17th Stage
数日後、FMラジオ局のスタジオでは、パーソナリティ席に座った俺と赤沢がアクリル板越しで収録前の話し合いをしていた。この週は、俺による1人語りを基本に、放送作家の赤沢が時折話を交えるという形で番組を進行することになっている。
「流す曲は、海に関する曲で行こうかな。『サーフィンUSA』とか『アイ・ドント・ケア』とか」
「リスナーからのメールもたくさんきているけど、これなんかはどうかな」
マスクを着用しながらも阿吽の呼吸で打ち合わせをしているあたりは、かつて2人でコンビを組んでいた時代のことを彷彿とさせている。
いよいよ収録の開始を迎えようとする直前、俺は自分のポケットに入っているスマホが振動していることに気づいた。すぐに取り出すと、メールが届いているのでさっそく目を通すことにした。
そこには、ダークグリーンのワゴン車に取りつけたナンバープレート『練馬33△ さ△△-△△』の所有者の名前がはっきりと記されていた。
「やっぱり、島貫才一と記されているのか。これで、あのワゴン車はシノマキヌオの持ち車というのが確定したなあ」
詳細なことは、番組収録が終わって自宅マンションへ戻った時にオンライン上で赤沢から話すと文章を締めている。感染リスクを避けながら、いかにして相手に伝えようとするのかで悩むのは誰もが共通するところだ。
「それでは、本番まいります!」
ディレクターの声が耳に入ると、俺は自らの神経を集中させるように軽妙なトークと音楽で番組を進行させている。この日は海をテーマにしているとあって、俺は海での思い出が記されたリスナーからのメールを読みながら面白いコメントをマイクの前でしゃべり続けている。
番組収録を終えると、俺はマスクを着けてスタッフに挨拶をするとすぐにスタジオを出てFM局の玄関へ向かっていた。そんな時、1人の男が無言で俺と廊下ですれ違った。
「シ、シノマ……」
シノマは局内のスタジオに向かっているのか、何もしゃべることなく奥のほうへ足を進めている。もちろん、彼がどんな番組に出演するかは知らないけど……。
俺は自転車に乗って自宅マンションに戻ると、赤沢と話の続きをしようとノートパソコンからMOOZYを開いた。画面上に赤沢の姿が映ると、俺のスマホに送付したメールのことについて聞いてみた。
「あのワゴン車の持ち主は、シノマの本名の島貫才一となっているけど」
「ああ、本当さ。ああいうのはSNSアカウントから住所を特定できれば簡単に調べることができるわけで」
探偵のバイトで培った赤沢の情報収集能力には、俺も頭が下がる思いだ。長い間疎遠だったのが、こういう形で再会を果たすというのはお互いに気心の知れた間柄ということもあろう。




