表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第六章 初代様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/159

第104話 モヤモヤ

 ここ数日、クリスさんと一緒(いっしょ)の時間が増えていた。

 私もそこまで朴念仁(ぼくねんじん)ではないので、彼女が私に好意を()せているのには気づいていた。里のみんなにも彼女の恋心はバレバレの様子(ようす)で、むしろ応援(おうえん)されているようだ。

「食材の調達(ちょうたつ)なんかは我々がやっておきますので、祭司長様は、森の祭司様をおもてなししてあげてください」

 そのように言われて、できる限り二人きりになれるように仕向(しむ)けられていた。

 私はもう百歳を()える年齢になっているのだが、肉体的、精神的にはまだ若い男性であると思っているため、クリスさんのような美女に思いを()せられるのは、とても(うれ)しいことだ。

(クリスさんであれば同じ先祖返りです。寿(じゅ)(みょう)については考えなくてもいいので、お付き合いしてみましょうか)

 そう思っているはずなのに、なぜか胸がモヤモヤしてしまう。

(女性から告白(こくはく)させるのも失礼でしょうから、私からお付き合いを(もう)()むのがいいはずなのですが……)

 お付き合いを(もう)し出ようとすると、どうしても胸に引っかかりができてしまい、なぜかできない。

(この胸のモヤモヤは、いったい何なのでしょうか?)

 そのように考え、心の中でだけ何度も首を(かし)げながら、クリスさんとの雑談(ざつだん)を楽しんでいた。

 この時はまだ、私はそのモヤモヤの正体(しょうたい)に全く気づいていなかった。

「もう里のだいたいの場所は回ってしまいましたね。ヒデオ様、今日はどのようにして過ごしましょうか?」

 毎食のようにクリスさんに食事に(さそ)われるので、今では自分から彼女の小屋(こや)(かよ)うようになっていた。

 その食事の席で、彼女はとても(うれ)しそうに顔を(ほころ)ばせながら、今日の予定を(たず)ねてきた。

「そうですね……。今日は、ここでお(しゃべ)りをして過ごしましょうか」

「それは楽しそうですね! 私、ヒデオ様とずっとお(しゃべ)りしていたいです」

 クリスさんは、さらに(かがや)くような笑顔(えがお)を向けてきた。私はそれが少し(まぶ)しくて、思わず目を細めて微笑(ほほえ)みながら今日の話題について語る。

「私の里については今までの会話にちょくちょく出てきましたので、今日は、私の領地についてお話しましょう」

 私がそう言うと、クリスさんは少し首を(かし)げながら質問してきた。

「ヒデオ様は、王国の貴族なのですか?」

 私は軽く(うなず)いてから、その経緯(けいい)について語る。

「私は王国で傭兵をしていた時期があるのですが、そこで少し武勲(ぶくん)を立ててしまいまして……。その褒美(ほうび)として、ガイン村という小さな村を領地としてもらったのです」

 私のそんな説明に対し、クリスさんは少し目を(かがや)かせながら確認を取る。

「では、ヒデオ様は領主様なのですね」

 私はそれに微笑(ほほえ)みを返し、軽く頭を()りながら返答する。

「今は、もう領主ではありませんよ?」

 クリスさんは、少しだけあれ? といった表情になり、さらに質問を重ねる。

「では、領地はどうなったのですか?」

「とっくに息子に領主を(ゆず)り、今は孫が……」

 私がそこまで口に出すと、クリスさんは突然(とつぜん)目を見開き、会話を(さえぎ)って私を問いただし始めた。

「ちょ、ちょっと待ってください! 今、何とおっしゃいました?」

 私は、どうしたのだろう? と思いながら、返答を続ける。

「ですから、とっくに息子に領主を……」

 再び私の話を(さえぎ)って、突然(とつぜん)、クリスさんがヘナヘナと(くず)れ落ちた。

「そ、そんな……。ヒデオ様には、もう(すで)に奥様がおられたのですね……」

 その言葉で、彼女が何を勘違(かんちが)いしているのかを(さと)った私は、安心させるべく、できるだけ優しい口調(くちょう)心掛(こころが)けながら説明を続ける。

「クリスさん、誤解(ごかい)です。私に妻はいませんし、血を分けた子供もいません」

「で、でも、今、息子がいると、確かに(おっしゃ)いましたよね!?」

 必死な様子(ようす)のクリスさんを(なだ)めるために、私は微笑(ほほえ)みを深めながら言葉を続ける。

実子(じっし)ではありません。養子(ようし)ですよ」

「そうなのですか?」

 やっと少し落ち着いたようで、顔色も良くなってきたクリスさんが説明を求めた。

「私の寿命(じゅみょう)では、半永久的に領主をしなければならないと気づいたので、親友の夫婦に(たの)んで養子(ようし)になってもらったのです」

「では、今、思いを通わせている女性は……」

「いませんよ」

 私が間を置かずにきっぱりと否定すると、クリスさんはいきなり立ち上がり、右手で(にぎ)(こぶし)を作って宣言(せんげん)した。

「では、私がヒデオ様の妻になることもできますね!!」

 ふんすーと、鼻息(はないき)(あら)宣言(せんげん)した彼女は、今、自分が何を口走ったかをしばらくして理解したようで、ワタワタとしながら言い(わけ)を始めた。

「あっ! い、今のはですね、あの、その……」

 そう言って真っ赤になっているクリスさんの様子(ようす)がとても可愛(かわい)らしく見えてきて、私は思わず笑いだしていた。

「もう! 笑うだなんて、ひどいですわ!!」

 そっぽを向いてしまったクリスさんに、私は右手を口に当てて笑いをこらえながら(なだ)めてみる。

「すいません……。クリスさんが、あまりにも可愛(かわい)らしかったので……」

 私が少し(かた)(ふる)わせながらそう言うと、クリスさんはそっぽを向いたまま、頭から湯気(ゆげ)が出そうなほど顔を真っ赤にして(つぶや)いた。

「か、可愛(かわい)い……。私、可愛(かわい)い……」

 そう()り返しながら、にへらーっと、だらしなく笑った顔で、彼女はしばらく夢の世界の住人になっていた。

 よだれが()れているのは、言わぬが花だろう。

 そんな様子(ようす)を、私はずっと微笑(ほほえ)んだまま(なが)めていた。

 かなり時間をかけた後に現実世界に帰還(きかん)した彼女と、ガイン村が今は町になっている様子(ようす)などをずっと語り()かして、その日は過ぎていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ