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第3話① 自警団ランケット

前回までのあらすじ:カーティス

闘技大会で優勝したものの、空腹が限界を迎え倒れてしまう。

それを介抱したグリッドにまんまと嵌められ、そんな彼に付いて行くことを余儀なくされていた。


==カーティス=酒場・ウィズターニル前==


 途中ドロップ店へ寄ったことを除いて、黙ってグリッドの後ろを付いて歩く。

 大通りから少し逸れた道に入ってすぐにグリッドは立ち止まった。


「さぁ、着いたぞ~」

「で、ここは何の建物なんだ?」

「何って、店自体は唯の溜まり場だな。 ま、遠慮せず入れよな~」


 自宅のような気軽さでグリッドは扉を開けてその店に入って行く。仕方なしに俺もそれに付いて行く。


 店の中は別段特別という訳でもなく、カウンター席とテーブル席がいくつか用意されているだけであった。どちらの席にも人が疎らに座っており、それなりに賑わっていた。

 その中にテーブル席に座っていた男性の一人が近づく。


「おうグリッド、また誰か連れてきたのか? ってガキじゃんか」

「あ?」


 来るなり突然人の頭を『わしゃわしゃ』と撫でる。敵意はなさそうだがムカつくので脛を蹴りつける。


「痛って!」

「ラッヅ、こう見えてお前より強いぞ」


 グリッドは足を抑えているこの男にそう告げると、店のカウンターの方へ歩いて行く。


「みんな、聞いてくれ! 我らが()()()()()に新たなメンバーを迎えることになった! 勇者と同じ髪色を持つ少年のカーティス君だ! 仲良くしてやってくれ~!!」


 店全体に響く大声でグリッドが話すと、疎らに拍手が起きる。どうやら説明もなしに何かの団体へと加入させるつもりらしい。


「おい! 聞いてないぞ!」

「カーティス君、そんな細かいことを気にしてるとモテないぜ~」


 ニヤニヤとしながらカウンターに寄っ掛かりながら、指を縦に振る。


「んのやろ……」


 喧嘩でも売ってやがるのだろう。腕を捲りながらグリッドに近づこうとすると後ろから肩を叩かれる。


グリッド(こいつ)が唐突なのはいつものことでな。 入団時の説明不足も誰もが通って来た道だと思って諦めるんだな」


 振り返ると、ラッヅという男と一緒に座っていた別の男性が、諦めたような顔で頷いていた。


「オレはガルロ、詳しい説明はするので、まずは来るんだな」


 まだ足を痛がっていたラッヅの襟首をつかんで引きずりながらテーブルに向かった。


 ……


 俺とラッヅ、ガルロの三人でテーブルを囲む。俺が座ると頼んでいない飲み物と料理が運ばれてくる。


「頼んでないぞ」

「グリッドからだ」


 店の店主がグリッドを指す、グリッド(当の本人)はサムズアップしてきたが、無視した。

 とはいえ折角なので料理はいただきつつ、ガルロ達に質問をしていく。


「まず、ランケットってなんだよ」

「ランケットは一言で言えば自警団だな。 一応この町では騎士団も巡回をしているが、あくまで犯罪の取り締まりだけだからな。 住民の問題解決を含めた手の回らない所を担当する非営利集団だな」

「なんか解決したときに謝礼が出るじゃん?」

「あれはあくまで礼であって義務ではないな。 お前は子供からも搾取するのだな?」

「しねーってしねー。 でもわざわざ休みを持ち回りでやってんだから謝礼は基本じゃん。 あ、ランケットのリーダーはグリッドな。 ああ見えてやり手だったりするじゃんね」


 つまりは形式上ボランティアのようなものらしい。一応仕事に応じて金は出るようだが。


「つまり二人は本職は別にあるのか?」

「そうそう、みーんなグリッドに連れられてだけで普段は働いてたりするんじゃん」

「そうだな。 オレとラッヅ(こいつ)は次の活動は明後日だな」

「今日の巡回は終わってここで飲んでたって感じじゃんね」


 店内を見渡すと誰もが戦えそうな男ばかりだった。そういえばグリッドは溜まり場と言っていた。


「この店ってランケットの拠点なのか?」

「そんな感じじゃんね」

「普通の客が利用することはあるが、殆どウチのメンバーが利用しているな」

「じゃあ、店主もランケットの人間なのか?」

「確か違ったはずじゃんね」

「そうだな。 だが、グリッドとは昔からの知り合いらしいな。 ランケット自体二年前に創設された団体だからな。 創設時から世話になっている様だな」


 店主を見ると親しげにグリッドと話をしている。 今でこそ料理を作っているが、かなり戦えると肌で感じられた。


「大体わかった。 説明ありがとう」

「おう。 そういえばカーティスは大会を見に来たのか? オレも観戦したかったけど見回りで行けなかったじゃんね」

「当たり前だな。 ラッヅ(こいつ)ときたらこっそり見に行こうとしてな」

「少しぐらいいいじゃんか。 ガルロは頭が固いじゃんね」

「な……」


 人に質問をしておきながら言い争いを始めるラッヅとガルロ。そんな彼らを気にせず料理に手を付けていると背後からグリッドが近づく。


「カーティスは観戦してないぜ~。 何故なら参加してたからな~」

「マジか!? ボルノスさんと戦ったりしたじゃんか?」

「ボルノスと大会では――」

「カーティスはボルノスと戦って勝ってたな~、それも大会外で。 というか優勝してるしな~」

「「!?」」


 俺の言葉を遮り結果を喋るグリッド。

 因みにボルノスとは酒場裏で戦った筋肉のおっさんのことである。


「す、スゲェじゃん! オレは予選敗退だったのに」

「あぁ、とても優勝できるように見えんな」


 ラッヅとガルロが順に驚くと、その言葉を待っていたと言わんばかりにグリッドがニヤつく。


「それならお前ら、こいつと手合わせしてみないか~」


 俺の意思とは関係なく、気が付けば手合わせをすることにされていた。


 ……


 店内のテーブルと椅子が端に寄せられ、広くなった空間の中心に立たされる。

 自警団のメンバーであるギャラリーは突然始まった模擬戦を楽しそうに観戦している。


「じゃあオレから行くじゃんね」


 ラッヅが俺と同じく中央に立つ。腰に下げられた短剣を引き抜いて構えるのと同時にポーチからドロップも取り出す。

 俺も同じくドロップを取り出すと、グリッドが審判として宣言する。


「形式は点数模擬の五点先取だ。 致命傷は避けて寸止めにしろよ~」


 点数模擬とは攻撃を与えた、もしくは寸止めした位置に応じて点数が設けられるルールだ。頭や心臓といった急所はそれだけで勝利点として扱われる。

 また、短剣なら一度で一点で、大剣なら三点と武器基準のセオリーも存在するが、その場の審判の判定が優先される。


「んじゃあ、始め!」


 同時にドロップを使う。ラッヅは実剣とドロップの短剣二刀流らしい。変わった戦い方だが、双剣使いは経験があった。

 相手が短剣であれば属性ドロップの遠距離か長物が有利だ。建物内なので槍のドロップを選んだ。


(槍の攻撃範囲に入ったらそこで……って立ち止まらないのか!?)


 槍の届く位置を越えて真っ直ぐと距離を詰めてくる。愚直すぎる戦い方だった。

 接近速度に合わせて寸止めできるように調整した槍を真っ直ぐと胸へ突き出す。


「オレに長物は不利じゃんね」


 急所を狙ったのが裏目に出て、短剣の腹で槍を防がれる。


「ぐっ……」


 槍を引き戻して再度の突きでは接近するラッヅの攻撃に間に合わない。咄嗟に槍から手を離して転がるように突進を避けると、純粋な足技で二度目の蹴りを彼の脛へとお見舞いした。


「痛ってぇ!!」


 完全に油断していたのだろう。クリーンヒットした一撃で足を抑えながら今度はラッヅが転げまわる。

 拾った槍で頭に穂先を向けると、グリッドの勝利宣言が響いた。


「……こいつに点数模擬の基本を誰か教えてやれ」


 槍を持った相手に突進するなど、かなり危険な行為である。特に点数模擬は性質上、寸止めとはいえ急所に攻撃をするのだ。防御が間に合わずに未熟な相手だった場合、最悪心臓を串刺しになる可能性もあった。


「すまんな。 後でオレがきつく言っておくな」


 相棒の醜態に素直に謝罪をするガルロ。


ラッヅ(これ)の相手をいつもするのは大変そうだな」

「あぁ、悪い奴じゃあないんだがな……」


 ガルロは「ぬぉー」と痛がるラッヅに白い眼を向けながら、俺に対するように中央に立った。


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