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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第六章 初代様
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第100話 クリスさんとの出会い

 それからしばらくが経過し、私は王国の南西部にあるエルベという小さな漁村(ぎょそん)へと到着していた。

 その近辺(きんぺん)に住んでいる漁師(りょうし)の一人にお金を払って頼んでみた結果、(こころよ)く小舟を出してくれて、そのまま島アルクの里へと進んだ。

「こんな辺鄙(へんぴ)な場所にある村じゃあ、現金収入は貴重(きちょう)なのでいつでも歓迎(かんげい)しますぜ」

 漁師(りょうし)らしい日に焼けた()りの深い顔のその男性は、その間の雑談(ざつだん)としてこのように言って私を歓迎(かんげい)してくれていた。

 やがて目的の島にたどり着くと、私はその漁師(りょうし)さんにお礼を言って手を()りながら分かれた。

 さて、どちらに進むべきかと(なや)みながら海岸(かいがん)線沿(せんぞ)いを歩いていると、そこで投網(とあみ)(りょう)をしていた島アルク族の男性に、とても(おどろ)いた顔をして話しかけられた。

「あなた様は、もしかして森の祭司長様ですか?」

 私の特徴的(とくちょうてき)な耳を見ながら質問してきたその男性に対し、私は軽く頭を()りながら正解を()げる。

「いえ。私の里の祭司長様は別の女性になります。私は祭司と呼ばれていますね」

「なんと! 森の同胞(どうほう)の里には、先祖返り様がお二人もおられるのですか。それは、(うらや)ましい限りですね」

「ただ、私の里でも、先祖返りが同時に二人いる時代はかなり(めずら)しいようですが」

 私がそのように返答すると、その男性はある提案(ていあん)をしてくれた。

「ぜひとも、我々の里にしばらく滞在(たいざい)していただけませんか?」

 そのように言われたため、許可していただけるのであれば、こちらからお願いしますと返答した。

 そうすると、とてもいい笑顔になったその男性は、まずは祭司長様に紹介(しょうかい)しますねと言い、彼の案内(あんない)で島アルクの里へと向かい始めた。

 やがて到着(とうちゃく)した島アルクの里は、小屋(こや)の作りなど、私の里と同一な部分も多かったのだが、ところどころで魚の干物(ひもの)を作っている様子(ようす)見受(みう)けられた。

 この里では私の里と違い、食料を保存しておくという習慣(しゅうかん)があるらしい。もしかすると、私の里よりも食料の入手が少し不安定になっているのかもしれない。

 里の中を歩いていくと、私を見かけた里の住人たちが、全員、とても(おどろ)いた顔になって()り返り、二度見していた。

 私を案内(あんない)して歩いている彼が、少し笑い顔になりながらその一人一人に丁寧(ていねい)に説明を加えてくれる。

「これからこのお方を祭司長様に紹介(しょうかい)してくるので、里のみんなに連絡(れんらく)して、中央の広場に集まるように」

 そのように何度も()り返している彼に案内されていくと、やがて里の中央部の少し開けた場所に到着(とうちゃく)した。このあたりの里の作りは私の里と同一のようだ。

 その奥の部分に()っている、他よりは少しだけ立派(りっぱ)な作りの小屋(こや)の前へと進んだ。

「祭司長様、ロクスです。とても(めずら)しいお客人(きゃくじん)をお()れしました」

 その後、小屋(こや)から出てきた先祖返りの女性は、(きぬ)のような細く(かがや)金髪(きんぱつ)に青い(ひとみ)で、()けるような白い(はだ)をしたとても美しい人だった。

(おお、これぞ正にエルフ、といった感じの女性ですね)

 私が心ここにあらずといった様子(ようす)で思わず見とれていると、ロクスさんからの紹介(しょうかい)が始まっていた。

「祭司長様、こちらは森の同胞(どうほう)の祭司様です。しばらく我々の里に滞在(たいざい)していただけるようですので、私は里のみんなに、(うたげ)の準備をするように伝えてまいります」

 ロクスさんはそう言うと、そそくさといった様子(ようす)でこの場を立ち去った。

 私にはそちらを気にする余裕(よゆう)がなかったのだが、かなり後になって聞いた話によると、この時のロクスさんは、とても微笑(ほほえ)ましいものを見ている顔をしていたのだとか。

 おそらく、彼なりの気遣(きづか)いによって、島の祭司長と二人きりになれるようにしてくれていたのだろう。

 私は(おどろ)いた表情のまま固まっていて、まじまじと見つめていると、島の祭司長は左の(ほお)に手を当てて(うつむ)き、顔を赤くしながらモジモジと()じらうようにして語り()けてきた。

「あの……、私の顔に何かついていますでしょうか?」

 そこでやっと(われ)に返り、私も同じように視線(しせん)を下に向けて自己(じこ)紹介(しょうかい)を始める。これを見ていた島の里のみんなによると、この時の私は顔を真っ赤にしていたそうだ。

「これはすいません、島の祭司長様。あまりの美しさに、思わず見とれてしまっていました。私は森の祭司です。しばらくご厄介(やっかい)になろうと思っておりますので、どうかよろしくお願いいたします」

 私が謝罪(しゃざい)()じりになりながらもそのように挨拶(あいさつ)すると、島の祭司長は両頬(りょうほお)に手を()え、(うつむ)き加減のまま顔をさらに真っ赤にしながら語った。

「まあ……。森の祭司様はお上手(じょうず)ですね。私はこんなにも白い(はだ)で、髪の色も(ひとみ)の色もありふれたものですのに」

 そんな彼女の返答に、私は思わず力を()めて説明を始めていた。

「人の美醜(びしゅう)の判断は、地域によっても(こと)なるものなのですよ?」

 私がそう言うと、島の祭司長は顔を上げ、少し(おどろ)いた表情になりながら確認を取る。

「そうなのですか?」

 私は大きく(うなず)きを返し、あなたは美しいという意味になってしまうような内容を、考えなしに力説(りきせつ)していた。

「ええ。失礼(しつれい)かもしれませんが、私の里でも、私や島の祭司長様のような顔はありふれたものではあります。ですが、私は王国に住んでいる時間が長くなってしまったためなのか、王国の価値観(かちかん)にかなり()まっているようです」

 そんな私の説明に対し、島の祭司長はなぜか少しだけ不安げな表情になって(たず)ねてきた。

「では、森の祭司様も、王国ではモテるのでしょうか?」

 私はそれに微笑(ほほえ)みを返しながら否定(ひてい)をする。

「まだ若かった(ころ)には、そのような時期もあったような気もします。ですが、最近では、寿命(じゅみょう)(ちが)いすぎることをみんな理解してしまったのか、全くモテなくなりましたね」

 私がそう言うと、島の祭司長は少し息を()き出し、安心したような表情を見せている。

 私はこのタイミングで、とある質問をしてみることにした。

「ところで、島の祭司長様。あなたには、自分でつけた名前があるのですか?」

 突然(とつぜん)の話題変更に(おどろ)いたのか、彼女は目をぱちくりとさせてから返答をする。

「それはございますが、なぜ、そのようなことをお聞きに?」

「祭司長様とお呼びしますと、私の里の祭司長様と混同(こんどう)しそうだからです。ですので、もしよろしければ、名前で呼ばせていただく許可をもらいたいのです」

 私が微笑(ほほえ)みながらそのように説明すると、彼女は今日一番の(かがや)くような笑顔(えがお)()げた。

「そのような(うれ)しい提案(ていあん)をされたのは、生まれて初めてです。私の名前はクリスと(もう)します。そして、私も、森の祭司様をお名前でお()びしてもよろしいですか?」

 私も笑顔(えがお)になって大きく(うなず)きを返し、名前を告げる。

「ええ、もちろんです、クリスさん。私の名前はヒデオといいます」

「では、ヒデオ様。これから、末永(すえなが)く、よろしくお願いします」

 思わず目を細めてしまうほどの美しすぎる笑顔のまま、クリスさんはなぜか、「末永(すえなが)く」の部分をかなり強調して挨拶(あいさつ)を終えた。


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