19th Stage
「これは、藤重実一さんのブログだけど」
「ああ、知っているさ。ガレージから高級自転車が盗まれたというのは既に知っているけど」
サンニンビンゴの松森は、スマホに表示された画面を他の5人に見せていた。そこには、自転車盗難事件の続報らしき内容がブログに記されているのが目に入った。
俺たちも、3人がそれぞれ持っているスマホを開いて藤重のブログを開くことにした。そのブログには、盗まれた高級自転車のブランド名についての記事に加えて、最新の更新記事にはこのような内容が載っていた。
《今日の夕方、ナビゲオクを見ていたら私の目を疑うような品物が出品されていました。それは、先日盗まれた自転車が何者かによって出品されていました》
ナビゲオクには、盗まれたとされる自転車が1台ずつ出品されているが……。
「ここに載っている自転車って、盗まれたとされる日よりも前に出品しているけど」
「あたしはねえ、こうやって人を欺くのって大嫌いなの!」
松森は、これまで首尾一貫して社会への不満や理不尽さをキッパリと言うことが多い。俺たちは、情報番組のパネリストとして出演した松森の発言が今でも脳裏に残っている。
青田と黄島は、松森とともにこの番組に出ていたのでマスクをしながら小声でひそひそと話し掛けていた。
「あの番組で何を言ったか知っている?」
「自転車が一時盗難された件で、『こそこそ隠れているのって卑怯ってまだ分からないのか。さっさとあたしの前に出て見ろよ!』と言ったみたい……」
俺は、問題となっているナビゲオクの出品ページに注意書きが記されているのが目に入った。
《できれば引き取りを希望。都内の西武石神井公園駅又は大泉学園駅》
これは何を意味するのだろうか。オークションの出品者が特定の駅を指定しているのを考えれば、居住地も相当限られることになるだろう。
「でも、これだけだとなあ……」
盗んだばかりの自転車をオークションに出品していることや、出品者が練馬区の西部に居住しているのはほぼ間違いない。できれば、これらの証拠を決定的にするものがもう1つ欲しいところだ。
「あっ! 番組の打ち合わせがもうすぐ始まるぞ!」
「スタジオのほうへ行くので、例の件についてはまた後日」
「分かった! こっちのほうでももう少し調べて見るから」
サンニンビンゴと別れると、俺たち3人は『ミッドナイト&ナイト』の生放送が行われるスタジオ内へ足を入れた。ウィルス禍で1年の延期が既に決まっているけど、本来なら明日が東京オリンピックの開会式だ。
スタッフとの打ち合わせを終えると、スタジオの時計の針はもうすぐ12時を指そうとしている。けれども、オリンピックの延期は令和を迎えた時と違って誰もが冷めた目で見てしまいそうだ。




