15th Stage
「シノマさんと言えば、自転車コレクターとして芸人の間でも有名だけど」
「自転車にはあまり乗らないけど、珍しい自転車を集めるのが楽しみでね」
他の芸人たちと違って、シノマの場合には自転車を鑑賞することが一種のステータスと感じているようだ。それならばと、ひな壇席の芸人たちへさらに質問を続けた。
「それでは、自慢の自転車を1人ずつ見せてもらいましょう!」
俺が呼び掛けると、ひな壇席から見える所にあるモニターに芸人たち愛用の自転車が次々と登場するようになった。もちろん、俺たちシンゴーキのメンバー3人が所有する自転車もバッチリと映っている。
そんな中、シノマだけは自分が愛用している自転車がモニターに表示されていない。自転車のコレクターと言うのなら、自分がお気に入りの愛車を映しても問題ないと思うのだが……。
少しモヤモヤしながらも、この日の番組収録は予定通りに終了することになった。スタッフからの終了の合図を受けて、俺は見守りゲスト席から離れる前にマスクを着けている。
MCの原崎に挨拶すると、ひな壇席にいる青田と黄島がサンニンビンゴの3人と話している様子が目に入ってきた。ひな壇のほうを見ると、田野が自分の担当マネージャーと何か話していることに気づいた。
「何を話しているのだろうか」
他人のことにはできるだけ深入りしないほうがいいのだが、気になることは放っておけないのが俺の悲しい性と言えるだろう。
俺は、スタジオの出口へ向かっている田野を呼び止めようと言葉をかけた。
「長市さん、お疲れ様です」
「こちらこそ、どうもありがとうございました」
凸凹雑技団でのキワモノイメージとは対照的に、田野の普段の姿は話の分かる誠実な人間だ。そんな俺に、田野は意外な言葉を口にした。
「実はなあ、ちょっと気になることがあって……」
「長市さん……」
「ここで話すよりは、僕の行きつけの店で話したほうがよさそうだ」
田野の言うその店は、セルフ式の食堂でおかずを自分で選ぶことができる。ちなみに、俺が外食するのはウィルス禍になってから初めてのことだ。
放送局から出て地下の自転車置き場へ行くと、俺の自転車よりもスケールの大きい田野のロードバイクが目に入った。
「長市さん、これでいろんなロードレースに参加しているんだね」
「ははは、トップ選手と比べたら僕なんかはひよっこに過ぎないよ。今の状況が落ち着いたら、バーチャルではないロードレースにまた参加したいね」
お互いにマスクをした状態で言葉を交わすと、ヘルメットをかぶってから田野とともに自転車で目的地の食堂へ向かって走らせている。すぐ近くの駐輪場へ自転車を停めると、俺たちはセルフ式の食堂の中へ足を入れることにした。




