第20話② 段取りと尾行
==カーティス=オウストラ商会・会議室==
俺の抵抗も空しく、褒賞伝達式へと無理やり参加させられることになった。
実力行使や、本気で逃げれることは可能ではあるが、そこは決まってしまった役割はこなそうとする性格が邪魔をして、段取りを決める場へと来てしまっていた。
(勇者って生き物は、本質的にお人好しなんだろうな……)
「――ってわけだが……カーティス、聞いてたか~?」
「ん? あぁ、聞いてた。 原則の受け答えは副リーダーのスコーリーが担当。 それ以外は極力動かない様に、だろ?」
「そうだ~。 何かしら失礼な動きがあった場合、それを面倒な貴族様に付け込まれる可能性があるからな~。 その点、スコーリーなら貴族相手でも申し分ないだろ~?」
「んむ、基本的に任せて貰いたいですな」
スコーリーが胸を叩いて頷く。
「……それだけなら、俺は不参加でも良いんじゃないか?」
「それがな~。 今回の褒賞、先だっての社交界襲撃。 そこでの活躍が後押しになってるんだよ。 そこで勇者色の少年が活躍したという噂は広まってるからな~。 悪いが参加してくれ~」
「そうか……」
あの事件では、城内を走り回って多くの騎士や貴族を助けていた。善い行いをしているのに、こうも巡り巡って面倒毎になってしまうとは……。
「俺が参加するのは、まぁ……納得したが、お前が参加しないのは納得できない」
「……それは、悪かったって~」
「今からでも遅くない。 その予定とやらより優先しろよ!」
俺が飛び掛からんばかりにそう怒鳴ると、それを隣のスコーリーが静止する。
「グリッドは参加できない。 それはカーティス殿がこの場で何を言おうと覆りませんな」
「何でだ」
「……それは――」
「理由は言えない。 だが、納得してもらうしかない。 本当に申し訳ないが、それで頼む……」
「……」
珍しく間延びしない真剣な口調でグリッドにそう言われる。
「……カーティス」
「はぁ……、わかったよ。 だけど、一つ貸しだ。 それなら納得してやる」
「おぅ、それでいい。 助かるぜ~」
その後は、予め予定されているプログラムに沿った段取りについて聞いていく。
まず、参加者は俺と副団長のスコーリー。知識人枠としてサフィッドに、ベテランの団員が二人という構成だった。
式の構成としては、これまでのランケットがしてきた功績を述べて、それを称える。国代表として第一王子が感謝の謝辞を送り、スコーリーが謝辞を返す。
その後、ランケットに与えられる特権についての説明をして退出という流れらしい。因みに特権とは名ばかりで、大した権利ではないのだそうだ。
「――っと、一連の流れはこんな感じだな。 質問はあるか?」
「……謝辞ってどういうの?」
控えめに挙手したサフィッドが質問すると、グリッドが答える。
「堅っ苦しく、其方らの功績が云々とか、理想国家の為に力添えをどうとか。 そんな言葉を長々と話すだけだ~。 お前は黙って聞いてればいいだけだぜ~」
「……そう」
経験ある身としては、上位階級というのは兎に角面倒臭い。何が楽しくて、遠回しで長い文言に意味を持たせるのか。その点、直球的な発言ができる平民庶民の方が俺は向いているのだろう。
「他に質問は?」
「服装はどうするのでしょうか?」
ベテラン団員のうち、一人がそう質問する。
「オウストラ商会で礼服を用意することになってるな~。 だから、この後採寸するぞ~」
「使い終えた礼服はどうするのでしょうか?」
「特注品だから回収しても仕方ないし、本人にやるぞ? 大事にするなり、売るなり好きに扱ってくれ~」
その言葉を聞いて、ベテラン団員はガッツポーズをする。オーダーメイドの礼服なんて、普通用意できるものではないので嬉しいのだろう。
(俺とサフィッドは貰っても仕方なさそうだけどな)
年齢的に成長期前なので、日を置かずに着れなくなるのは誰にでも分かる。
「他の質問はあるか~。 ……なさそうだな~」
グリッドは、この場の全員を見渡して問題がないと判断すると、大きく腰を折る。
「参加できないオイラの代わりに、当日は頼んだ!」
「任せろ」「承りましたぞ」「……うん」「承知しました」「おう」
この場の全員で口々に返答すると、グリッドは小さな声で「(ありがとう)」と言った気がした。
……
段取り会議ののち、採寸を終えて現地解散したので、俺は町をのんびりと歩いていた。
つい先日、一時期滞在していたノークレスの町と比べてしまう。それで改めて感じるのは、このエルリーンという町は治安が良い。それもこれも、騎士団やランケットによる所が大きいのだろう。
(首都だからって、力が入りすぎな気もするけどな……)
国の中枢とも言えるこの町を良くすることは、国全体にも関わってくる。列車が開発されたことで人の流動も活発になっているからこそ、その成果は国中に広がりやすいだろう。
(グリッドも、その辺を考えて自警団なんて組織してるんだろうな……)
かつて俺が知るレスプディアは、今より荒れていた。それでも他国と比べれば平和だったのだが、現在のこれと比べれば雲泥の差と断言できる。
(時代ってやつなのかもしれ――!?)
そんな事を考えていると、俺が尾行されていることに気が付く。すぐに気が付けなかったのは相手が諜報に長けた人物だということなのだろう。
幸い俺が気が付いていることは悟られていないらしいが、この時点で俺をつける理由は……。
(ランケット関係か?)
可能性としては低くないだろう。そうであれば、裏に貴族関係者が控えていることになる。
(あれだけの手練れだ。 首都で堂々と活動するぐらいだし、捕まえても口は割らないだろうな)
今、俺をつけている人物を掴める意味が薄いと判断し、人通りの多い道へと曲がった時点で、目立つ色の髪をフードで隠した。
暫く自然な動きで進み、尾行を撒けているのを確認してから、寝泊りしている酒場へと帰った。




