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第21話② お嬢様との約束


==杏耶莉(あやり)=エルリーン城離宮・第二王子自室==


「数節後に控えている送還日。 そこで君には元の世界に戻らずにこの世界に留まってほしい」


 その言葉を聞いて一瞬頭が真っ白になるが、幾つかの感情が湧き出す。

 最初に感じたのは怒りだった。私の目標である元の世界への帰還を妨げる存在として目の前のラングを睨む。


(犯罪者ではないけど、敵だ……)


 いきなり攻撃を仕掛けるつもりは微塵もないが、それ以前までと同じく会話をする気にはなれなかった。

 次に感じたのは疑問だった。私が帰れるタイミングが存在するという意味であれば、以前アドルノートから聞かされた言葉と一致する。


(やっぱり、確実にその送還日というのは存在するんだ……)


 最後に感じたのは悲しみだった。なぜならこれまで築き上げてきた交流を絶ち、元の世界に帰る日が近づいていると改めて実感したからだ。


「……でですか?」

「ん?」

「何でそんな事を言うんですか?」


 ラングにその疑問をぶつけると、さも当然といった口調で話を始める。


「打算的な理由は存在するね。 君から得られる知識は断片的とはいえこの国の発展に貢献するだろ?」

「政治利用するってことですか?」

「……否定はしない。 一応これだけでも君を留まらせる理由足り得るけど、それ以上の理由もある」

「それは?」

「チェチェに泣き付かれてしまってね。 君の帰還日について教えたら、ワタシからも頼むよう言われてしまったんだ」

「え……?」

「まぁ、ラング殿下! (わたくし)、泣き付いてなどおりませんわ!」


 その言葉に私は唖然とする。


「そんなものだっただろう? フェンの意見も聞かせてくれるか?」

「……お嬢様の恥を広めるわけには参りませんので……」

「それは認めたのと同義ですわ、フェン!!!」


 あからさまに取り乱すチェルティーナを見ていると、ラングへの敵対がどうでも良くなってきた。


「……ラング様、理由はわかりました。 でも、その送還日について詳しく教えて貰えますか? 私はその日について詳しくありません」

「それは出来かねる。 口止めされているからな」

「それは、誰に?」

「それも答えられない。 けれど、その日に近づけば当人から話してくれるだろう」


 当人、と表現されて思い当たる人物が一人だけ存在する。マークだった。


(やっぱり、彼は何者なの……?)


 そう考えていると、ラングはカップに入った紅茶を飲み干す。そして、フェンに無言のおかわりを要求する。


「質問はもういいかな? それで、君の回答を聞かせてもらおう」

「それは……」


 いざ元の世界に帰ると宣言するのは躊躇われる。


「アヤリ様……」


 隣に座るチェルティーナもその答えを期待して見守っていた。仲良くなった友人としては会えなくなって欲しくはないのだろう。


「私は……。 私は帰ります。 この世界に残り続ける選択は出来ません」

「アヤリ様!」


 怒りと悲しみの混ざった感情で彼女に呼ばれる。


(わたくし)はアヤリ様と――」

「チェルティーナさん!」

「はい!」


 私は立ち上がって彼女の目の前に立つ。真剣な態度を感じ取った彼女も同じく立ち上がる。


「約束しましょう! 私は帰ります。 でも、必ず帰ってきます! 何年掛かっても、絶対に!」

「!」

「その根拠は?」


 傍で見ていたラングからそう聞かれる。


「そんなのありません。 でも、一度来れたんですから、また来ることはできますよ! ……多分」

「……そこで自信なさげになってしまうのですね」


 チェルティーナは大きく息を吸って、それをため息として吐き出す。


「はぁ……。 わかりましたわ。 でも、その約束が果たされなければ(わたくし)は許しませんわよ?」

「りょーかいです」


 少し震えた声で彼女は話を続ける。


「レスタリーチェの教え第八条『別れは己の糧となり 明日へと向かう原動力とせよ』ですわ! アヤリ様との別れは一時のものですが、その間にアヤリ様を驚かせられるよう精進致しますわね!」

「それなら、私も負けない様に頑張りますよ」

「当然ですわ!」


 目頭を熱くしながら、私とチェルティーナは抱き合う。それを見ていたフェンは手で目を覆った。


「……盛り上がってるとこ悪いんだけど、アヤが帰るのは恐らく数節後だろう。 このまま別れる雰囲気になってどうするんだ」

「え?」「まぁ」


 ラングの冷静なツッコミで、頭が冷やされる。私は席に戻って紅茶を一口飲むが、そんな事をしても羞恥心は消えなかった。


 ……


 その後はラングと私。ラングとチェルティーナという組み合わせで会話はしたのだが、恥ずかしさから彼女とまともに話せない状態になっていた。

 私が城から抜け出す際も人の目を気にしなければならない。その為、王宮の式とやらが終わる少し前に、会合を切り上げることになった。


「貴重な話が聞けたよ。 これから短い間でも、チェチェ経由で様々な話をして欲しい」

「は、はい……」

「……」

「ではチェチェ。 気を付けてね」

「……心遣い感謝しますわ」

「……」


 別れを告げた後、行きと同じくすんなり離宮から出る。そのまま人目に付く前に馬車へと乗り込むが、私達の間に会話はなかった。


「……」「……」


 気まずい雰囲気のまま馬車はマーク宅の前に到着する。


「着きましたよ、アヤリ様」

「はい……」


 フェンに手伝われながら馬車の外に出る。その様子をチェルティーナは無言で見つめる。


「あ」

「どうしましたか?」

「次、チェルティーナさんと会う約束が出来てない……」


 その言葉が聞こえたのか、馬車の中から声がする。


「次は当分先でよろしいですわ! フェン! 早く帰りますわよ!」

「えぇ……」


 怒っているわけではないのだろうが、強めの口調で私はその場に取り残された。


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