第22話③ 特剣の兆候
==杏耶莉=騎士団第七隊宿舎・訓練広場==
「あれ、今のって……」
「おー。 それっぽい斬り口になってますねー!」
騎士宿舎の訓練広場で、私とマローザ、ジャッベルの三人で私の特殊な剣の再現を試していた。
そんな折、マローザの生成した剣で斬った枝の断面が、明らかにこれまでと違う状態となっていた。
「……流石マロちゃんだね。 実現できるとは思いもしなかったよ」
「ここで! ジャッ君に不運にも鋭い剣がー」
マローザはそう言うや否や、手にした剣でジャッベルに斬りかかる。
「死ぬっ……! って、え?」
「……どうやら、私を以てしてもまだまだ安定して繰り出せないみたいですねー」
「……成功してたら唯じゃすまないよね!?」
「一応、寸止めするつもりでしたってー。 信じてくださいよー」
「……何で何時も俺を殺そうとするんだ!」
「それは……隊長と話をするからー」
「理不尽だ!」
……
「残念でしたねー」
「俺はホッとしたよ……」
どうもマローザが特殊な剣を発現出来たのはまぐれだったらしく、その後もマローザはジャッベルを追い回したが特殊な剣は発現しなかった。
「それじゃあ、アヤリちゃんの訓練に移ろうかー」
「りょーかいです」
私は訓練用の木剣を持って構える。
「基本の素振り百回、開始ー」
「はいっ!」
私は基本の型から縦、横、突きを交互に連続で振る素振りを百回繰り返す。
「……病み上がりの割には、前より様になってるー?」
「ふぅ……。 そう、見えますか?」
数日前のカティとの特訓が効いているのか、マローザにそう褒められる。
「俺の見解も同じかな。 以前と比べて剣先に鋭さが乗ってる様に感じたね」
「ですよねー。 実は怪我って嘘で、本当は密かに頑張ってたとかー?」
「その行為に何の意味があるんですか……」
「それもそうかー」
良くも悪くも一定の距離を取っているジャッベルは兎も角、一見配慮に欠けていそうなマローザもそれ以上の追及はしてこなかった。
別段隠す内容でもないが、無暗に話す事でもないのでそれについては話さなかった。
「じゃー、模擬戦行ってみよーか。 ジャッ君お願いできますかー」
「……今更だけど、何故後輩の君が仕切ってるんだろうね」
「それは隊長に頼まれたからですよー。 どちらかと言えばジャッ君は私のおまけらしいですしー」
「……マロちゃんの抑止力担当って聞いてたんだけど」
「同じじゃないですか?」
そんなやり取りをするものの、ジャッベルが最初の模擬相手を務めることに異論はないらしく、私と対するように彼は立つ。
「よろしくお願いします」
「うん、宜しく」
「両者良さそうだしー……ファイッ!!」
マローザの号令と共に模擬戦を開始する。
「アヤちゃんからどうぞ」
「では、行きます!」
先制を譲られた私は手にした木剣で距離を詰めながら突きを放つ。
その一撃をジャッベルは落ち着いて私が剣を持っていない左側へと避ける。
(――あれ? 動きが見える……)
カティとの特訓で慣れた所為か、何とか追っていた動きを正確に捉えられている。
(これなら――)
私は突撃しつつの突きから、一度手元へと剣を引くフェイントをしつつ、瞬時に切り返して勢いのまま横薙ぎに振るった。
「――っ、おっと……」
「くっ」
だがその一撃もジャッベルには見切られ、彼の手にした木剣で受け止められる。
だが、そのまま下がれば追撃を受けるだろう。私は剣を逆手に持ち直すと、それで再度突きを放った。
「――危っ……。無茶をするね」
「……これでも駄目ですか」
さらに不意を狙った一撃だったが、それすらも左手で直接掴んで止められてしまう。
「いや、危なかったよ。 もし君にもう少し筋力が付いていたら止められなかった」
「本当ですか!?」
私自身、筋力不足であると自覚しているので、それを除けば褒められたという事実に嬉しくなる。
「けど、基本が身についていないのに、安易な応用に頼るのは感心しない、な――」
そう答えたジャッベルは握っていた私の剣を無理やり奪い取ると、それを放り投げた。
宙を舞う剣に気を取られていると、彼の木剣が私の首筋に突き付けられていた。
「逆手持ちは確かに不意を取るなら有効だけど、本来の持ち方よりも力が入りづらい。 筋力もそうだけど、君の場合それを理解せずに実行しているから不合格だね」
「うぅ……」
その駄目出しを聞いていたマローザが会話に割り込んだ。
「ジャッ君ったら、そんな意地悪してー。 今のは実践ならアヤリちゃんの勝ちでしたよー」
「え?」
それを聞いた私は、特殊な剣について思い出す。
「だろうね。 アヤちゃんの武器なら盾も意味を成さない。 仮に筋力不足でも、攻撃を許した時点で負けだったよ」
「ならアヤリちゃんの勝ちで良いじゃないですかー」
「……それでは駄目だよ。 彼女の剣の特異性が何故発揮できているのか判明していないのに、それを前提としただけの戦い方は彼女の為にならない。 いつ何時それが使えなくなるかわからないだろう?」
「確かに……それは、そうですね」
私はジャッベルの言い分に納得するが、それに対してマローザは不満の姿勢を崩さない。
「硬っ苦しいですってー。 そこまで考える必要はないですし、負けた言い訳にしか聞こえませんよー」
「まぁまぁ、マローザさん……」
私が宥めるも、木剣を持った彼女は模擬戦ようのフィールドに立って、ジャッベルに手招きをする。
どうやら私を彼女達で模擬戦を行うらしい。
「そんなアヤリちゃんの敵は取りますねー」
「え? 私の訓練では?」
「いや、それも良いだろうね。 君の場合見て学ぶことも必要な時期だよ」
「……そういうものですか?」
「そうそうー。 決して私が戦いたくなったとかじゃないかなー」
(それは、嘘なんだろうな……)
今度は私が審判を務めて彼女達の模擬戦が開始される。
ジャッベルは当然だったが、マローザも私に見せる為の戦いを意識しているらしく、勝ち負けよりも型を崩さない戦い方を重視して組み合っていた。
(確かに。 これなら勉強になるかも)
それなりに打ち合い続けた後、不意に全力を出したマローザの一撃がジャッベルに直撃したことで、また一悶着あったりした。




