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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第六章 初代様

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第109話 二度目の恋

 島の里を二度目に(おとず)れてから、数か月が経過(けいか)していた。

 当初の予定ではもう帰っているはずだったのだが、里のみんなやクリスさんに引き()められていて、ずるずると滞在(たいざい)日数(にっすう)延長(えんちょう)していた。

 結局、エダマメが食べられる時期になるまで滞在(たいざい)してしまっていた。

 私はいつものようにクリスさんの小屋(こや)(おとず)れ、会話を楽しんでいた。

「ヒデオ様、エダマメの塩ゆではとても美味(おい)しいですね」

 クリスさんはとてもいいニコニコ笑顔(えがお)で話し続けている。

「ええ。止まらない美味(おい)しさですよね」

 私は少し苦笑(くしょう)(まじ)えながら注意をする。

「エダマメはとても美味(おい)しいのですが、食べすぎてしまって、来年の分のダイズがなくならないように注意してくださいね」

 私と共にいられる時間が増えたためなのか、最近のクリスさんはすこぶる機嫌(きげん)がよく、いつも笑顔(えがお)になっていた。

 毎日、とても(うれ)しそうなクリスさんには(もう)(わけ)ないのだが、さすがにそろそろ帰らないと、家族が心配してしまう。

「クリスさん、大変(たいへん)(もう)(わけ)ないのですが、連絡もせずにずっと滞在(たいざい)してしまっては、家族が心配してしまいます」

 私がそう切り出すと、クリスさんは若干(じゃっかん)顔を(くも)らせながら確認をしてきた。

「でも、今回の滞在(たいざい)では、余裕(よゆう)を見て日程(にってい)を組んでいるのですよね?」

「そうなのですが、さすがに延長(えんちょう)しすぎています。もう帰還(きかん)しませんと……」

 クリスさんはエダマメに()ばしていた手を止め、真面目(まじめ)な表情になり、二度目の求婚をしてきた。

「ヒデオ様、私と夫婦(めおと)になりましょう。ずっとここで、楽しく幸せに()らすのです」

 私は目をつぶり、しばらく考えを(めぐ)らせてから返答をする。

魅力的(みりょくてき)提案(ていあん)ではあるのです……。ですが、やはり、私は夢を捨てきれません。返事は待ってもらえませんか?」

「その夢は、どの程度(ていど)の時間がかかる見込(みこ)みなのですか?」

「早くても、後二百年といったところでしょうか?」

 クリスさんは少し(さみ)しそうな顔をした後、一つ(うなず)いてから了承(りょうしょう)の返事をしてくれる。

「私も寿命(じゅみょう)が長いのです。ヒデオ様の夢が成就(じょうじゅ)するまで、ずっと待っていますね……」

 そして、また鼻をぷくりと(ふく)らませ、ふんすーっと、鼻息(はないき)(あら)くしながら宣言(せんげん)をする。

「でも、私はただ待つだけの女には絶対になりませんよ? いつか必ず、ヒデオ様を篭絡(ろうらく)してみせますとも」

 私は少し微笑(ほほえ)みながら、それに返答をする。

「それは、少し(こわ)いですね……。クリスさんほどの美女に篭絡(ろうらく)されてしまうと、私は(ほね)()きにされてしまいそうです」

 クリスさんも微笑(ほほえ)みながら、それに(おう)じる。

「ええ、(ほね)()きにして差し上げます。覚悟(かくご)しておいてくださいね」

 私たちは、しばらくそうやって微笑(ほほえ)み合いながら語り合った。

(なんだかんだで、私の夢を応援(おうえん)してくれて、ずっと待ってくれるなんて、健気(けなげ)可愛(かわい)い人です。なんだか、ドキッとしてしまいそうになります。これは、本当に、篭絡(ろうらく)されてしまうかもしれませんね。しかし……)

 私はそのまま考えを進め、そこで初めて、自分の(かく)された本心に気づき始める。

(いつか、全てが終わって楽隠居(らくいんきょ)するとしたら、やはり、私の里で()らしたいですね。祭司長様とずっと二人で……)

 ここで、思わずハッとなる。

(え? ずっと二人で、ですか?)

 私はこの時になって、ようやく、心にずっと引っ()かっていたモヤモヤの正体に気が付いた。

(もしかして、私は、祭司長様を母ではなく、一人の異性(いせい)として愛しているのでしょうか?)

 心の中でだけ、頭を()って否定(ひてい)しようとする。

(しかし、祭司長様は、私を異性(いせい)としては見てくれないでしょうね……)

 私を小さい(ころ)から一番見守ってくれたのが、(ほか)ならぬ祭司長だ。彼女は、私を息子(むすこ)としては愛してくれるだろうが、(おっと)として意識してもらえるとは到底(とうてい)思えない。

 こうして、ようやく自覚した私の二度目の恋は、(にが)い思いから始まることになる。

 私が思わず少し(にが)い顔をしてしまったのを、クリスさんは別れを()しんでいると解釈(かいしゃく)してくれたようで、特に不審(ふしん)がられはしなかった。

 その後、再び数年おきに訪問(ほうもん)する約束をクリスさんと(むす)びなおし、私は数日後になるとガインの町への帰路(きろ)についていた。


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