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22nd Stage

 男性用トイレの中へ入ると、先程までいたはずの男の姿がどこにも見当たらない。いや、正確には目の前にいないと言ったほうが正しい。


「まさか、この中に入っているのでは」


 俺は、トイレ内の個室4つのいずれかにいるのではとドアを開けることにした。しかし、窓側の個室以外の3つは誰も利用していない。


 残る1つに男が隠れているのではないかと、窓側の端のドアに手を掛けた。やはりというか、個室のドアには鍵が掛けられて中へ入ることができない。


「何もやましいことがないなら扉を開けて話したらどうか」


 俺は、個室内のトイレに座っているとみられる男に声を掛けた。だが、それに対して中からは何の反応を示さない。


 鍵を閉めている以上、男が潜んでいるのはこの個室トイレで間違いないだろう。あとは、本人がこちらからの呼びかけに応じるかどうかだ。


「何かゴソゴソしている音がするなあ」


 個室内のトイレで男が何をしているのかは定かではない。姿を見せない男に向かって、俺はもう一度伝えようと声を発した。


「悪いことをしていないなら自分から行動したらどうだ。こうやって隠れてばかりだと、誰からも信用されなくなるぞ」


 潔白を主張するなら、自分から表に出て説明することが世の中の常識だ。逆に考えると、何も口にしないことは悪いことをしたという暗黙の了解につながってしまうだろう。


 結局、その男はトイレの個室から一度たりとも声を出すことはなかった。これ以上ここにいたら、俺にとって時間の無駄になってしまう。


 俺は男性トイレから出ると、他のメンバーと放送作家とともに別室のほうへ入室した。部屋のドアを完全に閉めずに、ほんのわずかの隙間から息を潜めながら探ることにした。


 スマホを取り出したその時、トイレから出てきた男の姿が廊下に現れてきた。その姿と目が合った瞬間、俺はあの男だと確信するに至った。


「やっぱりシノマだったのか」


 すぐにドアから飛び出すと、シノマの後を追って1階へ向かう階段を駆け降りた。すると、ビルの玄関出入口へ進むシノマの姿を見つけた。


「何で逃げているんだ」


 真実に迫ろうとする俺の執念は、何も言うことなく玄関を出て走り続けるシノマの真横へ追いつくことができた。その時のシノマの表情は、ギョッと気まずそうな雰囲気を漂わせていた。


「おい! 帰ろうとしているのを邪魔するんじゃねえよ」


 シノマは、俺の姿を捉えると明らかに半ギレするような口ぶりを見せ始めた。それは、番組で見せる彼のイメージとは対照的だ。

 そんな中、俺は相手から影響されることなく冷静に伝えようと努めている。


「何も悪いことしていないなら、その場ではっきりと言うべきだと思うなあ」

「そうよ! 悪いことなんかしてないよ!」


 俺からの言葉に対して、シノマは吐き捨てるような口調で返答してきた。そして、シノマは再びしゃべろうとしている俺を突き飛ばして細い道の中へ逃げ入った。


 シノマを追おうと、俺はすぐさま細い道の中を奥のほうへ進んだ。しかし、どこへ行ってもシノマの姿は全く見当たらない。


「どこへ行ったのか。悪いことをしていないのに逃げているということは……」


 悪事をしていないと発言したシノマが嘘をついているのではという俺の推測は、次の日にそれが現実のものとなって……。

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