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第20話① ランケットの褒賞


==カーティス=酒場・ウィズターニル==


「おっ、サフィッドじゃねぇか」

「……どうも」


 昼を過ぎた位の時間に自室から降りると、珍しく嬉しそうなサフィッドが座っていた。


「何か良いことでもあったのか?」

「……うん、アヤと――」


 彼の説明曰く、彼女に言語について教えていたが、それが終了したらしい。


「そんなに早く終わらせたかったってことか?」

「……違う。 けど、やり切ったって感情と、お礼を言われたのが嬉しくて……」


(……もしかしてこいつ……)


 よもやと思って、俺は直球で質問する。


「アヤリに気があるのか?」

「……え? いや、特に……?」


 すんなりとそう答えられる。サフィッドの性格から、図星であればここまで冷静に答えることはできないだろう。


「そうか……。 ならいい」

「……??」


 そんなやり取りをしていると、俺が降りてきたのを見ていた給仕の女の子が料理を運んでくる。この店の全メニューを制覇していた俺は、それ以降お任せで頼むようにしていたが、そのうち注文すら取られなくなっていた。何か指定して食べたい時だけ注文するようにはしているが。


「うむ、旨い」

「……寝起きでよく食べれるよね」

「それが取り柄だからな。 良く食って寝るのは大事だぞ?」


 過去勇者には病弱な者も居たので、低血圧そうなサフィッドの気持ちはわからないでもない。だが、今の俺は食欲旺盛の育ち盛りな男の子だから、気にせず食べる。

 サフィッドは会話が終了したと判断したのか、本を取り出して読み始める。彼は暇を見つけては何かしら読んでいるが、重そうな本を持ち歩いているので、そこまで虚弱体質という訳でもないのかもしれない。

 勢い良く食事を済ませて、果実水で喉を潤していると、店の扉からグリッドが現れる。手には証書が握られ、普段の裏がありそうな微笑みではなく満面の笑みで声高々に叫んだ。


「喜べお前ら~!!! ランケットが正式な褒賞を賜ることになった~!!!」

「「「「……う、うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」


 一瞬の静寂と共に、その場に居た男性達は咆哮の様な喜びを叫ぶ。


「うるせぇ!」「……」


 いまいちその喜びを共有できない俺と、おとなしい性格のサフィッドは耳を塞いで抗議する。


「おい、グリッド! どういう意味なんだ!」

「言葉の通りだな~! ランケットはあくまで民間の自警団! 特別な権力は持ち合わせてなかったんだが、これで国に認められたって事だ~!」

「……そういうことか!」


 周囲が五月蠅いので、互いに大声で話をする。


「国管轄の騎士団では手が回らない部分の補完をする目的で始まった集団だが、それが国に認められるってことは大きな意味があるんだ~!」

「だろうな! 何らかの問題が発生した時に融通も利くだろうしな! でも、褒賞って事は、国管轄になるのか!?」

「いや、それはないな~! それじゃあ騎士の延長になっちまうだろ~!? それは意に反するから、今の体制のままになる予定だ~!」

「でもそれは――」

「「「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

「……うるせぇ!!!」


 落ち着いて話ができないので、グリッドを押し出す様にして一度店を出た。


 ……


「でだ。 それは貴族共が黙ってないだろ?」

「共って、カーティスお前な~……」

「別に構わんだろ? こういうのに口を出してくるような輩は、大概貴族の風上にも置けん奴らだろうしな」

「……貴族の矜持?」


 背後からそんな言葉を言われて振り向くと、そこにサフィッドが立っていた。どうやら彼も店内のあの騒音から逃げてきたらしい。


「そうだ。 この国の貴族にあるべき姿を示して、それにそぐわない者共は粛正された。 それは知ってるだろ?」

「二十五代目勇者、チェルグリッタ・レスタリーチェ主導で行われたあれだな~。 つったってな、それから何年経ってると思ってるんだ。 親がまともだったとしても、子孫がどうしようもない奴だったりするんだよな~」

「……やはり、貴族制度そのものに問題があるな」

「これでも、貴族特権は他国より少ないんだけどな」


 身分制度とは、優秀な人材を保護するために存在する。にもかかわらず、それを振りかざして暴挙をする貴族は後を絶たなかった。それらの者共を牽制する為に、理不尽な要求はたとえ貴族であっても平民に強要出来ない。そういった法改正がチェルグリッタの時代にされ、証拠の挙がった貴族は粛清された。

 故に、貴族特権はこの国では失われつつある。法廷では平民と貴族が同等に扱われるのがその証拠だろう。


「……と、話が逸れたな。 一部の貴族は力を手中に収めようと動くだろ? 今までは単なる民間自警団だったが、国に認められたという箔が付けば、面倒になるのは目に見える。 辞退した方が良いんじゃないか?」

「……確かに」


 俺の言葉にサフィッドも賛同する。


「でもな~……。 お前らは知らんだろうが、オイラ達は結構苦労してきてるんだよ~。 だから、この国を良くする為には避けて通れないって思うんだよな~」

「……」


 俺は正式な団員じゃないし、サフィッドもランケットの知識人として採用されて日が浅い。


「……危険性は理解してるぜ~。 優秀な人材の引き抜きやら、情報の流出、そういった面倒事を乗り越えなけりゃあ平穏な国は作れねぇ」

「……そうだな」

「だからこそ、お前らに頼みたいことがある」

「俺ら?」


 グリッドは俺とサフィッドを指差す。


「褒賞は城で開かれる褒賞伝達式だが、そこには代表数名で向かうことになる」

「――グリッド、ちょっと待て」


 俺が「聞きたくない」と口を塞ごうとするが、それを躱して話を続ける。


「そこにカーティスとサフィッドを入れようと思ってる」

「――行く分けねぇだろ!」「……え?」

「でもって、オイラは用事があるから、当日は頼んだぜ~!」

「はぁ!?」


 ランケットのリーダーである彼が不参加を決める理由がわからない。


「詳しいことは後日話をするつもりだから、頼んだぞ~」


 そう言い放つと、グリッドはまだ騒がしい店へと戻って行った。


「……カーティス、どうする?」

「俺は嫌だからな!!!」


 なんとなく、断れない気がするものの、最後の抵抗としてそう叫んだ。


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