表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第七章 ガイン自由都市

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/158

第120話 対陣

 国王からの使者を追い返してから、一年ほどが経過した(ころ)

 (いま)だに貴族連合軍は挙兵(きょへい)できないでいた。

 私はあれからすぐに諜報(ちょうほう)専門(せんもん)の部隊を組織(そしき)し、各地に放って情報収集を続けていた。

 それによると、やはり、平民の傭兵たちが非協力的なため、なかなか思うように編成(へんせい)作業(さぎょう)ができないでいる模様(もよう)だ。

 それに対して、こちらは時間が十分に(かせ)げたため、準備(じゅんび)万端(ばんたん)になっていた。

 貴族たちとの戦争の(うわさ)を聞きつけた(うで)(おぼ)えのある傭兵たちが国中から続々とガインの都市に集結(しゅうけつ)していて、編成(へんせい)作業(さぎょう)の方が難しいぐらいである。

 傭兵に(かぎ)らず、職人や商人といった一般(いっぱん)民衆(みんしゅう)からも、ぜひとも自分たちも平民の都市を守りたいと入隊(にゅうたい)希望者(きぼうしゃ)殺到(さっとう)していた。

 だが、さすがに戦闘(せんとう)訓練(くんれん)をする時間が()りないため、丁寧(ていねい)に説明してお(ことわ)りしている状態(じょうたい)である。

 そのような状況(じょうきょう)(ごう)()やしたのか、他の貴族たちは強権(きょうけん)発動(はつどう)し始め、領地から出る平民を(きび)しく制限し、無理やりに徴兵(ちょうへい)した傭兵たちをとりまとめてようやく挙兵(きょへい)した。

 諜報員(ちょうほういん)からの情報(じょうほう)では、後二日ほどしたら接敵(せってき)する予定になっている。

 エストは(みずか)陣頭(じんとう)指揮(しき)()りたがったのだが、領主に万が一のことがあればガイン警備隊の士気(しき)深刻(しんこく)影響(えいきょう)を与えると説得(せっとく)し、私が(そう)大将(だいしょう)として指揮(しき)()っていた。

「私はこれでも、ガルムの都市で一番大きな傭兵団の副団長だったのですよ?」

 そう言って、エストを(なだ)めることに成功していた。

 本心では、兵を指揮(しき)したことのないエストに一抹(いちまつ)の不安を感じていたためである。

 そして、平野部に陣地(じんち)()いた私の元には、諜報員(ちょうほういん)からの続報(ぞくほう)が次々に入ってきていた。

 兵力としてはこちらの倍ほどになっているらしいが、士気(しき)はやはり最悪に近いらしく、ちょっとしたサボタージュなども頻発(ひんぱつ)していて、行軍(こうぐん)するのにも難儀(なんぎ)している模様(もよう)だ。

 それに対してこちらの士気(しき)最高潮(さいこうちょう)で、平民のための都市を必ず自分たちの手で守り()き、お貴族様に一泡(ひとあわ)()かせてやると、(じん)の各所でときおり雄叫(おたけ)びが上がっている。

 ただ、凄腕(すごうで)の傭兵たちは多数集まったのだが、集団としての訓練を行う時間が少なかったため、こちらも単純(たんじゅん)横陣(おうじん)(むか)()つことになっていた。

 複雑(ふくざつ)部隊(ぶたい)運営(うんえい)は、まだ無理だと判断(はんだん)したためである。

 それから三日後の午後すぎ。

 予定よりもかなり(おく)れて、ようやく貴族連合軍と対峙(たいじ)した。

 徴兵(ちょうへい)された傭兵たちは、いやいや(したが)っている様子(ようす)遠目(とおめ)でも判断(はんだん)できるほどのありさまである。

 最前線に配置(はいち)された傭兵たちは、あからさまに前進することを(いや)がっている模様(もよう)で、後方で貴族と(おぼ)しき騎兵(きへい)たちが(さか)んに()()していて、追い立てるようにして前進を声高(こわだか)連呼(れんこ)していた。

(これなら楽勝(らくしょう)そうですね。油断(ゆだん)禁物(きんもつ)ですが)

 私がそのように考えていた時、それは突如(とつじょ)として()こった。

 最前線の中心(ちゅうしん)付近(ふきん)にいた傭兵の一人が(さけ)んだのだ。

「やってられるか!! 俺たち平民のための都市を守る軍隊と、本気で戦えるわけがないだろう!! 俺はもう()めた!! みんなもさっさと()げ出そうぜ!!」

 そう言って、武器を地面に(たた)きつけ、手早(てばや)く防具も()()って、こちらに走ってきた。

(これはチャンスです!)

 私はそのように素早(すばや)判断(はんだん)(くだ)し、手早(てばや)く部隊長たちに連絡を飛ばす。その指示に(したが)い、前線の各部隊から投降(とうこう)()びかけ始めた。

投降(とうこう)しろ!! 武器を捨ててこちらに()げてくるのなら、こちらからは攻撃しない! 当面(とうめん)の宿泊先として宿屋(やどや)公費(こうひ)で無料開放するし、移住を希望するものには一時金を与え、しばらくの間の生活を保障(ほしょう)する! これは、ガイン家の初代様のお言葉だ!!」

 前線で連呼(れんこ)される投降(とうこう)()びかけに、雪崩(なだれ)()ったように次々と傭兵たちが武器を捨て始めた。

 こうして、一度も戦うこともなく、誰一人として血を流すこともなく、貴族連合軍との戦いは勝利で終わった。

 貴族たちから見れば、戦う前に敗北してしまったわけで、このありさまを見せつけられた貴族たちの間で、以下の(よう)なことが(ささや)かれるようになった。

「平民を使ってガインの町を()めるのは無理だ。それを押し通すとなれば、大規模(だいきぼ)反乱(はんらん)想定(そうてい)しなくてはならないだろう」

 そうして、ガインの都市は、次第(しだい)に手出し無用の土地として認識(にんしき)されるようになるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ