7th Stage
梅雨空に覆われる中、俺たちは収録のために朝早い時間から都心に近い配信専用スタジオへやってきた。今日は、3人が揃って出演する『シンゴーキのスリーショット』の収録日だ。
この番組の収録は、4月の初めに行ってから2カ月ぶりとなる。前の月はウィルス禍で収録がダメになったので、翌日配信分を含む今月と来月の9回分を今日中に収録しなければならない。
「お久しぶりです」
「いいえ、こちらこそ。ここへ入る前に手指の消毒をお願いします」
手指の消毒をしてからスタジオに入ると、固定されたセットに2枚のアクリル板で仕切られているのが目に入ってきた。このスタジオに入れるのは4人までしか入れないので、放送作家の坂塚は会議室で待機ということになった。
スタジオ内には、俺たち以外に配信番組のカメラ撮影を行う映像スタッフの峰渕がいる。もちろん、この4人の全てがウィルス感染防止のためにマスクを着用しているのは言うまでもない。
俺たち3人がマスクを外すことができるのは、アクリル板で仕切った定位置に座った時だけだ。そうするうちに、9本撮りという前代未聞の収録がついに開始された。
「この番組、実は昨日収録されたばかりでねえ」
1本目の番組収録が始まると、オープニング直後のトークで盛り上げようとテンションが高まっている。それに続く形で、今回のウィルス禍で耳にした言葉について3人がそれぞれ意見を交わしている。
「アマビエでウィルス終息というのが新聞やテレビなどで目につくけど、21世紀になっても非科学的なものがまかり通るのはいかがなものかと」
「じゃあ、アマビエというのは非科学的ということ?」
「科学的なことを信じようとしない人が多いとか」
「昔だったらまだわかるけど、もう21世紀ですよ! アマビエでウィルスが完全に消えるなんて絶対にあり得ないよ!」
こうして、1本目の収録は激論に次ぐ激論で幕を閉じた。この後も、テレビやラジオのリモート出演の話やシンゴーキチャンネルの自転車企画の話などバラエティに富んだ内容で番組収録が順調に進んでいった。
「お疲れさまでした」
これで、6時間にもわたる9回分の収録がようやく終えることになった。時計の針は、もうすぐ午後2時半になろうとしている。
別室で昼食の弁当を食べ終えると、同じ階にある別のスタジオに向かった。これから行うのは、俺たちによる配信コントライブのリハーサルだ。
すると、そのスタジオからマスクをつけた先客が出てきた。その顔は、田野長市のCeroTubeチャンネルの初回にリモート出演した芸人とそっくりだ。
「シノマさん!」
俺はマスク越しに相手へ声を掛けたが、シノマはそれを耳にすることなくスタジオからそそくさと去って行った。その姿を見て、俺たちは違和感を覚えずにはいられない。
「シノマって、そんなに仕事があったっけ?」
「無観客のオンラインライブの仕事はあるんじゃないかな」
「お笑いスクールの講師を行っているという話は聞いたことがあるけど」
シノマは俺たちと違う事務所に所属しているし、お笑い芸人としての交流はあまりないのは確かだ。そんな俺たちだが、自転車という趣味を持つことでシノマと接点を持つことになるだろう。
そんな中、俺たちは気になるニュースを目にすることになって……。