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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第八章 学校教育の推進

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第140話 大切な約束

 私は、それから自室(じしつ)に引きこもり、思い出の中に()()んでいた。

 親友(しんゆう)の二人を失った時でも、これほどの衝撃(しょうげき)は受けなかった。

 やはり、赤ん坊の(ころ)からずっと見守ってきた孫は特別な存在(そんざい)なのだなと、ぼんやりと考えていた。

 食事をとる気にもなれず、ずっとベッドの上で(ほう)けていた。

 これは後になって家族から聞いた話になるのだが、家族たちは、メイが()くなったことそのものよりも、私のあまりにもな悲嘆(ひたん)ぶりにショックを受け、とても心配(しんぱい)してくれていたようだ。

 どれほどの時がたったのだろうか。エストが私を()ぶ声がする。

「おじい様、エストです。せめて、食事をとってください」

 私は、返事(へんじ)をすることもなく、ぼんやりと思い出に(ひた)っていると、エストはいつの間にか部屋(へや)に入ってきていたようだ。

 私をゆさゆさとゆすりながら、食事をとるように(すす)める。

「もう、丸二日も何も()し上がっていません。このままでは、おじい様が(たお)れてしまいます」

 そう言いながら、何度も私に食事を(すす)める。

 そんな心遣(こころづか)いも私には面倒(めんどう)なものに思えてしまい、投げやりにエストに応答(おうとう)する。

「こんな思いを子々孫々(ししそんそん)にわたってするぐらいなら、いっそ、このまま……」

 私がそこまで口にすると、エストは右手を()りかぶり、バシッと私の(ほお)(ひら)手打(てう)ちにして、(かつ)を入れる。

「おじい様! しっかりしてください! そんなことをしてもメイは(よろこ)びませんよ!!」

 そして、私の襟首(えりくび)(つか)み、前後にゆすりながら、さらに(かつ)を入れる。

「メイとあの世で再会した時に、口もきいてくれなくなってもいいのですか! メイだけではありません!! お父様とお母様にも激怒(げきど)されますよ! おじい様は、それでもいいと言うのですか!!」

「メイと、再会……」

「そうです!! おじい様は不老ではあっても不死ではありません! いつか、遠い未来、家族と再会した時、笑顔(えがお)で会いたくはないのですか!!」

笑顔(えがお)で、再会……」

 ここで、ようやく現実世界に目の焦点(しょうてん)が合ってきた私は、必死に(かつ)を入れるエストを(あらた)めて見つめる。

 エストは目に(なみだ)さえ()かべながら、私に生きろと(うった)えかけ続ける。

「それに! おじい様!! この国の平民たちに対する責任(せきにん)()たしてください!!」

「責任……。ですか?」

「ええ、そうです! おじい様は、この国の平民全てに(ゆめ)を見せました!! 貴族たちに(たよ)らなくても、自分たちでやってゆける領地があると! ガイン自由都市に行けば、(しん)自由(じゆう)を得られると!!」

 エストは私の目をじっと(のぞ)()み、そのまま私の責任(せきにん)()たし方を説明する。

「私たち、(じょう)(みょう)のものでは不可能(ふかのう)でも! おじい様であれば!! その無限(むげん)寿命(じゅみょう)であれば!! この領地の! この国の! その()(すえ)を!! 見定(みさだ)めることができるはずです! それこそが!! おじい様の責任(せきにん)です!!」

(そうだ……。私には、この地に共和(きょうわ)(こく)建国(けんこく)するという、(ゆめ)があったはずです)

 どうやら、私の(ゆめ)は、もはや私だけのものではなく、この国の平民全員に共有(きょうゆう)されるものになっていたようだ。

 ようやく目に光が(もど)った私を見つめながら、エストは少し安心(あんしん)した様子(ようす)で一つ(いき)()き出し、ある大切(たいせつ)約束(やくそく)(むす)ぶことを提案(ていあん)し始める。

「私もヒム族ですから、いずれはおじい様を置いて旅立(たびだ)つでしょう。ですが、その時を少しでも後にするために、私はこれからもっと健康(けんこう)に気を()け、できるだけ(なが)()きすることを約束(やくそく)します」

「それは、なにものにも()えがたい、魅力的(みりょくてき)提案(ていあん)ですね」

 私も笑顔(えがお)になり、その約束(やくそく)に飛びつく。

「では、まずは、(なが)()きの秘訣(ひけつ)をおじい様の英知(えいち)から(おし)えてください」

「そんなに複雑(ふくざつ)なことはしなくてもかまいません。バランスの良い食事をとることと、適度(てきど)な運動を心掛(こころが)けることです」

具体的(ぐたいてき)には、どうすれば?」

「もう年だからと、野菜(やさい)ばかり食べるのではなく、肉もちゃんと適量(てきりょう)()べることです。それと、散歩(さんぽ)程度(ていど)(かま)いませんので、毎日、軽い運動を継続(けいぞく)することですね」

 エストは力強く(うなず)き、その約束(やくそく)を守ることを(ちか)ってくれる。

「では、交換(こうかん)条件(じょうけん)約束(やくそく)です」

 私は、どんな無理(むり)難題(なんだい)()()けられるのだろうかと、少し身構(みがま)えた。

「私がメイたちのところへと旅立(たびだ)つその時には、笑顔(えがお)見送(みおく)ってください」

 私は、やはり無理(むり)難題(なんだい)だったと、頭を(かか)えたくなった。

「そのようなことは不可能(ふかのう)です」

 しかし、エストは可能(かのう)範囲(はんい)でと、約束(やくそく)(ゆず)らない。

「別に、心からの笑顔(えがお)をお(ねが)いしているわけではありません。作り(わら)いでも、強がりでも、なんでも(かま)いませんから、顔の形だけ、笑顔(えがお)(たも)ってください」

 私はしばらく考えを(めぐ)らせ、作り笑顔(えがお)でもいいのならと、その約束(やくそく)了承(りょうしょう)した。

 それでエストが(なが)()きしてくれるのなら、私も頑張(がんば)れそうだと感じたのだ。

「ありがとうございます、おじい様。ところで、もう一つだけ、孫からおねだりしてもいいですか?」

 エストのその無邪気(むじゃき)様子(ようす)が、(おさな)(ころ)昔話(むかしばなし)をねだる姿(すがた)(かさ)なって見えて、私は笑顔(えがお)になってそれを了承(りょうしょう)する。

「ええ、もちろん。かわいい孫からのおねだりです。頑張(がんば)ってかなえて見せましょう」

 それを聞くと、エストは少し真面目(まじめ)な顔つきになって、約束(やくそく)追加(ついか)する。

「私だけでなく、シゲルやカズシゲたち、子孫(しそん)見送(みおく)る時にも笑顔(えがお)でお(ねが)いします」

 私は少し(なや)んだが、それが孫の(のぞ)みであるのならと、頑張(がんば)って了承(りょうしょう)することにした。

 こうして、私はエストと大切(たいせつ)約束(やくそく)(むす)び、それを子々孫々(ししそんそん)にわたり、ずっと(まも)っていくことになるのである。


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