10th Stage
俺は自宅マンションに戻ると、今回の件に関する盗難自転車を出品した者のオークションIDで検索することにした。すると、ノートパソコンの画面に赤い太字で強調したこの文章が出てきた。
《指定したドキュメントは存在しません》
画面の下のほうを見ると、『商品ページが削除されている可能性があります』という一文が目に入った。おそらく、運営によって当該IDが削除されたか、自らがそのIDを消したかのいずれかだろう。
しかし、お笑いが本業である俺はこんなことばかりにうつつを抜かすわけにはいかない。そこで、俺のかつての相方に今回の件について調べてもらうことにした。
ノートパソコンからMOOZYを通して会話する相手は、アカズクロス時代の相方で現在は放送作家の赤沢彰吾だ。赤沢は、俺がFMラジオ局でDJを務める音楽番組『Singo’s Music Chair Room』の放送作家として参加している。
パソコン越しに向かうと、最初に明日収録する番組でかける楽曲やゲスト出演について赤沢と2人で話し合っている。そこで、赤沢は自転車に関するトークの時にピン芸人をゲストとして迎えることを俺に伝えた。
「シノマキヌオと自転車にまつわることを話してもらいたいのだが」
「こちらも、CeroTubeチャンネルで自転車企画の配信を始めたばかりなのでタイムリーな企画だし」
同じ趣味と言っても、その内容は人それぞれだ。田野長市が開設したCeroTubeチャンネルの初回ゲストでシノマの姿を目にしたのだが……。
「俺たちのようにサイクリングや日常生活で使っている人と、シノマのように自転車をコレクターのように扱っている人とでは考え方が違うだろうなあ」
どうやら、シノマをゲストに呼んだのは自転車という1つのテーマでの考え方の違いを良い意味での化学反応が期待できるのではという赤沢自身の意図だそうだ。
「それじゃあ、明日収録分はこれで行きましょうか」
「ああ、無事に収録が終わればいいなあ。それはそうと、ちょっと調べてほしいことが……」
「どうしたんだ」
「サンニンビンゴの松森が持っていた自転車が盗まれて、その後に元の置き場所へその自転車が戻ってきたというニュースに関することだが」
「それはエンタメニュースで見たけど、自転車が戻ってきたのだから気にしなくてもいいのでは」
この類の報道は、重大なものでない限りゴシップネタにとどまってしまうようだ。だが、当事者の犯人に対する不信感は時間が経過しても変わることはないだろう。
「これに関しては、ナビゲオクに盗難自転車らしきものが出品されたので、俺は松森の自転車ではないかと出品者に質問メールを送付して回答を待っていたが……」
「それで、出品者からの回答は?」
「今日改めてその出品ページを確認したけど、出品者のオークションIDが削除されて閲覧することができなくなったんだ」
「運営によって削除されたか、自分で削除したかは出品者本人にしか分からないだろうなあ。ただ、赤井が今回の件についてメールを送った後で出品者ページが削除となっているのは確かだし」
俺は、探偵調査員の仕事を経験している赤沢の手腕に期待することにした。赤沢のほうも、俺がメールで送った出品者のオークションIDを調べてみることを伝えた。




