23rd Stage
翌日、俺たち3人は女性マネージャーの車に乗って新宿歌舞伎町へ向かっていた。普段の仕事先なら自転車で可能だが、新宿付近は交通量が多いことから安全を考慮してマネージャーが送り迎えをすることにした。
「マネージャー、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。あなたたちと同様に、こちらも感染対策をした上で行っているし」
そもそも、ウィルス禍になる前はマネージャーによる車での送り迎えが当たり前だった。マネージャーにとっても、タレントのスケジュール管理を行う点で欠かせないものとなっていた。
しかし、ニューノーマルでは感染対策の一環として、仕事先の移動はタレントとマネージャーがそれぞれ別行動を行うことが多くなってきた。当日のスケジュールを伝えるのも、パソコンやスマホといったオンライン上で行うのがすっかり定着している。
そうした中、今回はマスクを着用した上でマネージャーと車内にて久しぶりの対面という形になった。もちろん、仕事先では番組の収録前後にマネージャーと常に顔を合わせるわけだが……。
やがて、俺たちは歌舞伎町のホール手前でマネージャーが運転する車から降りることにした。これからこのホールで行われるのは、中止になったシンゴーキのお笑いライブの代替公演となる『シンゴーキのオン&ラインで笑』だ。
「配信限定だから、観客の反応がどうなのか分かりづらいなあ」
「笑い声が聞こえない中で行うから、モチベーションが維持できるかどうか」
無観客の場内を見ながら、俺たちはマスクをしたままでコントや企画コーナーのリハーサルを行っている。そんな時、俺はニュースをいくつかチェックしようとスマホの画面を開いた。
企画コーナーのネタになりそうなのを探していると、前日に顔を合わせたあの男に関するニュースが目に入ってきた。
「とうとう捕まったのか」
スマホには、お笑い芸人のシノマキヌオが高級自転車窃盗の疑いで逮捕された旨の速報ニュースが画面に映っている。スマホの画面には、シノマがウィルス禍で収入が激減して生活が苦しくなったことから、誰もいない車庫盗み出した自転車をオークションへ出品して利益を得ていたという内容の記事が表示されている。
すると、青田と黄島がシノマ逮捕のニュース動画が映っている俺のスマホ画面を覗き込むように見ている。
「このニュース、後半のトークコーナーで取り上げた方がいいのでは」
「オンラインで生配信だし、タイムリーなテーマだからなあ」
そうするうちに、俺たちシンゴーキによる生配信のオンライン公演が始まった。今回の公演は、定番から新作まであらゆるコントを3人が演じる前半と、トークコーナーをメインとした後半の2本立てとなっている。
前半を終えると、後半の準備をするために3脚のパイプ椅子を配置することにした。椅子を置く場所は、ソーシャルディスタンスを保つために2mの間隔を取っている。
お笑い芸人が逮捕されたという事態の中、俺たちはセンシティブになりがちなテーマでコークを進めようと3人それぞれがパイプ椅子に座った。




