逃がしません
「親分、先日はひどい目にあいやしたね」
「まったくだ。 あのガキ、でたらめな強さしやがって……。 おかげで大したもの奪えなかったぜ」
村を襲った盗賊の首領が酒を飲みながら愚痴をこぼす。 奪ったものの量に対して自分たちの被害が大きく割に合わなかったのだ。
「たとえ俺らが100人束になってかかっても勝てる気がしねぇですよ……。 例の魔眼狩りどもから買い取った魔石でも太刀打ちできなかったし」
「ちっ、別の村を襲うしかねぇな。 国の兵どもも嗅ぎつけるころだ、明日の朝には拠点を移すぞ」
「へいっ」
首領が酒を口に運ぼうとしたその時、笛の音が響いた。
「敵襲だー!」
「くそが、思ってたよりも早かったな。 敵の数は!?」
「敵の数は4人です!」
「はっ、ずいぶんと舐められたものだな! 負傷しているとはいえ数はこっちのほうが上だ。 魔石でとっとと片付けろ!」
「それが思った以上に敵が手強く……! あの剣士の仲間かもしれません!」
「親分、もしそうなら勝ち目ありやせんぜ! ここは逃げましょう!」
「仕方ねぇ、暗闇に乗じてずらかるぞ! すぐ動ける奴はついてこい!」
「へい親分!」
盗賊たちが逃亡してから数分後
「はぁ、はぁ、多少は距離を取れたか……。 おい、無事なのは何人だ?」
「1、2、3……全員で10人です!」
「これだけか……。 しばらく身を潜めて大人しくするしかないか」
「どこで大人しくするつもりなのか、お話聞かせてもらえますかおじさま方♪」
「なっ!?」
盗賊たちの拠点を襲撃してすぐ、私はソレイユにーさまたちと別行動を開始した。
魔眼……千里眼の力で首領たちが逃げることがわかっていたので、先回りして待ち伏せしていたのだ。
ソレイユにーさまたちならすぐ追いついてくれるでしょう。
「こ、このガキいつの間に……!」
「最初っからここにいましたよ。 そちらが自分から来ただけのことです」
「あいつらの仲間か。 へへっ、ちょうどいいや。 お前を人質にしてあいつらを返り討ちにしてやらぁ!」
盗賊の1人が私に向かって突っ込んでくる。 はぁ、動きが単調すぎて魔眼も魔法も使うまでもないです。
「よっと……」
「ぶへぇ!?」
横へ避ける際に足を引っかけてあげたらド派手に転びました。 うわぁ、痛そう。
「あはは、ごめんなさい。 そんな思いっきり転ぶとは思いませんでした」
「てめぇ、ガキだからって容赦しねぇぞ!」
「その魔石使って大丈夫ですか?」
「あぁ!?」
「ここは森の中。 そんなところで炎の魔石を使えばおじさま方も火傷じゃすまないですよ?」
「お前、なんでこの魔石の属性を……!」
「他の魔石にしたらどうです? おじさま方が持っている属性は水、風、土……。 まぁ、すぐ使わないところからしてそちらは味方を巻き込みかねない威力のようですね」
「何者だ、お前……! なぜ見てもないのにそんなことまで……!」
「いいえ、”視ました”よ。 私がここで死のうがしまいが、おじさま方が捕まることは決定事項なようなので諦めて捕まってください」
「くっ、魔石が使えなくてもたかがガキ1人だ。 お前ら、力づくて押さえつけるぞ!」
うーん、結局こうなりますか……せっかく忠告してあげたのに話を聞かない人たちですね。
面倒くさいですが、村人の方にひどいことをした分、痛い目を見てもらいましょうか。