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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第七章 ガイン自由都市

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第116話 エストの横顔

 私の名前はエスト。エスト・ウル・ガインです。

 おじい様が作った領地、通称ガインの都市の三代目領主をやっています。

 私にとって、そのおじい様は小さな(ころ)からの自慢(じまん)でした。

 どんなにささいな質問をしても丁寧(ていねい)にかみ(くだ)いて説明してくれるその姿が、とても知的で格好(かっこう)()く見えたのです。

 私もおじい様みたいな人になりたいと、言葉遣(ことばづか)いを真似(まね)しているうちに丁寧(ていねい)口調(くちょう)が身につきました。

 おじい様の子供時代を真似(まね)すれば、あのように立派(りっぱ)な人物に成長できるのだろうかとも考え、幼少時代の話を()り返しねだってもいました。

 まあ、そのうちに、森の(かく)れ里のお話そのものが面白(おもしろ)くなっていったのですが。

 少し成長すると、学校の勉強も頑張(がんば)るようになり、卒業後にもおじい様から直接教わって勉強を続けていました。

 私がどんなに勉強しても、おじい様の知識は()きることがありませんでした。

 そのうちに疑問(ぎもん)に思うようになったのです。おじい様のあの知識は、いったいどこで身に着けたものなのかと。

 おじい様に聞いてみますと、少し目を(およ)がせながら、故郷で学んだものだと答えてくれました。

 ですが、私はその返答に納得(なっとく)できませんでした。

 だって、そうですよね?

 小さい(ころ)から()り返し聞いていたおじい様の里の様子(ようす)を考えれば、あのような高度な知識を(まな)べるはずがないのですから。

 ですが、聞かれたくなさそうな雰囲気(ふんいき)を感じ取りましたので、それ以上の追及(ついきゅう)はしませんでした。

 後になって気づいたのですが、このことは、かなりの英断(えいだん)だったと感じています。

 そして、あるときに気づいたのです。ひいおばあ様に聞いてみればいいのだと。

 おじい様の小さい(ころ)に母親として()()っていたひいおばあ様であれば、あの知識の秘密(ひみつ)を知っているかもしれないと考えました。

 そして、妻のローズと共に二度目の森の(かく)れ里を(おとず)れた時、そのチャンスが(めぐ)ってきました。

 家族で狩りに出かけようとすると、おじい様は少し別の用事があるからと、同行を(ことわ)ってきたのです。

 おじい様がいない間にと、ひいおばあ様に聞いてみました。

 おじい様のあの知識は、どこで身に着けたものなのですか、と。

 おじい様は故郷で(まな)んだと言っていましたが、ここではないですよね、と。

 そうすると、ひいおばあ様は、微笑(ほほえ)みながら真相(しんそう)(かた)ってくれました。

「あやつにはの、故郷が二つあるのじゃよ」

 おじい様のもう一つの故郷? それはいったいどこなのでしょうか。そう思い、聞いてみますと、ひいおばあ様は右手の人差し指を上に向けました。

「それはの、あそこじゃよ」

 指さす方向を見上げても、()(わた)った空しか見えません。

 しかし、その後、ある(ひらめ)きを得たのです。空の上にある故郷とは、と。

 私が思わず、まさか……、と声に出しますと、ひいおばあ様はウンウンと(うなず)いてから教えてくれました。

「あやつの知恵(ちえ)は生まれる前からのものじゃ。そして、あのような知恵(ちえ)(まな)べる場所など、神々の住処(すみか)しかあるまい?」

 なんということでしょうか!

 私のおじい様は(すご)い人だと思っていましたが、私なんかの想像を(はる)かに()えた人だったようです。

 言われてみれば納得(なっとく)もしました。

 おじい様の種族、アルク族の先祖返りは、神話の時代において神々と共に地上で()らしていたと聞きました。

 残念ながら、神々は地上から姿を消されてしまいましたが、今も先祖返りの人たちは神々と共に()らしているのだとしたら。

 その場合、その住処(すみか)は天上の世界しかあり()ません。

 そして、そのような場所から地上に(つか)わされたおじい様は、真に正しい意味での神の御使(みつか)いだったのです。

 きっと、神々の知識を、この地にもたらすために(つか)わされたのでしょう。

 おじい様がその知識の出どころを(かく)そうとするのも、何か神々との約定(やくじょう)があるのかもしれません。

 これは、随分(ずいぶん)と後になってからのことになるのですが、私はある時、おじい様にその知識はどこで身に着けたのですかと聞いたことがあります。

 どんな言い(わけ)をするのか、ちょっと楽しみで、意地悪(いじわる)をしてしまいました。

 そうすると、おじい様は目を(およ)がせながら、貴族しか買えない本から得た知識だと答えました。

 そんなはずはありません。

 貴族たち、いえ、この国のどこにも、おじい様のような知識を持っているものは存在しないのですから。

 ですが、これ以上は神々との約定(やくじょう)()(はん)してしまいます。

 私はさも納得(なっとく)したように返答したのでした。

 衰退(すいたい)を続けている我々人類を神々が(あわ)れんでくださって、その知識の一端(いったん)(さず)けるように、おじい様に命じてくださったのでしょう。

 そう考えれば、おじい様が領地をもらうとすぐに学校を作ったのも納得(なっとく)です。

 神々から見れば貴族も平民も関係がないのですから、人数の多い平民に積極的(せっきょくてき)に知識を広めていこうとしたのでしょう。

 私は今でも、ヒム族に生まれてきたことを残念(ざんねん)に思っています。

 もっと長い寿命(じゅみょう)が欲しかった。

 そうすれば、いずれおじい様が作られるであろう地上の楽園(らくえん)を、この目に(おさ)めることもできたでしょうに。

 ですが、ないものをねだっても仕方(しかた)がありません。

 私ももう四十六歳ですから、これからは健康(けんこう)に気を付けて、少しでも長生きしたいと思っています。

 これからも続くであろうおじい様の活躍(かつやく)を、少しでも長く(そば)で見続けられるように。


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