した。

 そうやって買い取った原油(げんゆ)を、村人を(やと)って手ごろな(たる)()めてもらった。

 その村人は、思わぬ臨時(りんじ)収入(しゅうにゅう)ができたと、とても(よろこ)んでくれていた。

 ただ、その日はもう乗合(のりあい)馬車(ばしゃ)がなかったため、村長の家にお金を(はら)って一泊(いっぱく)させてもらい、翌日(よくじつ)に馬車も合わせて手配(てはい)して、きちんと対価(たいか)(はら)って輸送(ゆそう)してもらった。

「さあ、これからは、研究が(いそが)しくなりそうです。落ち込んでいる(ひま)なんて、全くありませんね!」

 やるべきことを見つけた私は、今度こそ、元気を出して日々を送ることを決意(けつい)したのであった。


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