11th Stage
翌日、FMラジオ局のスタジオに入った俺は、パーソナリティ席へ座ると隣にいる放送作家の赤沢とアクリル板越しに収録前の打ち合わせを行っている。
「とりあえず、番組内でかける楽曲のリストを送付したので」
「1曲目がジュディマリの『自転車』というのは、今週のテーマにぴったりの選曲だなあ」
ウィルス感染防止のため、収録中のスタジオは扉が常に開けたままとなっている。もちろん、パーソナリティ席へのアクリル板設置と出演者やスタッフのマスク着用が必須なのは言うまでもない。
心地のいいオープニングBGMに乗せてタイトルコールを叫ぶと、俺は身の回りの出来事をリスナーに向けて話している。芸人らしいユーモアを交えたオープニングトークに続いて、俺はスタッフの指示を受けて1曲目の楽曲を口にした。
「それでは今週のオープニングナンバー! JUDY AND MARYで『自転車』!」
軽快なサウンドが響き渡る中、スタジオ内にはシノマキヌオが今週のゲストとして入室してきた。パーソナリティ席では、俺とシノマの2人が密を避ける乗り物として見直されている自転車の魅力についてお互いに語っている。
「サイクリングをすることで、近場での新たな発見につながっていると思うわけで」
「自転車のコレクターにはいろんな意見があるだろうけど、人間というのは珍しいものにどうしても興味を持つ人が多いし」
トークの間、ドアが開けられたままのスタジオ内にはクルマの走行音が漏れてしまうことが少なくない。これくらいのことは別に気にするわけではないが……。
その後も、2人による自転車トークは続いた。話題は、俺が自転車を始めるきっかけとなった自粛期間中のことへ移った。
「先月までは外へ出ることができなかったので、ほかの芸人のSNSを覗くことが多かったなあ。俺たちシンゴーキがサイクリングをするきっかけとなったのはSNSに載った1枚の写真であって……」
「赤井さんが見たその写真というのは?」
「サンニンビンゴのSNSで、メンバー3人がサイクリングに行った時の写真ですね。その写真はウィルス禍になる前に撮ったとなっているけど」
俺たちシンゴーキの3人が自転車への推し活へ導いてくれたのは、サンニンビンゴのおかげだというのは間違いないだろう。
「一番の変化は、番組出演でテレビ局やラジオ局へ行く時にも自転車で通う機会が多くなったかな」
「仕事の時にも自転車を使うんだ」
「シノマさんは、実際に自転車に乗ったことは?」
「乗ったことはもちろんあるさ。でも、基本的には自転車そのものの鑑賞かな」
多様性が叫ばれる昨今、自転車の楽しみ方も人それぞれだ。もちろん、俺もシノマの考え方に口を挟むことは毛頭ない。
「まだまだ話は続きますが、ここで自転車を走らせている時のBGMにぴったりの1曲をかけましょう! クイーンで『バイシクル・レース』!」
音楽が流れる中、俺はアクリル板の向かいにいる赤沢とこの後の番組進行について確認を行っている。それにしても、シノマは俺とのトークの最中にそわそわしている様子が目に映るのだが……。




