5th Stage
次の日、俺たち3人はマンションの地下駐車場へやってきた。これから、シンゴーキチャンネルの新作動画撮影を行うために自転車で近くの公園へ向かうところだ。
ヘルメットを着用すると、自転車置き場に置かれた3台の自転車にそれぞれまたがってマンションの外へ出てきた。もちろん、感染防止のために不織布マスクを着けているのは言うまでもない。
道路を進んだ少し先に公園が見えると、隣接する駐車場に1台の車が止まっていた。その駐車場へ自転車を止めると、車の中から女性マネージャーの姿が現れた。
「さっそく、必要な機材を出そうかな」
その声を聞いた途端、久しぶりにマネージャーと顔を合わせることに感激している俺たちがいた。マネージャーと直接会うのは、実に約2カ月ぶりのことだ。
俺たちは、3人で分担してマネージャーの車から出した撮影機材を設置することにした。青田と黄島は、公園内に入って三脚を設置してから撮影用カメラの取りつけようとしている。
この間、俺のほうは3人のヘルメットの頭頂部にカメラを取りつける作業を行っている。こうすることで、運転者視点での走行動画を撮影するのが容易になるだろう。
公園に3台の自転車を入れると、ヘルメットに取り付けたカメラの位置を他のメンバーに確認してから本番の撮影に開始することにした。
「シンゴーキの青信号こと青田すすむで~す!」
「同じく、黄信号の黄島ただしで~す!」
「赤信号で渡ってしまった、赤井しんごで~す!」
「3人揃って、お笑い信号機ことシンゴーキで~す!」
いつもの口上でスタートしたオープニングだが、当然ながらこれまでと同様の撮影ができる状況ではない。
ソーシャルディスタンスを厳守したら、被写体に俺たち3人が入ることができない。このため、俺たち全員がマスクを着用するのはもちろんのこと、3人の定位置についても一定の間隔を取ることにしている。
「最後に外で撮影したのはいつだっけ?」
「2月の終わりぐらいじゃないかな」
「全国の学校に休校要請がなされたのと同じ時期だな」
「本当だったら、きれいな空気を思い切り吸いたいところだけど」
お笑い芸人らしい軽妙なトークでウィルス禍前後のことを3人で語ると、いよいよ本編の自転車企画の概要を伝えようと俺のほうから声を発した。
「今回は、俺たち3人それぞれが自転車から見た風景を自分の言葉で面白く伝えようという企画です!」
「自転車はどこに……」
「3人が乗る自転車はこちらです」
ここで一旦動画撮影を止めると、俺は近くに置いている自転車の見える場所へ動画用カメラを三脚とともに移動させている。動画の撮影は意外と手がかかるものだが、今回ばかりはウィルス感染防止策としてスタッフが参加していないので仕方がない。
「これから、このカメラがついたヘルメットをかぶって自転車に乗ります! これから行く場所は、自転車に乗る本人次第ということで」
「それで、時間のほうは?」
「今回の時間は公園から出てから15分! 途中であっても15分になったら強制終了!」
自転車に乗る時間は制限を設けないが、動画配信が可能な走行動画は1人当たり15分という枠をはめた。時間制限を設けることでいかにして面白く紹介するかが芸人の見せどころだ。
俺は公園から出ると、他の2人と違う方向へ向かって自転車を走らせることにした。車道の左側を少し進んで行くと、街中のビル群が連なる通りが見えてきた。
いつもは自動車や人混みでごった返す場所だが、週末になってもこれらの姿はあまり見かけない。自転車にとっては快適に進む一方で、都会らしい喧騒を感じられないことに一抹の寂しさを感じてしまう。
「こういう場所が自転車でスムーズに行けるのって、今のうちかもしれないぞ」
感染状況が落ち着いたら、自転車で道路をスイスイと乗り回すことができにくくなるだろう。今のうちに自転車を楽しもうと、俺はペダルを漕ぎながら数多くのビルが立ち並ぶ大きな通りを進んでいる。