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第23話② 便利な料理の材料


==カーティス=レスタリーチェ家エルリーン別荘==


「では、アヤリ様のお話に移りましょうか」

「……話ってのは、例の異世界についての話か?」


 俺がアヤリに聞き返すと、彼女は頷く。


「そうだよ。 と言っても、何の話にしようか……」

「アヤリ様の話は興味深くはありますが、曖昧でしたり不足していらっしゃいますものね」

「そうなんですよね……、どうしようかな」


 普段であれば彼女らは何らかのテーマを決め、それに沿った話をするらしい。


「であれば、以前話していた()()()()についてお聞きしたいですわ!」

「コンビニか……。 確かにそれなら幾つか話せそうだけど、それに近いスーパーやデパートは話しちゃったからな……」


 彼女の口から聞き慣れない単語が幾つも飛び出す。


「……そのこンびにってのは何なんだ?」

「何かと聞かれたら……お店、かな? でも――」


 そのまま彼女はコンビニについての説明をしていく。どうやら一日中開かれている主に飲食物を取り扱った店の事らしい。

 休まず営業をし続けるなど正気の沙汰ではないが、交代制でそれが当たり前の世界なのだとか。


「――その場で食べれるコーナーもあったりするけど、基本的に持ち帰って食べるね」

「……アヤリの世界では、外食はしないのか?」


 俺がそう尋ねると、彼女は首を振った。


「そんなことないよ。 ……それなら今日の題材は、飲食店の話にしようか。 チェルティーナさんもそれで良いですか?」

「構いませんわ」


 チェチェの返事を待ったあと、アヤリは彼女の世界についての話を始めた。


「まず、代表的なのがファミレスと言う――」


 ……


 こうして、アヤリの飲食店に纏わる話を聞いた。当然なのだが、その中で登場する料理に俺の興味が惹かれていた。


「料理の種類が豊富なんだな。 ……アヤリはそういう凝った料理は作らないのか?」

「……一応、いつもの料理も手抜きって訳じゃないんだけど?」


 偶に彼女の料理をご馳走になることがある。だが、見た事のない料理と呼ぶには些か一歩足りない。


「すまん……」

「アヤリ様の言う通りですわ。 淑女が殿方の為に料理を振る舞う。 その行為に感謝すべきですわ」

「……そう言うチェルティーナさんも料理しないですよね?」

(わたくし)は立場上、水場に立つことはありませんわね。 万が一それを望んでも周囲が止めるでしょうし。 ……興味がないわけではありませんわよ?」

「……貴族も大変なんですね」

「その通りですわ」「そりゃあ、な」


 チェチェと声が被ってしまった。同意見である俺達は顔を見合わせた。

 彼女もそうなのだろうが、俺も記憶や幼少期の出来事でその感覚が染みついているので反射的にそう発言したのだった。


「で、何の話だったかな?」

「アヤリの世界の料理についてだ」

「あ、そうだった。 ……で、凝った料理は作りたい気持ちはあるんだけど、その材料が揃わないんだよね」

「材料か……。 それがあれば作れるのか?」


 俺の問いにアヤリは頷く。


「作れる……けど、その材料ってのが加工品とかなんだよね。 これと野菜を煮込むだけでシチューが作れる、みたいな」

「……そんなの使ってて、料理って呼べるのか?」

「……私の世界にはそれを使っても料理できない人は居るんだよ」

「えぇ……」「まぁ!」


 信じられない彼女の言葉にこの世界の二人して驚く。技術の進歩が何もかもを良くするとは限らないという事なのだろう。


「例に出したシチューのルーじゃなくても、私は肉は挽肉とかみたいな加工された物しか見た事なかったし、一から出汁を取って料理なんてのは一般家庭ではやらないの。 味付けも醤油とか麺汁っていう調味料を使ってたしね」

「……そうか。 それならこっちで再現するのは難しいよな」

「無理むり。 これでも覚えてたことは出来るだけやってみたんだけど……」


 恐らく、以前振舞われたソースとお好み焼きはそれに当たるのだろう。これらは発想の料理ではあっても、そのレシピは難しくはなかった。


「それと、私の住んでた国って島国だったから魚介類が豊富なんだけど、ここって内陸でしょ? それも地味に影響してたりするんだよね」

「我が国の西側は海に面しておりますが、漁業に向かない断崖の岩場ですものね。 稀に干された魚が市場に紛れることもありますが、高級品ですし、保存の為なのですが塩辛くて美味しくありませんわ」

「……私の国って、生食が盛んなので……。 どの道私の好みではありませんね」

「生っ……。 技術が進歩していると見せかけて、実は蛮族の類でしたの?」

「酷いですよ!」


 チェチェの極端すぎる発言にアヤリが冗談交じりに怒る。

 俺は魚介類を生で食べる習慣が存在する地域について知っているが、それは話さず黙っていた。


「話を戻すが、その加工品や調味料がなくてもその料理ってのは再現可能ではあるんだよな?」

「ん? それはそうだけど、私が覚えてないと結局難しいからなぁ……」

「そうですわね。 以前のアヤリ様が仰っていた通り、一度元の世界に戻ってまた来ていただければ可能そうではありますが」

「一度元の世界に戻る……?」


 チェチェの発言に俺がオウム返しをする。


「あー、カティくん? チェルティーナさんの言った話って、例えばの話ね。 もし仮にそうできれば良いのにって、話しただけで……」

「あら、約束したではありませんか。 『約束しましょう! 私は帰ります。 でも、必ず帰ってきます! 何年掛かっても、絶対に!』と」

「それは忘れてくださいよ!」


 いまいち話が読めないが、その口ぶりから近々アヤリが元の世界に帰るみたいではないか。


「アヤリ。 もしかして、帰れる目途が立ったのか?」


 俺はその言葉を聞いた途端、心臓の鼓動がかつてない程脈打つのを感じた。


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