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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第一章 幼少時代
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第15話 旅立ち前夜

 この(ころ)になると私は里のスローライフにすっかり慣れてしまい、里のみんなから見ても、突飛(とっぴ)に思えるような行動はあまりしなくなっていた。

 ただ、外の世界への(あこが)れだけは継続していた。

 里の生活に馴染(なじ)んでしまえば、月日が流れるのはあっという間だった。

 地道な訓練を継続するようになった私は、里を出る直前ぐらいになると、目に見える範囲であれば魔法が必ずと言っていいほど命中するようになっていた。弓を使わなくなって久しく、私は手ぶらで森を歩いている。

「お。ご馳走(ちそう)発見です」

 空を見上げると、優雅(ゆうが)に飛び回っている三羽のチル鳥がいた。この鳥は白いハトのような美しい鳥だ。

(あんなに目立つ色で、生存競争を生き残れるのでしょうか?)

 私はそんな疑問を感じていたが、チル鳥たちはとても優秀な危機察知能力を持っていて、少しでも気配(けはい)を感じたらすぐに飛び立ってしまうので、里のベテランであってもめったに狩れない鳥として有名だ。

 ただ、肉はとてもうまいので、狩る事ができたらご馳走(ちそう)である。

多重(たじゅう)風刃(ふうじん)

 私が発動した魔法により、目には見えない三つのかまいたちが発生する。それらが独立してホーミングしながら命中し、三羽のチル鳥の首を綺麗(きれい)に飛ばした。

 ちなみに、多重(たじゅう)風刃(ふうじん)風刃(ふうじん)の魔法をループ文で囲ったもので、それを多重起動するものになる。このような魔法はシリーズ化されており、他にも多重(たじゅう)水槍(すいそう)や多重水球のような魔法がある。

 落下したチル鳥に歩いて近づき、そのまま手に取ると、逆さに吊るして土魔法で作った穴に血抜きを行い、すっかり慣れた手つきで足を(ひも)(くく)り付けて持ち帰る。

 久しぶりのご馳走(ちそう)にホクホク顔になりながら里に戻り、近くにいた子供に一匹おすそ分けする。

 その足で祭司長と自分の小屋へと戻り、素早(すばや)く解体してから(かまど)に火を()け、調理を開始する。

 変わらぬ日常に幸福を感じていたら、間近(まぢか)(せま)った成人の儀式を思い出し、顔を(くも)らせる。

 小さい(ころ)は、この何もない、里の生活が我慢(がまん)できなかった。

 蛇口(じゃぐち)をひねればお湯が出て、お湯かけて三分でラーメンが食える。

 インターネットを開けば、あらゆる情報が瞬時に手に入る。

 そんな、もう戻れない生活を、ひたすらに(なつ)かしんだ。

 しかし、三十年たった今では、この生活にとても満足している。この里のみんなはとても(あたた)かくて、この里こそが、私の故郷だと強く思う。

(無理に里を出ていかなくても、いいのではないでしょうか? 少なくとも、すぐに出発するのはやめて、この生活に飽きた時点で考えればいいはずです。ひたすらに長い寿命(じゅみょう)を考えたら、とりあえず現状維持でいいじゃないですか)

 何度も繰り返した、自問自答(じもんじとう)をする。

(しかし……)

 何度も出した結論を、振り返る。

(たぶん、私はここで外に出なければ、一生、この里で暮らす事になるでしょう。それが悪い事だとは思いませんが、この里の生活は(あたた)かすぎて、変化を望まなくなるに違いありません)

 今なら、アルク族がとても保守的なのも良く理解できる。

(外の世界を見て回るには、今しかありません。長い人生、少しくらいは冒険すべきです。外の世界を十分に見て回ってから、里に隠居(いんきょ)しましょう)

 かなりやせ我慢をしながら、出発の決意を(あら)たにする。


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