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第23話① お転婆嬢再び


==カーティス=マクリルロ宅・玄関==


「ごめん、カティくん」


 アヤリとの特訓の日。彼女が寝泊りしている屋敷に向かうと、突如謝罪を受ける。


「どうしたんだ急に」

「実は……、急な話なんだけど、チェルティーナさんと会う約束が出来ちゃって……。 カティくんには悪いけど、そっちを優先したくて……」

「あぁ、レスタリーチェのお転婆嬢か」


 社交界襲撃時に自らチェチェと名乗っていたはずだった。その愛称はかつての勇者と同じであるので、俺が呼ぶのは気恥ずかしさがある。


「だから申し訳ないんだけど、今日の特訓は……」

「それは別に構わない。 けど、その代わり頼みがある」

「……?」

「俺をその場に同行させてくれ」


 これまで機会が訪れなかったが、次期当主の彼女について興味があった。


「それは……、チェルティーナさんに聞いてみないとわかんないかな」

「アヤリが構わないなら付いて行く。 相手方は俺が説得するから問題ない」


 自信ありげにそう答えると、「それなら……」と俺は同行することが決まった。


 ……


 そう経たずに到着した迎えの馬車に乗って来たレスタリーチェ家の別荘は、俺の知らない位置に建てられていた。


(豪華になってるな……)


 チェルグリッタの代でも、一等地に大きく別荘を構えていたのだが、死後にそれ以上の屋敷が建造されたらしい。

 経過年数を考えればどの道改修か建て直しが必要だったと予想されるので、それ自体に思うところはない。


「カティくん、こっちだよ」

「あぁ、今行く」


 周囲の街並みに合わせて豪華な装飾の施された屋敷内部へと向かう。無闇矢鱈な装飾は好まないが、かと言って調和を乱す程に貧相にするのは筋違いである。


「アヤリ様は通すよう託かっておりますが、その少年は聞いておりませんので、通すことはできません」

「だろうな。 素通りさせたらぶっとばしてたぞ?」

「なっ……」


 明らかに入る事を拒まれた側のセリフではないので、門番は困惑する。そんな門番に俺は頼んだ。


「ここの代表か、それに近しい人物を呼んでくれ」


 ……


 門前に現れた中世的な顔立ちの男性は、俺の顔を見るや否や通すように指示を飛ばした。

 現在は屋敷内を歩きながら会話をしている。


「貴方はあの時の男の子ですね?」

「……よく覚えてるな」

「お嬢様に、『あの子供を見かけたら、必ず連れてくるように』と言われておりますので」


 あの時、とは社交界襲撃のことだ。この男性はその時にチェチェを守っていた護衛だと記憶している。


「フェンさん。 カティくんと知り合いだったんですか?」

「いえ、アヤリ様。 一度見かけた事がある程度です。 それよりも、彼がカーティスという少年でしたか」

「そうですよ?」

「道理で。 アヤリ様と共にいらっしゃったのでまさかとは思いましたが……」


 アヤリとの会話で、度々チェチェの話題が出るのと同じ様に、恐らく彼女達の会話でも俺が出てくるのだろう。


(にしても……以前も感じたが強い、な)


 一見和やかにアヤリと話すフェンという護衛だが、俺やアヤリ。それ以外のすべてに対して一切の隙を見せずに切り詰めた感覚のまま屋敷内を歩いていた。


(この比較的平和な国で、何食ってたらこんなんになるんだよ……)


 紛争や暴力の絶えない国でも、ここまで周囲に気を許さない人間はそうそう生まれない。

 例え危険なスラム育ちでも、仲良くなった相手には一定の警戒は解くのが普通だろう。でもなければ気苦労で死にかねない。


「到着しましたよ」


 屋敷内のある部屋の前に来ると、フェンが扉を開く。すると、その中から室内から喧しい声が聞こえた。


「遅いですわよアヤリ様! ……っと、貴方はあの時の!」

「どうも」


 俺の姿を見つけると、嬉しそうに声を張り上げた。


「ようやく私の元で働く気になったのですわね!」

「いえ、お嬢様」

「何ですの、フェン」


 事情を理解していない彼女にフェンが説明をする。


「――というわけです、お嬢様」

「そう。 この方がアヤリ様の仰っていたカティ様ですのね」

「あぁ、そうだ。 カーティス・スターターだ」

「アヤリ様、とお呼びしますわね」

「構わん」

「貴方の事はアヤリ様や、ラング様から聞き及んでおりますわ」

「……ラング様?」


 聞き覚えのないその名を聞き返すと、「あら……」とその発言を誤魔化す素振りを見せる。この場ではスルーするが、その名前は覚えておくことにした。


「それで、言伝はしていましたが改めて……。 御ばあ様よりカティ様にお礼を申し上げる様に伝えられております。 ありがとうございますわ」

「……あぁ」

「あの御ばあ様があれほどに感謝の言葉を書状にて連ねるなど、一体何をなさったのか……。 御ばあ様が詳細を語らない以上、追及は致しませんが」


 彼女の口ぶりから、詳細は聞いていないらしかった。勇者の記憶継承に関しては他言無用を徹底し、例え孫であろうとも口外しない約束を果たしてくれている事に感謝の念を感じる。


「っと、立ち話も何ですので、まずは座って頂きましょう。 フェン、準備を」

「畏まりました」


 すんなりと部屋に招き入れられて茶の準備がなされる。


「アヤリ様をお呼び立てしているにも関わらず申し訳ないのですが、先にカティ様と話をさせてもらえませんこと?」

「大丈夫ですよ」


 アヤリの返事を受けたチェチェは俺に向き直る。


「貴方のランケットでのご活躍、よく耳にしておりますわ」

「そうか。 大したことはやってないがな」

「御謙遜を。 レスプディアに属する者として、国の為に尽力して下さり、感謝の言葉もありませんわ」


 彼女は茶を一口飲んでのどを潤す。


「それで、以前貴方をスカウトする言葉をかけましたが、それは撤回させて頂けませんこと?」

「……元々、その提案を受けるつもりはなかったから構わない」

「ありがとうございますわ。 それで……、詳細はお話しできませんが、近々カティ様のお世話になる予定ですの」

「……どういう事だ?」

「詳しくはその際に。 時が来ましたら宜しくお願い致しますわ」

「……。 はぁ、わかった」


 彼女の素性から放っておくことも出来ず、かと言って彼女の人柄はアヤリから聞いていたので、勝手な話で合はあるものの了承した。


「内容によっては許さないけどな」

「そこまで警戒する程の内容ではありませんわ。 一応先立って挨拶をしたに過ぎませんもの」

「そうか……」


 具体性の見えない曖昧な会話ではあるものの、その会話を終えてアヤリの話へと移った。


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