24th Stage
公演後半のスタートは、リーダーの俺による次の口上から始まった。
「シンゴーキがお送りする『オン&ライン笑』! ここからは、コントよりも楽しみにしている人も多いトークコーナーの時間です!」
すると、青田がこれに反応するようにあの事件のことを話そうとすぐに口を開いた。
「高級自転車を盗んだ犯人がついに捕まったわけだけど」
「その犯人がピン芸人というのも驚いているわけで」
「テレビに出ている時の顔とは全く違っていたなあ。まあ、犯人の名前はテレビやネットのニュース見たら分かるのでここでは言わないけどね」
俺たちは舞台のパイプ椅子に座りながら、三者三様に今回の盗難事件に関することを次々と口にしている。だからといって、この場で重大な不祥事を犯した者の名前を軽々しく口にすることはできない。
「実はねえ、CeroTube配信の番組の収録を昨日行ったわけだけど」
「ああ、『シンゴーキのスリーショット』ですね」
「その番組の収録が終わった後に、控室にいた放送作家と3人で話していると今回の事件の犯人らしき男がトイレに潜んでいることに気づいてなあ」
「悪いことをしていなかったら、トイレとかに隠れるように姑息なことはしないでしょう」
「トイレの個室にいたのって、本当に大が我慢できなくて入ったんじゃないの」
「分かる! 分かる! 腹を下した時なんか特にね」
「大が我慢できなかったら、本当の大惨事になるからな」
「不祥事から始まる大惨事って」
事件に関するトークをお笑いで交えながら進める3人の様子は、ホールの舞台裏で配信プラットフォームを眺めている放送作家の坂塚にも伝わっている。
「トイレとか大とか、下ネタになったらみんなすぐに反応しているなあ。犯人の名前を出さなくても、これを見ている人はすぐ分かるだろうから」
坂塚は、ライブ配信を視聴している者が発するSNSの呟きをチェックしている。そこには、『大草原』や『マジで草』、『草不可避』などと俺たちのトークを見て大爆笑している様子を短い言葉で表現されていた。
観客が誰もいない中、俺たちは芸人の不祥事案件をお笑いに昇華させた爆笑トークを終えて大団円を迎えることとなった。
配信ライブを終えて自宅マンションへ戻ると、俺たちはCeroTubeチャンネルの企画打ち合わせ前にニュースをチェックしようとノートパソコンを開いた。そのニュースの中に、先程終えたばかりの配信ライブに関する記事が目に入った。
「スポーツ紙が早速記事にして取り上げているなあ」
「後半のトークコーナーでタイムリーな話題を取り上げていることもあるし」
俺たちが目にしたその記事には、『シンゴーキのオン&ライン笑』にて自転車窃盗で逮捕されたシノマに関するトークの内容が記されていた。配信ライブ中にシノマの名前は一言も出さなくても、その文脈から推測すればお笑い芸人が起こした窃盗事件だということが明白ということが分かるだろう。
そして、週が明けると同時にシノマキヌオは窃盗の疑いで東京地裁へ起訴された。自らが犯罪を起こしたことにより、シノマは所属事務所からタレント契約とお笑いスクールの講師契約をそろって打ち切られるなどの大きな代償を負うことになった。




