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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第八章 学校教育の推進

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第150話 初代様の婚約者

 それからの私は、せっかく私の領地まで来たのだからと、クリスさんを連れてガイン自由都市を案内(あんない)していた。

 クリスさんにとってこれはデートになるらしく、とても(よろこ)んでくれていた。

 いや。クリスさんだけでなく、周囲のみんなから見ても、これはデートにあたるようだ。

 あの日からのクリスさんは、以前にも()して積極的(せっきょくてき)になり、人目(ひとめ)(はばか)らずにスキンシップを求めるようになっていた。

 以前の私であれば、気恥(きは)ずかしくなってしまい、遠慮(えんりょ)するようにお願いしたのかもしれない。

 しかし、あの日から確かに、私は彼女に(こころ)()かれ始めたようで、(いや)な気はしていない。そのため、彼女の気のすむようにさせていた。

(しかし、これでは、バカップルに見えませんかね?)

 そのような危惧(きぐ)(いだ)いていた程度(ていど)である。

「私はいずれ、ヒデオ様の(つま)となります」

 そんな私たちの仲睦(なかむつ)まじい様子(ようす)と、このようなクリスさんの自己(じこ)紹介(しょうかい)により、彼女はあっという間に、領民たちの間で「初代様の婚約者(こんやくしゃ)」という認識(にんしき)を固めてしまっていた。

 もうすっかりと、私の外堀(そとぼり)()め立てられているようだ。

 心の内堀(うちぼり)も、順調(じゅんちょう)()め立てが進んでいると思う。

 二人で仲良く観光(かんこう)名所(めいしょ)などを回っていると、やがてお昼に差し()かった。そのため、鶏肉(とりにく)料理(りょうり)がうまいと評判(ひょうばん)の店に昼食(ちゅうしょく)のために立ち()った。

 (すで)に有名人となっているクリスさんと私の組み合わせでの登場に、一瞬(いっしゅん)だけ歓声(かんせい)が上がる。

 しかし、ありがたいことに、みんな私たちの邪魔(じゃま)にならないようにと思ってくれているようで、無遠慮(ぶえんりょ)に近づいてくるものはいなかった。

 ただ、興味(きょうみ)はあるようで、ちらちらとこちらの様子(ようす)を静かに(うかが)っている。

 しばらくすると、(おく)厨房(ちゅうぼう)から料理人服に身を包んだ男性が注文(ちゅうもん)を取りにやって来た。

「ご注文を(うかが)います」

「その前に、あなたは料理長さんですか?」

「はい。(うわさ)の初代様の婚約者(こんやくしゃ)(さま)がどのような方かとても気になりましたので、我儘(わがまま)を言って来させていただきました」

 その言葉を聞いたクリスさんが、笑顔(えがお)で料理長に(かた)()ける。

「まあ……。では、実際(じっさい)の私を見てどうですか? ヒデオ様の(つま)にふさわしい女性に見えますでしょうか?」

 料理長は大きく(うなず)いて肯定(こうてい)する。

「ええ、もちろん。(うわさ)以上(いじょう)素敵(すてき)なご様子(ようす)で、とてもお似合(にあ)いのカップルですよ」

 それを聞いたクリスさんは、可憐(かれん)な花の様に微笑(ほほえ)み、ついでとばかりに私の退路(たいろ)をどんどんと(ふさ)いでいく。

「ありがとうございます。私はすぐにでも式を()げたいのですが、ヒデオ様が了承(りょうしょう)してくださらないのです。あなたからも、ヒデオ様の背中(せなか)を押していただけませんか?」

「そうなのですか? 美男(びなん)美女(びじょ)の組み合わせで、とても(はな)やかな結婚式(けっこんしき)になりそうです。私もお二人の結婚(けっこん)衣装(いしょう)をぜひとも拝見(はいけん)したいので、早めに結婚(けっこん)していただけませんか?」

 外堀(そとぼり)をしっかりと()め立てた上で、舗装(ほそう)された道路(どうろ)まで作り上げていくその(にゅう)(ねん)さに、私は内心(ないしん)(した)()いていた。

 私は苦笑(くしょう)しながら返答する。

「でも、私が結婚(けっこん)してしまいますと、この領地を出ることになりますよ?」

「そうなのですか?」

「ええ……。クリスさんは島アルクの里の祭司長様で、冠婚葬祭(かんこんそうさい)儀式(ぎしき)一切(いっさい)()(おこな)っています。島の生活になくてはならない人ですから、私は婿(むこ)として、島の里へ向かうことになります」

 私がそのように説明を加えると、料理長は(あご)に手を当て、考え()み始めた。

「ううむ……。お二人の結婚(けっこん)衣装(いしょう)は見てみたいですが、初代様を取り上げられてしまうと、この国の平民全員が(こま)ってしまいますな……」

 そのような会話を微笑(ほほえ)みながら聞いていたクリスさんは、さらに退路(たいろ)がなくなるように(たた)みかけてくる。

「あら? 私は理解(りかい)のある女ですから、(おっと)が仕事のために家を()けるのは別に(かま)いませんよ? お仕事が(いそが)しいようでしたら、(かよ)いでの結婚(けっこん)生活(せいかつ)許可(きょか)しますし……」

 それを聞いた料理長はぱっと笑顔(えがお)になり、私に結婚(けっこん)(すす)め始める。

「それはいい(あん)ですな! 初代様、このように一途(いちず)に思ってくださる女性とは、なかなか(めぐ)り合えませんよ。()げられないうちに、さっさと身を(かた)めてしまいましょう!」

()げられなくなったのは、むしろ私の方ではないですかね?)

 そのように思ったのだが、口には出さないでおいた。

 私は苦笑(くしょう)しながら、なんとか思いついた言い(わけ)()べる。

「私は、そんな不誠実(ふせいじつ)な形での結婚(けっこん)はしたくありませんので」

 これは、もう、クリスさんと結婚(けっこん)するかしないかではなく、いつ了承(りょうしょう)せざるを得なくなるかの問題ではないかと、強く感じた日の出来事(できごと)であった。


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