6th Stage
自転車走行の動画撮影を終えた俺たちは、集合場所の公園から自宅マンションの地下駐車場へ帰ってきた。住処へ戻ったら、メンバー3人がそれぞれ撮影した映像への声入れを行わなければならない。
これは、自転車からの走行動画を担当メンバーごとに声を入れるというものだ。ナレーションと言ったほうがもっと分かりやすいだろう。
いつもの場所へ自転車を置いて鍵を施錠すると、青田が俺の耳に小声で話しかけてきた。
「ここへ戻る途中なんだけど……」
「どうしたんだ」
「電柱から誰かに見られているような……」
この界隈には、お笑い芸人をはじめとする芸能人が少なからず居住している。もちろん、住んでいる場所はピンからキリまで様々だが……。
それ故に、自らが犯罪に巻き込まれてしまう可能性はないとは言い切れないだろう。
スマホを取り出すと、俺はすぐにポータルサイトのトップページに載っているニュースをチェックした。その中で、どうしても気になるニュースに目が留まった。
「テレワークによる在宅勤務中の窃盗が増加しているということか」
地下駐車場には、不審者の侵入を防ぐために防犯カメラが設置されている。けれども、防犯カメラで捉えることができない死角も存在するので万全とはいえない。
「自転車が盗まれないようにU字ロックも取りつけたほうがいいぞ」
「シリコンカバーがついているのもあるから」
俺は、青田と黄島からの忠告にじっと耳を傾けている。せっかく買ったばかりの自転車も、誰かによって盗まれたら元も子もない。
地下駐車場から出てマンション本館へ向かう途中、俺は一旦立ち止まって周りの風景を見回している。ウィルス対策ばかりに目が行って、大事なものを盗難から守ることをおろそかにしてはいけない。
「シリコンカバーつきなので自転車に傷がつきにくいと書いているぞ」
「それじゃあ、3人分まとめて購入するということで」
「1つが2500円か……。出費がかさむけど、こればかりは仕方がないなあ」
マンションの住処へ帰ると、俺たちはノートパソコンを開いてからU字ロックを通販サイトで購入することにした。購入した品物は、遅くても2日後にはこちらへ届くだろう。
それよりも、メンバーごとに撮影した走行動画のナレーションを入れるのを先に行わなければならない。これが終わったら、自転車企画の締めとして俺たち3人がソファに集まって収録することになっている。
同じ屋根の下で暮らす部屋で3人揃い踏みの収録なので、ソーシャルディスタンスもアクリル板も不要なのも大きなプラスだ。もちろん、ウィルスを室内に持ち込まないように細心の注意を払うのは言うまでもない。
ナレーション入りの各々の走行動画は、思わず爆笑してしまうほどの面白い内容となっている。それは、都市の風景がまるで他の惑星か異世界と見違えそうな様相に他ならないからだ。
ソファに座った俺たちは、動画へのコメントを言うたびに爆笑に次ぐ爆笑で笑い過ぎてしまいそうだ。地上波のテレビだったら不謹慎と言われかねないけど、CeroTubeチャンネルならばその心配はほとんど無用だ。
「視聴者から好評だったら、今回の企画の第2弾を行おうかなと考えています」
「シンゴーキチャンネルのチャンネル登録のほうもよろしくお願いします!」
最後に3人揃っての言葉で締めくくると、動画配信に必要な収録が全て終了することになった。ウィルス禍でイベントやライブができない中で、シンゴーキチャンネルの新作動画は俺たちにとっての命綱と言っても過言ではないだろう。




