第23話③ 帰還日・マクリルロの正体
==カーティス=レスタリーチェ家エルリーン別荘==
「アヤリ。 もしかして、帰れる目途が立ったのか?」
「あれ、カティくんには話してなかった……?」
「……聞いてないな」
驚いて取り乱してしまいそうになるのを無理やり抑え、至って平然を装いながら質問する。
「それが……、私も詳しくは知らないけど、近いうちに私が帰れる日が来るみたいなんだよね」
「それは誰から聞いたんだ?」
逸る鼓動を抑えながら続きを促す。それと同時に、別れ際にアドが告げた言葉も思い出す。
『長くても三か月程度だろう?』
「第二王子から。 ちょっと前に話をする機会があって、それで……」
「その際に私も同席しておりましたわ。 具体性のない情報ではありましたが、あの方が嘘をつく理由もありませんので、事実だと考えてますの」
「第二、王子……」
俺はその人物を知らないが、戯れでそんな虚偽を伝える意図は読めない。そして、嘘である可能性がないとは言い切れないが……。
「でも安心してくださいませ。 アヤリ様はたとえ元の世界に帰ったとしても、再度この世界を訪れると約束しておりますわ」
「それは、可能なのか?」
縋る思いでアヤリに尋ねる。
「……根拠ないんてないけど、なんとなくそれが出来る気がする、かな?」
「……は?」
「――だから例え話なの!」
俺が本気で目を丸くすると、彼女は顔を真っ赤にしながら俺の肩を『バシバシ』と叩いた。
……
「それではアヤリ様。 今回も楽しい一時でしたわ」
「ならよかったです」
その後も他愛のない会話をして過ごした俺達は、五の鐘を聴いてから解散することになった。
「カティ様も御機嫌よう」
「あぁ、それじゃあな」
送迎の馬車に乗って、レスタリーチェ家の別荘を後にした。
……
「じゃーね、カティくん」
「あぁ……」
マクリルロ宅に到着した馬車から降りると、日は完全に落ちて空は真っ暗な時刻になっていた。あくまで俺は彼女らの集まりに便乗しただけなので送ってもらうまでの事はされない。アヤリとも別れて、そのまま歩いて帰路に着こうとすると、背後から大声が聞こえた。
「――やっと戻って来た! 随分待たされたよ!」
玄関から慌てた様子のマクリルロが飛び出してきていた。
「うわっ、マーク!?」
「まったく、肝心な時にキミは居ないんだね……」
「肝心な時?」
そんな話声が大声で交わされている。それが気になった俺は二人の元へと向かった。
「どうかしたのか?」
「――っ。 キミも居たのか……。 でも聞いておいてもらった方が良いかも知れないかな」
一呼吸置いた後、マクリルロは衝撃的な一言を発した。
「彼女の帰還日が判明した。 明後日の二の鐘頃、その時までに元の世界に戻る準備をして欲しい」
「え……」「な……」
核心を突いた言葉に、俺の頭は真っ白になった。
==杏耶莉=マクリルロ宅・玄関==
「彼女の帰還日が判明した。 明後日の二の鐘頃、その時までに元の世界に戻る準備をして欲しい」
「え……」「な……」
唐突なマークの言葉に私は驚きの声を上げた。
「マーク。 何て!?」
以前からマークが何か知っているとは思っていたが、それでも数日後に帰れるとまでは思ってもみなかった。
「言葉の通りだよ。 キミは後数日で帰れる。 念願が叶ってよかっただろう?」
「そういう問題じゃなくて……」
「なら、考えが変わったのかい? この世界に骨を埋める覚悟が出来たと」
「だから……! そもそも、何でそんな事をマークが知っているの!? それに、元々マークは帰るのは難しいって言ってたよね!?」
「少し落ち着きなよ」
「――それは俺も聞きたい」
私の傍に寄って来ていたカティも同様にマークを問い詰める。
「分かった。 順を追って説明するよ。 あまり時間も残されていないし、効率良く物事を進めようか」
そう言った彼は彼の家へと入って行く。私とカティもそれを追いかけて入った。
……
当人であるマークを除いて、私とカティのみが知る彼の研究室で椅子に座って話を聞く姿勢になる。
「初めに結論から整理しようか。 キミは明後日の二の鐘の刻に帰還日を迎える」
「帰還日って言うのは何? それに何でそんな事をがわかったの?」
「知った理由は後で話すよ……。 本当だよ?」
私がその言葉に疑惑の表情を向けると、マークはそう答えた。
「その帰還日というのについてだね。 キミは次元の裂け目を通って来たけど、元の世界との繋がりは絶たれていないんだ。 イメージとしては元の世界から縄で引っ張られていると考えて貰えば分かり易いかな」
「元の世界に引っ張られる……」
「そうだね。 だからこそ、その繋がりが断たれる日、それが帰還日なんだ。 その際にもう一度この世界とキミの世界との裂け目が現れる。 それを逃せば永久に戻ることは叶わないだろうね」
「永久に……」
「この世界では一時期裂け目が大量発生する事件が発生していたんだ。 だけどそれは数多の世界へと繋がってるけど、キミの住んでいた世界へと繋がることはまずないだろうからね。 その帰還日が唯一だと考えて欲しい」
詳しい意味は理解できなかったが、数日後のその日が唯一のチャンスだという事は把握した。
「けれど、帰還を選ばない選択肢もあるんだよ。 その実例はキミも見ただろう?」
「それがアドルノートさん?」
「その通り」だとマークは頷いた。
「キミが望めばその選択も存在する。 この世界で生きていく覚悟があるならそれも良いだろうね」
そう聞かれると、心が揺らぐ。そう思う程度にはこの世界で過ごした日々不便ではあるものの、楽しかった。
「アヤリ……」
カティは今にも泣きそうな表情で私の名を呼ぶ。
「……私は……。 ……私は、やっぱり帰るよ」
「――アヤリ!」
元の世界には瑞紀も居るし、どうしても私は帰りたいと思った。
「元の世界に家族や友人が居るだろうし、キミも無理に引き留めるべきではないよ。 それに、元の世界に戻るのが本来の摂理だ」
「そう、だよな……」
しぶしぶ納得するカティを見て、私は彼に近づいて抱きしめた。
「ごめんね、カティくん」
「……あぁ」
私はゆっくりと彼から離れて、もう一度着席する。
「それで、何でマークはそんな事を知っているの?」
「それは……」
「俺も気になってた。 この研究所にある設備。 それを持ち込むとすれば計画的に世界を渡らなければ不可能だろ?」
カティの言い分を聞いて私も頷く。私にその発想はなかったが、確かに彼の言う通りである。
言いづらそうにしながらも溜息を付いてから、マークは口を開く。
「……第四世界異世界管理官・二百五十二界位第七千四百七世界管理担当マクリルロ・ベレサーキス。 それがボクの本来の肩書だよ」
そう答えた彼の瞳は何故か悲しそうに見えた。




