18th Stage
その翌日、俺たちは夕方から自宅マンションでスタッフとオンラインを通してシンゴーキチャンネルの企画会議を行っていた。ウィルスの感染者数が再び増えていることから、今回もスタッフの坂塚と峰渕はそれぞれの自宅から参加している。
企画会議のメインは、好評の自転車企画の第2弾を行うに当たっての具体的な内容とゲスト出演者の選定作業だ。俺は、自転車にこだわり続けるあの芸人をゲストとして真っ先に挙げることにした。
「自転車で芸人と言えば長市さん! 田野長市なら俺たちと同じくCeroTubeチャンネルを持っているし、俺たちのチャンネルとのコラボも十分に可能だと思うけど」
田野に白羽の矢を立てたのは、お笑い芸人の中でも自転車をこよなく愛しているからに他ならない。これに異を唱える人は多分いないだろう。
「ゲスト出演については、事務所を通してすぐにでもオファーしないといけないなあ。コラボは先方の意向を踏まえた上で後日の企画会議で可否について回答します」
企画会議を終えると、俺たちは次の仕事へ向かう時間までスタッフ2人とプライベートな話をしようとノートパソコンの画面を眺めていた。そこで、坂塚はどうしても気になることを画面へ向かって口にした。
「自転車企画の会議をした後で言うのもなんだが、高級自転車ばかりが盗まれる事件が最近ネットニュースとかで目にするようになって」
その話を耳にすると、俺たちは3人それぞれがすぐにスマホを取り出してネットニュースを検索することにした。そこで目に入ったのは、自転車評論家・藤重実一の自宅ガレージから高級自転車が7台も盗まれたというニュース記事だ。
「藤重実一って、この前にBSで放送されたバーチャルレースの解説者だったなあ。長市さんも、選手として自宅からリモート参加していたからね」
俺たちにとっても、CeroTubeチャンネルで自転車企画を行っていることから気が気でならない様子だ。スマホの画面を見ると、時計が21時45分を指していた。
「そろそろ、自転車に乗ってラジオ局へ行かないといけない時間だ。『ミッドナイト&ナイト』の生放送前に打ち合わせをしないといけないし」
「真夜中だから、昼間以上に気をつけないといけないぞ」
マンションの自室から出ると、エレベーターで降りてから自転車が置いている地下駐車場へ足を入れた。マスク姿の俺たちは、ヘルメットを被ってから自転車に乗り込むとライトを点灯させながら地上へ出てきた。
交通量の少ない夜間だが、本来なら眠らない街で自動車やトラックが行き交う場所だ。俺たちは、安全に気をつけながら自転車を走らせるとラジオ局の社屋が目に入ってきた。
自転車置き場に駐車すると、玄関から社屋の中へ入って廊下を進んでいた。スタジオへ向かう途中、俺たちの向こうからサンニンビンゴの3人が廊下を歩いていた。
「こんばんは、これからスタジオ?」
「深夜の生放送の前に打ち合わせをこれから行うので」
男女の違いはあれど、お笑いトリオ同士とあって馬が合いやすい。お互いにマスクをしていても、相手の表情で誰なのかはすぐに分かるものだ。
そんな俺たちに、サンニンビンゴは高級自転車盗難事件について自分たちが知っていることをどうしても伝えたいと声を掛けてきた。
「今日入ってきたニュースだけど、自宅ガレージから高級自転車ばかりが盗まれたというのがあって……」
「こっちも、CeroTubeチャンネルのリモートでの会議が終わった後にスタッフの1人から聞いて知ることになったけど」
トリオでリーダー格の松森は、自分の自転車が一時的に盗まれたことからこの種の報道には敏感に反応している。俺たちは、松森が見せたスマホの画面に記された内容に衝撃を受けることに……。




