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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第八章 学校教育の推進

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第149話 来訪

 フィーナとティータが相次(あいつ)いで誕生(たんじょう)してから、一年ほどが経過した(ころ)

 執務室(しつむしつ)で領主のシゲルの(となり)という、ちょっと恐縮(きょうしゅく)してしまいそうな私専用にと用意されている机の前に(すわ)り、いつもの領主(りょうしゅ)業務(ぎょうむ)手伝(てつだ)っていた時。

 カズシゲが、(みょう)にニヤついた顔で私を(たず)ねてきた。

「大おじい様に、大切(たいせつ)なお客様がいらしてますよ」

「え? 今日の予定に、来客(らいきゃく)はなかったと思うのですが……」

 私が困惑(こんわく)しながらそう()べると、カズシゲは、さらにニヤニヤとしながら私にヒントを(あた)える。

「大おじい様が、度々(たびたび)、島アルクの里へと出かけておられたのは、こういう理由(りゆう)だったのですね……。大おじい様も(すみ)に置けませんね」

 そのヒントで、ある人物がピンと()かんだ。

「まさか……」

 応接室(おうせつしつ)へと少し急ぎ足で向かい、(とびら)を開けた私を待っていたのは、予想した通りの人だった。

「クリスさん!」

 私の顔を見たクリスさんは、満面(まんめん)()みを()かべながら私の(むね)へと飛び()んできた。

「ヒデオ様! 私、待ちきれなくなって、来てしまいました!!」

 私は彼女を(やさ)しく()きとめながら、心配(しんぱい)に思っていた点を聞いてみる。

「島の里からここまで、かなりの距離(きょり)があったでしょう? 道はどうやって知ったのですか? いえ、それ以前に、路銀(ろぎん)はどうしたのです?」

 クリスさんは、(しあわ)せそうに私の(むね)(おさ)まりながら、その真相(しんそう)(かた)ってくれる。

「この国の方々に道を(たず)ねたのです。そうすると、あなたは初代様とどういうご関係ですか? と、聞かれましたので、いずれヒデオ様の(つま)になるものですとお(つた)えしたのです。そうすると、みなさん私の耳を見て納得(なっとく)した様子(ようす)で、とても親切にしていただきました。ヒデオ様は、この国の(たみ)にとても(した)われておいでなのですね」

 この話の間、ずっと私にしがみついているクリスさんの、その甘い(かお)りにクラクラしっぱなしであったが、何とか理性(りせい)(たも)って対応(たいおう)を続ける。

 私たちのそのようなやりとりを、ずっとニヤニヤと見ていたカズシゲだったのだが、一言(ひとこと)だけ(ことわ)りを入れて退室(たいしつ)していった。

「ごゆっくり……」

 室内(しつない)にクリスさんと二人だけになると、やがて彼女は、まるで私を()がさないとでも言わんばかりに両腕(りょううで)で私をがっちりと固定した状態になり、顔だけをこちらに向けて視線(しせん)を合わせ、三度目となる求婚(きゅうこん)を始めた。

「ヒデオ様、私、もう待ちきれません。当面(とうめん)(かよ)いで(かま)いませんから、式だけ()げて、私を(つま)にしてください」

 私は真っすぐに彼女を見つめなおし、ずっと(さき)()ばしにしていた結論(けつろん)(かた)()ける。

「クリスさん……。実は、私も、あなたにプロポーズしようとしたことが何度もありました」

「では、ヒデオ様!」

「でも、私にはどうしても、それができなかったのです。それがなぜなのか、ずっと分からなかったのですが、最近(さいきん)になって、ようやくその理由(りゆう)判明(はんめい)しました」

 彼女を見つめたまま、深呼吸(しんこきゅう)をして、クリスさんにとって残酷(ざんこく)事実(じじつ)を口にする。

「私は、どうやら、他の女性に懸想(けそう)しているようなのです」

 それまでは甘ったるい気配(けはい)のしていたクリスさんが、とたんに顔を青ざめさせる。

「そ、そんなっ……。(だれ)なのです? 私のヒデオ様の心を横からかすめ取った泥棒(どろぼう)(ねこ)は、いったい、どこのどなたなのですか!?」

「私の里の祭司長様です」

 クリスさんがヘナヘナと(くず)れ落ちる。しかし、それでも私を(はな)したくないのか、ずっと両腕(りょううで)は私の背中(せなか)(むす)ばれたままだ。

 私は、それに引きずられるようにしながら彼女を(ささ)え、両膝(りょうひざ)()ちになった。

「そんな……。それでは、その(にく)い女の寿命(じゅみょう)()きるまで待つという、最終(さいしゅう)手段(しゅだん)も取れないではありませんか……」

 クリスさんは、(いま)だに私の(むね)に顔をうずめながら、ブルブルと(ふる)えている。

 彼女を泣かせる結果になるのはとても(もう)(わけ)ないのだが、それでも、自分の気持ちに(うそ)はつけない。

 しばらくそのままの状態(じょうたい)が続いたのだが、やがて、少し(かす)れたような声で、クリスさんが確認(かくにん)を取り始めた。

「では、もう求婚(きゅうこん)なさったのですね?」

「いえ、まだです。と、言いますか、しても無駄(むだ)でしょうね……」

 私が思わず自嘲気味(じちょうぎみ)になりながらそう(おう)じると、クリスさんは急に活力(かつりょく)()いた様子(ようす)でガバッと顔を上げ、私を()()める。

「それは、なぜですか?」

「おそらく、祭司長様は、私を異性(いせい)としては見てくれないだろうからです」

 私がそう簡潔(かんけつ)理由(りゆう)説明(せつめい)すると、彼女は獲物(えもの)追跡(ついせき)する獰猛(どうもう)(たか)の目になりながら、私をさらに()()める。

「どういうことですか?」

「私を(そだ)ててくれたのは、もちろん、里のみんなですが、一番、身近(みぢか)世話(せわ)をしてくれたのが、(ほか)ならぬ祭司長様だからです。ですから、彼女は、私を息子(むすこ)としては愛してくれるでしょう。ですが、(おっと)として意識(いしき)してもらえるとは、どうしても思えないのです」

 私がそう言うと、クリスさんは決意(けつい)()めた顔になり、ある宣言(せんげん)を始めた。

「では、私にもまだまだ可能性(かのうせい)がありますね。ヒデオ様。私は、必ずあなた様を篭絡(ろうらく)して見せます。覚悟(かくご)してくださいね」

 どこまでも前向きな彼女の姿に、その強さに、私の(むね)がトクンと()ねた。

「もしかすると、あなたに篭絡(ろうらく)されてしまうのが、(だれ)にとっても(しあわ)せな結末(けつまつ)なのかもしれませんね」

「そうですよ」

 そこまで(かた)り合うと、彼女はますます私に密着(みっちゃく)してゆき、その顔を至近(しきん)距離(きょり)で見せつけるようにしながら、だんだんと妖艶(ようえん)気配(けはい)(まと)い始める。

 ちなみに、この間、ずっとクリスさんは私にしがみついたままである。

 私は、再び、頭がクラクラしてきた。

 顔と頭がとても熱い。あ、これはダメなパターンだ。

「ク、クリスさん?」

「なんでしょう?」

「私も、一応(いちおう)健康(けんこう)な男性ですから、ずっとこの体勢(たいせい)というのは、か、かなり、ま、まずいと、い、い、いいます……、か……」

 私が動揺(どうよう)しまくりながらそう(つた)えると、彼女はフフッと短く(わら)い、さらにその色気(いろけ)増幅(ぞうふく)させていく。

 両膝(りょうひざ)()ちの私に、シナを作るようにしてしなだれかかる。

「私を押し(たお)したくなりますか? 何一つ、我慢(がまん)する必要はありませんよ……?」

 クリスさんは余裕(よゆう)表情(ひょうじょう)で、ウフフと(わら)いかける。

 その色香(いろか)に完全に当てられてしまった私は、最早(もはや)、ぼうっとしてきた頭で、彼女を熱い視線(しせん)で見つめ始める。

 思わずゴクリと(のど)()る。

 吐息(といき)でさえも、熱を()びてゆく。

 その変化を、彼女は敏感(びんかん)に感じ取ったようで、どんどんと色っぽさを()してゆき、私をさらに追い()めていく。

 私の(ひだり)(ほほ)を、右手で(やさ)しく()でつけながら、体をますます押し付けてくる。

「私の心の準備(じゅんび)は、とっくにできております。さあ、私と子をなしましょう。あなた様の心に()くった悪い女の(かげ)を、私が完全に消し()って見せます」

 そう言って、ほんのりと色づいた顔を見せつけるように、私の顔を(やさ)しく両手で(はさ)()み、私の体との間に少しだけ隙間(すきま)を開け、熱い視線(しせん)吐息(といき)を合わせてくる。

 しかし、そのおかげで体が少し(はな)れたため、(おそ)ろしく強力な魅了(みりょう)の魔法が多少なりとも弱まり、私は(あわ)てて体を引きはがした。

 深呼吸(しんこきゅう)を何度も()り返し、心を落ち着かせる。

「あ、(あぶ)なかったです。まさか、こうまで簡単(かんたん)に、篭絡(ろうらく)されそうになってしまうとは……」

 クリスさんの篭絡(ろうらく)ミッションが秒単位でコンプリートしそうであった事実(じじつ)に、私は愕然(がくぜん)とする。

 そんな私の様子(ようす)を、彼女は余裕(よゆう)()みで見つめながら、続きを(かた)る。

「あら、残念(ざんねん)。私も少し(あせ)りすぎてしまい、()めを(あやま)りましたね。でも、急ぐ必要はどこにもありません。私の魅力(みりょく)は、十分以上にヒデオ様に通用すると判明(はんめい)しましたもの。これからは、じっくりと時間をかけて、(ほね)()きにして差し上げますね」

 私は、あっという間にそうなりそうだなという感想を(いだ)きながら、それに返答する。

「そういう未来(みらい)も、いいのかもしれませんね……。私が言うのもおかしな話ですが、頑張(がんば)ってください」

「ええ、もちろん。いつか必ず、私はヒデオ様の子供を()んで見せますわ」

 非常に強い一面のある彼女であれば、強引(ごういん)にでも、(のぞ)未来(みらい)手繰(たぐ)()せる気がしてならない。

 その様子(ようす)を少し想像(そうぞう)してみると、次のような感想が()かんだ。

(それはそれで、とても(しあわ)せな()(らい)ですね)

 これは、もう、時の流れに身を(まか)せるしかないなと、考えることを放棄(ほうき)した日だった。


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