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第20話③ 褒賞伝達式


==カーティス=エルリーン城・謁見の間==


(本当に参加しないんだな……)


 褒賞伝達式当日、控室で待機した後に謁見の間で式が始まるのだが、その場にグリッドの姿はなかった。

 この男なら、冗談で参加しないなどと言いそうなものだが、準備の場等でも本気で参加しないという恰好は崩さなかったので、薄々言葉通りなのだろうとは思っていたが……。


「控えおろう。 我らが主君代行、ディンデルギナ第一王子の御前だ」


 この部屋に入り、数歩歩いた時点でそう告げられる。段取りは頭に入っているので俺達は慌てることなくその場に跪く。

 高い位置に設置された玉座に第一王子が座り、その周囲を貴族の仕官が囲む。さらに、俺らの周囲には武器を持った騎士が配備され、不穏な動きをすれば直様取り押さえられることだろう。

 当然だが、武器やドロップの類は持ち込んでいないし、念入りなボディチェックも済ませている。その為、この場の騎士達と戦うのは困難と言わざるを得ないだろう。その様なつもりは毛頭ないが。


「では褒賞伝達の式を執り行う。 進行はわたし、宰相エカルゴッスが務めさせていただく」


(エカルゴッスが宰相か)


 俺の知る何年も前の世代と同じく、この一家が宰相の座に就いているらしい。

 彼らは国の為を第一に、時に身内であろうと非道な選択ができる。そのような態度は理解こそ出来ないものの、芯の通った部分はチェルグリッタ(彼女)も評価していた。


(四、五代は代替わりしているだろうに。 案外わかるもんだな)


 想像の域を出ないが、この場に出席している貴族の顔ぶれを見て、幾つかの面影を感じる。当然、全員を完璧に把握出来るとまではいかないが、それを見て懐かしさを感じた。


「まず初めに、其方ら自警団ランケットが褒賞を得るに値するに至った功績を述べる」


 宰相はわざとらしく書簡を広げるとそれを読み始める。


「自警団ランケットは、その人的包囲網を用いて、この町の治安維持に多大なる貢献をした。 事実、組織後の活動において、犯罪防止率及び、摘発率の大幅な減少が目に見えて発揮されている。 また、騎士団との連携も適切に取れ、現在に至るまで大きな騒動は発生していないことを確認するものである」


 普段の活動による影響で、犯罪が減ったという。俺は巡回にはほぼ参加していないが、ランケットの活動の中でも熱心に行われている印象だった。


「また、二年前(六節前)のルナリーズ令嬢拉致事件において、騎士団よりも素早く令嬢の場所を発見し、救出したとしてルナリーズ伯爵から褒美を得ている。 今回の褒賞に際し、かの伯爵から謝辞も預かっている」


 これは俺の知らない事件である。ルナリーズとは、西部の小領主の家名だったはずだが、今も領主として家が続いているのだろうか?


「また、今回の褒賞を与える最大の決め手となった社交界襲撃。まだ記憶に新しいこれにて、貴族の負傷者を出すことなく主犯格を捕らえたという多大なる功績を認める。 これを以ってランケットには現行犯捕縛の権利と、有事人払いの権利を与える」


 現行犯捕縛とは、確たる証拠を持っていれば、たとえ相手が貴族であっても捕まえることができるという権利の事である。騎士団用に設定された権利だったが、これを自警団であるランケットにも適用するということだった。

 有事人払いとは、何らかの問題が発生した場合に人をその場から遠ざけさせる権利の事である。従わなかった場合犯罪として扱われるので、余程の馬鹿でなければ従うだろう。尚、有事以外に使用した場合は使用者が罰せられるので乱用も出来ない。騎士団及び貴族の有する権利だが、これも適用される。


「これらに対し、謝りや、不平不満があれば申してみよ」

「一切の問題なく、今の発言の全てを肯定致します」

「相分かった」


 宰相のそんな言葉にスコーリーが答える。これも事前の段取りで話されていたことなので、すんなりと話が進む。


「では、殿下より其方らランケットに対しての謝辞がある。 では殿下、お願い致します」


(ここからか……)


 この謝辞に対してのみ、式の中でどう動きがあるかわからない部分だった。


「うむ、ランケットの代表者達よ。 我がディンデルギナである。 この度は我が国へと多大なる貢献感謝の意を示そう。 大儀であった」


 顔を伏せたままなので姿は見えないのだが、何やら視線を強く感じる。


「して、日頃の治安維持も称賛に値するが、それよりも先日の一件。 それにて活躍をした者が居るらしいが、それは貴様らの誰だ?」


(なっ……!?)


 俺とこの殿下とでは一応の面識が存在する。社交界襲撃で俺が活躍していることは当日やその後のやり取りを経ているので、当然理解しているはずだった。

 にも拘わらず、この言い回しをしたということは、この式で俺を面前に出そうという腹積もりなのだろう。


(以前のやり取りと話が違う!)


 俺に素性を明かすなと言っていた彼が、どういう訳か俺を目立たせようとしているらしい。


「……お、俺です」

「うむ、其方か」


 参加しているという情報をこの殿下が得ている以上、名乗り出ないのは失礼に当たる。俺が返事をすると、殿下は満足げに呟いた。


「意外だな。 よもやまだこのような子供であるとは、な。 其方、名を名乗れ」

「……カーティス・スターターと申します」

「スターターか。 それはこの大陸から離れた、エジリアスト大陸で使われていた家名だな?」

「……」

「つまるところ、其方の出身はこの国ではない。 ということで良いか?」


(いったい何が狙いなんだ……)


 恐らく、俺の素性は既に調べているのだろう。それをわざわざこのような公的な場で質問してくるのには、何らかの理由があると見て間違いなさそうだ。


「……その通りでございます。 俺はエジリアスト出身の身、この国は疎かこの大陸出身の者ではありません」

「で、あるか……」


 その言葉に同調するように、貴族のうちの一人が叫んだ。


「他大陸の野蛮人!? その様な者が我らが城に紛れ込んでいるとは! 即刻、この野蛮人を殺処分しろ!」

「なっ!?」


 その号令と共に、周囲の騎士が槍を俺達に向けて構えた。


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