8th Stage
マンションの自宅では、俺がテーブルに向かって配信コントライブ用の台本をネタノートから書き下ろしている。週末のリアルイベントがウィルス禍によりキャンセルとなっているので、この日の午後からは昨日と同じスタジオに入ってリハーサルを行う予定だ。
今回の配信ライブは自分たちのCeroTubeチャンネルと異なり、視聴者がお金を払って視聴する有料配信となっている。それ故に、いつものコントライブとは一味違う内容にしようと考えている。
「新作の台本もいくつかできたけど、笑いを追求するにはアドリブを交えないと面白くないなあ」
今回のコントライブは、90分間で新作を含めて10本を予定している。コントの尺は、内容によって5分程度から15分を要するものまで様々だ。
コントで行う演出を思案していると、青田と黄島が俺のいるテーブルのそばへやってきた。こちらから演出の意図を伝えようと、俺はコントの内容を簡潔に描いたイメージイラストを2人に手渡した。
「基本的な立ち位置はここに描いた通りだけど、リハーサルで行う稽古の内容によっては少し修正するかもしれないので……」
全てのコントの脚本と演出を行う俺だが、メンバーの意向を無視して押しつけるようなことはしたくない。なぜなら、俺たち3人は同じ屋根の下で生活をともにしているからだ。
演出の指示を終えると、青田がスマホのニュース画面を俺に見せながら気になる一言を口にした。
「ネットオークションに盗品っていうのは……」
スマホの画面には、ネットオークションで購入した物が盗品ということでトラブルになっている記事が載っている。
「不自然な出品には手を出さないほうがよさそうだな」
ニュースの記事を見てうなずいていると、新たな記事が画面に表示された。そこには、サンニンビンゴの松森が自転車の盗難に遭ったことが記されている。
俺は自らのスマホを取り出すと、松森個人のSNSをすぐにチェックした。画面を見ると、予想以上に怒りに満ちた松森の書き込みが目に入った。
「怒怒怒怒怒! あたしの大事な自転車、よくも盗みやがって! 早く返せ! 早く返せ!」
生命と同じくらい大事なものだけに、当事者が犯人に対する怒りの感情が噴出するのも無理はない。SNSやブログなど自らが発信する手段を持っているだけになおさらだ。
そこで、松森に事の真相を聞こうとSNSのダイレクトメールでお願いすることにした。すると、松森のほうからMOOZYを使って話したいと快い返答が返ってきた。
応接間のソファで俺たち3人が揃ってノートパソコンの画面を覗くと、サンニンビンゴの松森が自分の顔をアップさせるように現れた。そこで、松森は盗まれた自転車について新たな情報を伝えてきた。
「さっき、ナビゲオクというネットオークションサイトを見たら、あたしの自転車と全くそっくりなのを見つけたけど」
俺のスマホからナビゲオクを開いてみると、その中に松森が所有していたのと同じ自転車が出品されているのを発見した。
「これか?」
「これです! これで間違いないわ!」
松森は、俺が送付した出品情報のWEBアドレスで自分の所有物だと再確認した。俺は、この自転車を出品した者へこの件についての質問メールを送った。