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12th Stage

 FMラジオでの収録を終えると、俺はマスクをつけてスタッフに挨拶を交わしてからスタジオからそのまま出ることにした。


 本来なら、スタジオに残ってスタッフと次回収録の打ち合わせを行うのが基本だ。しかし、スタジオ内での話し合いがウィルス感染を招いてしまうことから、打ち合わせは自宅マンションへ戻ってからリモートで行うことになった。


 ドアが開いたままのスタジオから出る時、放送作家の赤沢が俺を呼び止めようと声を掛けてきた。


「赤井が言っていたオークションIDから出品者の名前が分かったぞ」

「調べてくれてありがとう」


 赤沢から手渡された書面には、オークションIDの持ち主の名前が目に入った。その書面に記されているのは、『島貫才一』という男性の名前だ。


「もう少し話したいことがあるが、それは後ほどリモートで」

「分かった。スタッフとの打ち合わせが終わってからな」


 お互いにマスクを着用していても、相手と立ち止まっての会話を続けると感染リスクが高くなってしまう。当面の間は、オンライン上でやり取りしたほうが身のためだ。


 自転車に乗って自らの住処たるマンションへ帰ると、ノートパソコン越しにラジオスタッフとリモートでの打ち合わせを行っている。


「次回のテーマは?」

「次の収録はゲストなしだから、赤井さんが1人語りしながら音楽をかけるという形で」

「1人語りのネタはこちらでいくつか考えているし、次回はこれで行きましょう!」


 リモートという形だが、スタッフとの会話はラジオ番組を面白くするための要素と言えるだろう。次回の放送が大まかに決まったところで番組スタッフとの打ち合わせは終了することになった。


「あとは、さっきの件で赤沢と顔を合わせる約束があったな」


 パソコンの画面には、別の場所にいるであろう赤沢の顔に切り替わった。赤沢は、俺に手渡した書面のことについて話し始めた。


「赤井、さっき渡したのをもう一度目を通して」

「島貫才一と名前が記されているけど」


 書面の内容を確認すると、赤沢は間髪を入れずに1人の男の名前を口にした。


「ああ、これね。シノマキヌオの本名ですよ」

「えっ?」


 俺は、盗難した自転車をネットオークションに出品していたのがシノマだったことに唖然としている。タレント名鑑を開くと、ほかのタレントとともにシノマキヌオが顔写真入りで紹介している。


「確か、シノマは本名を一切公表していないけど」

「本名の非公表は本人のイメージを壊したくないという事情だけどね。それはさておき、島貫才一がシノマキヌオという芸名を知ったのは『実話KQナイト』の契約ライターに聞いてみた時であって」


 実話誌ルートならば、出品者の島貫とお笑い芸人のシノマがイコールで繋がるということも十分にあり得るだろう。自転車を無断で持ち去った場合には窃盗罪に問われることになるのだが……。


「盗まれた自転車が返却されているとなると、警察も立件するのは困難だろうなあ」

「常習性があればまた別だろうけど」

「それは言えるなあ。一度あることは二度あるということわざもあるし」


 赤沢が口にしたのは、その犯罪が一度きりとは限らないということを肌で感じているからに他ならない。

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