表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第八章 学校教育の推進

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/161

第142話 エストの横顔

 私の名前はエスト。エスト・ウル・ガインです。

 かつてはガイン自由都市の領主をしていましたが、もうとっくに息子(むすこ)にその席を(ゆず)り、今は隠居(いんきょ)の身です。

 私は今年で七十歳になり、その誕生(たんじょう)()を家族が盛大(せいだい)(いわ)ってくれました。

 この国でのヒム族の寿命(じゅみょう)を考えれば、もういつ天へと旅立ってもおかしくはない年でしょう。

 そんな私の唯一(ゆいいつ)心残(こころのこ)りが、私のおじい様です。

 おじい様は不老(ふろう)種族(しゅぞく)であるアルク族の先祖返りでして、今年で百三十歳になったはずです。

 私とおじい様の間に血縁(けつえん)関係(かんけい)はありませんが、私たちガイン家のものたちはおじい様が大好きで、心から尊敬(そんけい)しています。

 そして、おじい様も実の子供以上に、我々を愛してくださっています。

 それはとてもありがたいのですが、その愛情(あいじょう)(ぶか)(ゆえ)に、我々(われわれ)子孫(しそん)たちを見送り続けなければならない立場のおじい様のことが、とても心配(しんぱい)になります。

 かつて、私のお母様は言いました。

「血の(つな)がらないはずの孫たちでさえ、あなたはとても愛しているものね。これでは、いつか、エストやメイが旅立った時がとても心配(しんぱい)になるぐらいよ?」

 そんなお母様の懸念(けねん)は、見事に的中(てきちゅう)してしまいました。

 四年前にメイが寿命(じゅみょう)で天へと帰って行った時、おじい様の落胆(らくたん)ぶりは、それはそれはひどいものでした。

「あ……。ああ。ああああああああああああ!!」

 メイが()くなった時、おじい様はそんな(さけ)び声を上げながら、目を両手で(ふさ)ぎ、(くず)れ落ちていました。

 そして、目をきつく閉じたまま、両耳を(ふさ)いでうずくまっていました。

 私には、その姿が、これ以上この世に(とど)まりたくない、もう天上の神々の世界へと帰りたいと言っているように感じられまして、とても恐怖(きょうふ)しました。

 その後、部屋へ閉じこもったおじい様は、丸二日の間、食事もとらず、水さえも口にせず、ただただ、ぼうっと天井(てんじょう)を見つめていました。

 私はネリアとシゲルを自室(じしつ)へと()び出し、今後の対応(たいおう)協議(きょうぎ)しました。

 この二人にだけは、おじい様が神の御使(みつか)いであることを説明(せつめい)しています。

 そのため、おじい様がこの地になくてはならない存在(そんざい)であることを、一番、理解(りかい)してくれているはずなのです。

 正確(せいかく)に言えば、シゲルがその子供たちのカズシゲとリズにも(おし)えているはずですが、まだ(わか)いのでこの場には()んでいません。

 重苦(おもくる)しい雰囲気(ふんいき)の中、最初に口を開いたのは(むすめ)のネリアでした。

「お父様、曾祖父(そうそふ)(さま)は、神々の世界へと帰りたがっているのでしょうか?」

 シゲルが()(いき)()きながら、その次に発言(はつげん)します。

「私も人の親になりましたから、ひいおじい様の気持ちも分かるつもりです。ひいおじい様は、叔母(おば)さんが生まれた時からずっと、おばあ様たちと一緒(いっしょ)になって()(そだ)てに参加していたのでしょう? でしたら、それはもう、実子(じっし)となんら変わらないですからね……」

 私たち親子(おやこ)は、三人そろって大きな()(いき)()き出しました。

 (うつむ)いたままの状態(じょうたい)で、ボソボソと小さな声で、ネリアが(つぶや)きました。

「もしかすると、曾祖父(そうそふ)(さま)にとっては、このまま天上の神々の世界へと帰られたほうが(しあわ)せなのかもしれません。ですが、それでは……」

 私はそれに大きく(うなず)き、その続きを(かた)ります。

「ええ。それでは、おじい様の頭の中にしか存在(そんざい)しない、地上の楽園(らくえん)の計画が頓挫(とんざ)してしまいます」

 私は子供二人を見渡(みわた)し、決意(けつい)表明(ひょうめい)します。

「おじい様には立ち(なお)っていただきます。立ち(なお)っていただかなくてはなりません。おじい様にとっては(こく)な話でしょうが、それでも、我々、いえ、この地に住む全ての平民にとって、おじい様は(うしな)ってはならない存在(そんざい)です」

 そんな私の言葉に、シゲルは大きく(うなず)いて同意(どうい)してくれます。

「私もその通りだと思います。思うのですが、具体的(ぐたいてき)にはどうすれば……?」

 私はシゲルを見つめ、その役目(やくめ)()()うことを(つた)えます。

「それについては、私に考えがあります。私に(まか)せてはもらえませんか?」

 それから、私は二人にその方法を(つた)え、細かい点を修正(しゅうせい)してもらってから、おじい様の元へと向かいました。

 おじい様の部屋(へや)に入って様子(ようす)(うかが)うと、すっかりと(やつ)れてしまっていて、とても(はかな)げに見えてしまいました。

 私は思わず、ぶるっと(ふる)えます。

 おじい様は、本気で、この地上からいなくなろうとしている。

 そんな風に思えましたので、私は気合(きあい)を入れなおし、おじい様の説得(せっとく)へと向かいます。

 メイと笑顔(えがお)再会(さいかい)したくはありませんか?

 そのように(つた)え、何とかおじい様の意識(いしき)を地上へと(つな)ぎ止めます。

 メイへの愛情(あいじょう)利用(りよう)するようで、とても(もう)(わけ)ないのですが、それでも、それ以外におじい様の心に(ひび)かせる言葉が思いつきませんでしたので、やむを()ません。

 目に光が(もど)り始めたおじい様に、私は(たた)みかけます。

 平民たちに対する責任(せきにん)()たしてください。

 私は、もう必死(ひっし)になって、おじい様に(うった)えかけました。

 そして、私は自分が長生きすることの交換(こうかん)条件(じょうけん)として、笑顔(えがお)で見送ってくださいと、とても残酷(ざんこく)なお(ねが)いをしてしまいます。

 その上、子孫(しそん)たちを見送る時にも、笑顔(えがお)でお(ねが)いしますとも。

 私はとてもひどい人なのでしょう。

 義理堅(ぎりがた)いおじい様のことです。

 私がこのようなお(ねが)いをしてしまえば、おじい様はこれから先、子孫(しそん)を見送るたびに()けなくなってしまうに(ちが)いありません。

 それが分かっていながら、私はエゴを()()けました。

 この地に楽園(らくえん)(きず)いてもらうため、そのためだけに、おじい様にとてつもない負担(ふたん)()いています。

 私のこのお(ねが)いは、やがて(のろ)いとなって、おじい様を(しば)ってしまうでしょう。

 いつか、(とお)未来(みらい)、神々の世界でおじい様と再会(さいかい)した時、私はおじい様に平謝(ひらあやま)りする覚悟(かくご)です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ