20th Stage
深夜の生放送を終えると、俺たち3人はすぐにマスクを着用してからスタジオから出てきた。急ぎ足でラジオ局から外へ向かうと、自転車置き場に停めていた自転車に乗って自宅マンションへ帰ることにした。
「誰もいないなあ」
深夜で出歩く奴なんかいないだろという人も多いだろう。しかし、ここは深夜も眠ることのない不夜城だったはずだ。深夜3時過ぎの時間帯でも、明かりを灯す店をいくつか見かけたのをこの目で覚えている。
けれども、ウィルス感染拡大防止のために東京の都心はすっかり死の街へと変貌してしまった。それは、全ての店から明かりが消えていることからでも如実に分かるものだ。
どんなにトラックやタクシーが行き交っても、街路灯だけが照らされているのが深夜の不気味さを漂わせている。そんな俺たちは、深夜の死の街を自転車で住処たるマンションのほうへ進んでいた。
ベッドで仮眠を取ると、すぐに起きてからシャワーで体の汚れを洗い流している。世間が東京五輪・パラリンピックの延期を報じようとも、俺たちはいつもの仕事を淡々とこなして本分を尽くすだけだ。
朝食でベーコンエッグに焼き立てのパンを取りながら、コーヒーを味わうというのがここ最近の朝の日課となっている。新聞1面に載っているオリンピック延期の記事に目を通していると、俺は頭の中に浮かんだ疑問を口にした。
「1年後になったらウィルスが消えるとでも言うのか」
「そうなるとは言い切れないけどなあ」
「上の人間が思考停止だし、何が何でも満席にこだわっているのでは」
俺の意見に対して、青田も黄島も自らが言いたいことを返答しようと口を開いた。ウィルス禍の終息などあり得ないのに、制限ゼロのオリンピック・パラリンピックを目指すという不可能な目標を立てる組織委員会の姿勢にあきれ顔となっているのは俺たちだけではないはずだ。
そうするうちに、朝食を終えて台所で洗い物をしていると居間のソファにいる青田から気になる一言が耳に入ってきた。洗い物を終えて居間へ入ると、青田は自らのスマホを覗きながら俺と黄島を呼んでいた。
「どうしたんだ」
「これを見て! 例の盗難自転車の一件に関することだけど」
青田のスマホの画面には、自転車愛好者の匿名掲示板が表示されている。ここには、自転車やロードレースのイベントに関することや個人的な感想や見解がいくつか書き込まれている。
そんな中、青田が指し示したのはある人物らしきハンドルネームとメールアドレスだ。
「このシマヌキのメールアドレスって、ナビゲオクのIDと同じじゃないか」
俺たちが関心を寄せているのは、書き込まれた内容よりもハンドルネーム『シマヌキ』のメールアドレスだ。ナビゲオクのIDを見たら、確かにあのメールアドレスと同じ文字列だということを確信するようになった。
「シマヌキと島貫才一、そしてシノマキヌオが全てイコールで繋がったということだな」
けれども、シノマは現在においてもプロフィール上で本名の非公表を続けている。どんなに悪事を働いたとしても、シノマと島貫才一は別人だと言い張るのは明白だ。




