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2nd Stage

 深夜番組の放送が終わると、俺たちは臨時ラジオブースを兼ねた居間のテーブルからすぐに離れて隣の部屋へ入った。居酒屋へ寄ってから自宅マンションへ戻るといったこれまでのルーティンは、緊急事態宣言をきっかけに始まったニューノーマルによってすべてが一変するようになった。


「まだ慣れないなあ」

「新しい日常とか、新しい生活様式とか」

「CeroTubeチャンネルを持っているから、イベント中止とかのダメージは少ないだろうけど」


 俺たち3人は、応接間のソファに座りながら言葉を交わしている。ウィルス禍で経済的に苦しむ芸人仲間のことを思いながら……。


「SNSでお笑い芸人のバトン企画があるけど」

「ああ、ギャグ繋ぎか」

「個人同士で繋ぐから、どうしても短尺のピン芸に頼ってしまうのがなあ……」


 トリオで共同生活している俺たちのようなケースは他にも存在するだろう。けれども、お笑い芸人は基本的にコンビやトリオを組んでも住処は単独ということが多い。


 このため、ウィルス感染を危惧して相方と直接会うことができないという歪な状況が生まれている。SNS上でのギャグ繋ぎも、ネット上で相方と顔を合わせる苦肉の策と言えなくもない。


 そんなSNSの企画だが、お笑い芸人が一発ギャグに安易に頼ることへの疑問を感じてしまうのは俺だけだろうか。


 同調圧力へのささやかな抵抗を見せる中、俺は女性3人組のお笑いトリオ・サンニンビンゴのSNSに興味深く見入っていた。そこには、ウィルス禍になる前のサイクリングへ出かけた時の3人の被写体がアップされている。


「外出できないので、気軽にサイクリングすることもできないのが残念」


 ステイホームを余儀なくされる中、外へ出かけることができないもどかしさがSNSに記された一文からも感じられる。


 窓越しから見える夜明けは、新たな1日の始まりが近いことを意味している。しかし、俺たちが望む夜明けはまだ先のことになりそうだ。




 次の日、応接間のソファに俺たち3人が揃って座るとモニター越しにいるマネージャーからの指示を受けている。マネージャーは、予定していたイベントの中止を伝えるたびに申し訳ない表情を見せている。


「本当に申し訳ない。いつもイベントやライブの中止を伝えないといけないのがつらくて……」


 芸人たちにとって、多くのファンと顔を合わせる場所としてお笑いライブや各種イベントへ出演することを大事にしている。それ故に、ウィルスのクラスターが発生する可能性が高いという理由での中止ほど理不尽なものはない。


 タレントとしてチヤホヤされるうちならいいけど、お笑い芸人は所詮フリーターと同じだ。ウィルス禍によって事実上の失業に陥った芸人たちの話もオンラインを通して耳にすることが多い。


 そんな時、モニターの画面にはサンニンビンゴの3人が俺たちに呼びかけてきた。俺たちがレギュラー出演する『昼バラライブ』の今日のゲストだ。


「頭文字が松竹梅、3人揃ってサンニンビンゴで~す!」


 松森佳代を中心に、竹本夜月と梅林広海の3人構成のお笑いトリオで、コントに加えて漫才もできるのが彼女たちの強みだ。そんな彼女たちは、自分たちの趣味の魅力を俺たちに語りかけた。


「サイクリングに出かけた時の写真をアップしたSNSを見てくれたかな?」

「ああ、見たけど」

「そんなにあっさりしたこと言わなくても」


 サンニンビンゴの趣味に乗り気でなかった俺に対して、青田と黄島は自転車という新たな領域に関心を持っているようだ。


「なあ、自転車に乗って体を動かしたほうがいいのでは」

「自転車なら安くて性能がいいのも多いし」


 2人のメンバーからの進言に、俺はすぐさま彼らの意向を受け入れた。そして、自転車という趣味を生かした新たなプロジェクトを思いついた。


「シンゴーキチャンネルでの企画で、俺たちが自転車から見た風景を配信するというのはどうかな?」

「それはいいね。現在の状況だと、他の企画を行うのは難しいだろうし」


 俺たちは、レギュラー番組出演の合間を縫いながら準備に取り掛かることにした。緊急事態宣言が解除されたらすぐに企画を開始するという前提で……。

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