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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第一章 幼少時代
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第13話 算数

 魔法の新規開発が少し行き詰ってきたので、何か他の事をしてみようと考えてみた。

 いろいろと考えたが、ずっと先延ばしにしていた算数を教えてみる事にする。

 幼児の(ころ)は誰に教わったのかが説明できなかったため断念したが、今なら、私がいろいろとアレンさんに教えてもらっていたのを見ているものも多い。

 よって誰かに突っ込まれたら、アレンさんに教わりましたと返答する事にする。アレン大先生が爆誕である。

 最低限の目標としては、足し算、引き算ができればいいだろう。これさえできれば市の取引で損をする事が少なくなるため、そのあたりを説明すれば興味を持ってくれるのではないだろうか。

 できれば、掛け算、割り算も含めた四則演算全てを教え込みたいが、必要性という意味ではかなり(あや)しくなるので、難しいのではないかと考えている。

 理想を言えば、文字も教えて、教科書も作って、将来私が里を出ても勉強が継続できる環境を作りたい。まあ、ここまでは欲張(よくば)りすぎだろう。

「これができないと、大損(おおぞん)するかもしれませんから」

 里の子供たちに根気よく声をかけ続け、なんとか二十人ぐらいからスタートできた。

 一桁(ひとけた)の足し算、引き算までは脱落者なしに行けたが、二桁(ふたけた)筆算(ひっさん)に入ると、脱落するものが増え始めた。

 九九を教え始める頃になると、ほとんどが脱落してしまっていた。

「マルスとロロナは、とても頭がいいのですね。仲も良くて(うらや)ましいです」

 この二人だけは、熱心に毎回私の授業を受けてくれる。

 そして、この二人は里のみんなの公認の幼馴染(おさななじみ)カップルで、いつも一緒にいる。そのためか、二人で競い合うようにして勉強をしていたのも良かったのだろう。

 まあ、この里にいる子供全員が幼馴染(おさななじみ)になるのだが、それでも仲の良すぎるこの二人は、からかわれてしまう事も多い。

 そうすると、二人とも恥ずかしそうにはするのだが、それでも一緒にいる事を寸刻(すんこく)もやめようとしない。はっきり言って、(うらや)ましすぎる。

 ちょっとだけ黒い感情が芽生(めば)えそうになったので、少し頭を振って邪念(じゃねん)を追い払う。

 そんな余計な事を考えていると、マルスが謙遜(けんそん)を始めた。

「頭がいいだなんて……。祭司様と比べたら、とてもそのようには思えません」

 私には前世の知識があるだけなので、頭がいいとはとても言えない。だが、そのことを説明できないので、せめてこの二人には自信を持って欲しいと思い、言葉を重ねる。

「たぶんですけど、アレンさんの教え方が良かったのでしょうね。私もアレン先生に負けないように、いい先生にならないといけませんね」

 この私の言葉を聞いたロロナが少しキョトンとして、何かを指摘しそうになっていた。

「え? 祭司様のその知識って、天上の……」

「わー! わー! わー!」

 そうすると、突然マルスが(あわ)て始め、ロロナの口を両手で(ふさ)いで目をじっと見る。

 それだけで何やら通じ合ったようで、ロロナがコクコクと(うなず)くと、マルスはその手を彼女の口からそっと外した。

「そ、そうですね。あ、いえ。祭司様もとってもいい先生ですよ?」

 ロロナが私を()めてくれるが、どこか目が泳いでいる。

 しかし、私は突然イチャコラし始めたこのカップルの様子(ようす)にイラッとしてしまい、黒い感情が増大していたので、その事に気が付かなかった。

 私にもこんなかわいらしい彼女が欲しい。切実に欲しい。

(ちくしょう! リア充、爆発しろ!!)

 私は心の中でだけ叫び、一つ深呼吸をして黒い感情を意識して霧散(むさん)させる。

 そんな私とロロナの様子を一瞥(いちべつ)したマルスは、話題を変えて発言を始めた。さりげなく自分の恋人をフォローしているようで、本当に(うらや)ましすぎる。

「祭司様、この九九というのは、全部覚えるのが大変です」

 また少し黒い感情が出てきそうになっていたので、私もその話題転換に乗っかることにする。

「この九九は、何も全てを覚える必要はないのですよ?」

「え? そうなのですか?」

 マルスは少しキョトンとしているようなので、私は説明を続ける。

「ええ。実際、私は半分と少ししか覚えていません」

「でも、祭司様は全ての段をスラスラと口になさっていましたよね?」

 私はそれに(うなず)きを返し、学問はもっと自由なもので、柔軟(じゅうなん)な発想が大事だという事を知って欲しくて、その応用方法について少しだけ説明を加える。

「掛け算は前後を入れ替えても同じ答えになる、という話は覚えていますよね? それを利用して、例えば8かける2と出てきたら、頭の中で2かける8に置き換えるのです。こうすれば、半分ぐらいを覚えるだけで全ての段が言えるようになります」

 近頃(ちかごろ)の小学校では、掛け算の順番が前後逆になっているだけで、完全な間違いとして0点にしてしまう、あまりにも(おろ)かに過ぎる先生が多いのだとか。

 そんな型にはめるような方法ばかりを強制してしまうと、子供に柔軟(じゅうなん)な発想を捨てさせてしまう。

 むしろ、他人とは違う、突飛(とっぴ)な解き方をするような子供にこそ、将来において優秀な学者になりえる才能がある。常識にとらわれない、自由な発想こそが、学問を発展させる原動力足りえるのだ。

 なので、子供が型から外れた解き方をした場合、それを(しか)りつけて矯正(きょうせい)しようとするのではなく、その独創性を()めて個性を伸ばす方向に(みちび)いて欲しいと切に願ってしまう。

 このような一幕(ひとまく)がありながらも、勉強会は順調に進んでいった。

 それからしばらくが経過し、割り算の講義を終えた時点で、この勉強会も終了となった。

 結局、そこまでマスターしてくれたのは、マルスとロロナの二人だけだった。

「私が成人して里を出た後は、あなたたちが先生になって子供たちに算数を教えてあげてくださいね? お願いします」

 私はこのように言い含めていた。

 ただ、この二人をもってしても、文字を教える事ができなかった。この里の生活では、必要性が理解できなかったようだ。


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