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両手の指を全部折ると、駒井は言った。
「娘を殺された親の怒りがどんなものか、おまえにはわかるか」
「だから、娘どころかだれも殺してないって」
男は涙を流していた。
「うるさい!」
駒井は小屋にあったサバイバルナイフを取り出した。
「おい、それをどうするつもりだ」
「こうするんだ」
駒井は男の腕にサバイバルナイフを突き立てた。
それも何度も。そのたびに男は悲鳴を上げ、駒井に罵詈雑言を浴びせたかと思うと、泣きながら哀願した。
それの繰り返しだった。
駒井は刺した。
何度も何度も。
そして両腕の次は両足をサバイバルナイフで刺した。
何度も何度も。
男の反応も同じだったが、駒井に罵声を浴びせるよりか、哀願する回数の方が増えていった。
駒井は、今度は男の腹を刺した。
死なない程度に浅く、何度も何度も。
男は全身血まみれになり、顔は涙と鼻水でぐじゃぐじゃとなった。
駒井は刺すのをやめて、男を見た。
男は何かを言う気力も体力もなくしているようで、うなだれて静かになっていた。
その哀れな男の姿を見ると、逆に駒井の中に強烈な殺意がわいてきた。
駒井はサバイバルナイフを男の首に突き立てた。
そしてナイフを横殴りにはらう。
「ぐぼっ」
男の首の半分近くが切れ、血が大量に噴き出した。
やがて男は全く動かなくなった。
死んだのだ。
――仇はとったぞ。
駒井は天国の娘に向かって手を合わせた。
その日は山小屋に泊まり、朝に会社に体調不良で休むとの連絡を入れた。
そして小屋の裏側を、時間をかけて深く掘り、そこに男の死体を放り込み、穴をふさいだ。
血の一滴も残さないように山小屋を丁寧に掃除してから、帰路についた。
家に着いたのは日付が変わるころだった。
次の日は、何事もなかったかのように、出社した。
それから数日後。駒井の家にやけに目つきの悪い中年男が訪ねてきた。
男は警察手帳を見せると、言った。
「娘さんを殺した犯人が逮捕されました」
と。
終