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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第七章 ガイン自由都市

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第122話 命名、カズシゲ

 貴族連合軍との戦いが終結(しゅうけつ)して、一年ほどが経過した(ころ)

 クレアさんが産気(さんけ)づいていた。

 出産の瞬間(しゅんかん)を待っていたシゲルは、表情こそ普通(ふつう)のものだったのだが、足が(せわ)しなく貧乏(びんぼう)ゆすりし続けているのを、家族たちはツッコミもせずに(なが)めていた。

 初産(ういざん)にしてはとても安産(あんざん)だったらしく、しばらくして、無事に男の子が生まれた。クレアさん(ゆず)りの銀髪で、茶色い(ひとみ)の、泣き声が元気な活発(かっぱつ)そうな赤ちゃんだ。

 私が部屋に入れてもらった時には、満面(まんめん)笑顔(えがお)で我が子を()くシゲルが、頑張(がんば)った自分の妻をこれでもかと()(たた)えていた。

 まだ結婚(けっこん)したくないとぼやいていた、かつてのシゲルと同一人物とは思えないほどの愛妻家(あいさいか)ぶりに、やはり、子供の存在は大きいのだなと実感(じっかん)した。

 シゲルは()いていた我が子を私に(わた)してくれ、()かせてくれると、満面(まんめん)笑顔(えがお)()かべたまま、恐怖(きょうふ)のお願いを開始してしまう。

「私はひいおじい様に付けてもらった、この名前がとても気に入っているのですよ? ですから、ぜひともこの子にも、ひいおじい様から名前を(さず)けてください。私やひいおじい様のような、雰囲気(ふんいき)のある名前をお願いしますね」

 今度はシゲルからの無茶(むちゃ)ぶりに私は頭を(かか)えたくなったのだが、()いている赤ちゃんを投げ出すわけにもいかず、ビキリと音がしそうなほど硬直(こうちょく)してしまっていた。

 それから三日ほど(なや)みに(なや)み、さんざん考えた挙句(あげく)、「シゲル」のような名前ということで、「カズシゲ」と命名(めいめい)した。

 どこかのプロ野球の往年(おうねん)の名選手の息子(むすこ)を思い出したわけではない。(だん)じてないのだ。

 私はこのとき、(みずか)らのネーミングセンスのなさに、完全に絶望(ぜつぼう)していた。

 私が絶望(ぜつぼう)を感じてしまった名前だったのだが、その名前を(つた)えたシゲルが大喜(おおよろこ)びしたので、それだけが、せめてもの(すく)いだった。

 その命名の現場を一緒(いっしょ)に見ていたエストは、名付けたばかりのカズシゲに(やさ)しく(かた)()け始めた。

「やはり、おじい様の名付けは最高ですね。カズシゲ、あなたも森の隠れ里の末裔(まつえい)として、いつかご先祖様の祭司長様を(たず)ねてくれると、おじいちゃんは(うれ)しいですよ」

 エストはその後シゲルに顔を向け、私をさらに絶望(ぜつぼう)のどん(ぞこ)()き落とす発言を始めてしまう。

「そして、シゲル。私は、これから直系(ちょっけい)跡取(あとと)息子(むすこ)には、代々、おじい様に名前を付けて欲しいと思うのですが、いかがです?」

「それは妙案(みょうあん)ですね!!」

 後になって冷静(れいせい)になってから考えてみると、私はこのとき、すぐにでも固辞(こじ)すべきだったのだ。私には無理(むり)だと。

 しかし、この絶望感(ぜつぼうかん)が代々続くのかと思ってしまった瞬間(しゅんかん)に、私はまたしても硬直(こうちょく)してしまい、そのチャンスを永遠(えいえん)(のが)してしまった。

 こうして、私は代を重ねるごとに自分に絶望(ぜつぼう)することを()(かえ)しながら、和風の名前を考え続けることになってしまったのであった。


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