第19話③ 最後の講義と旅の報告
==杏耶莉=ノービス教会エルリーン支部==
「……今日で最後?」
教会の講義に参加した後の恒例となっていた私との勉強会を始めようと、準備をしていたサフスに説明をする。
「うん。 ここでの講義自体、今日で全種類参加だったし、もう平均的な識字能力は身に付いたから」
本来は一度受けた講義には参加しないものである。にもかかわらず毎回来ていたサフスが特殊だったのだ。
であるからして、私が最初に講義に参加した際に参加していた人達は既に見かけなくなっていた。それに代わって、新たに参加する人達と入れ替わっているというのがここの仕組みなのだろう。
実際、全講義を受けて更なる寄付をすれば証書を貰えるらしい。そこまでして欲しいとは思わないが……。
「……」
「それに、それ以外に集中したいことも出てきてるし」
今は怪我のせいでやれていないが、剣の鍛錬に本腰を入れたいと考えていた。
「……そう」
「ゴメンね。 今まで手伝ってくれてたのに私の都合で……」
「……別にそれはいい。 アヤが決めたならそうすべきだから。 それに、僕も前よりここに来る事が減ってたし……」
「そういえば、そうだよね」
最初の頃は必ず出席していたサフスだったが、特にここ数回は見かけないことも珍しくなかった。
「……ランケットでやることが増えてるから……」
「そうなんだ」
「……これも、アヤのお陰かも」
「私の?」
彼に何かをしてあげた記憶はない。寧ろ、私が彼から教わっていた状態だった。
「……声、掛けられて。 逃げなかったのはアヤのお陰」
「?」
「グリッドに話しかけられたけど逃げなかった。 それはアヤと話をして、家族以外と会話できるようになったから……」
(グリッドって、ランケットのリーダーの人だったよね?)
直接会ったことはないが、その名前は何度か聞いたことがあったはずだった。
「そっか……」
「……うん。 だから、ありがとう」
「どういたしまして。 私も、今まで付き合ってくれてありがとう」
「……うん」
この後、最後になるからという理由で難しい問題をハイペースで出題された。
動けない分頭脳労働をと無理やり付いて行こうとした結果、椅子に座ったままだったのにも関わらず、疲労困憊で帰宅することになった。
……
教会の講義を終えた翌日、私はチェルティーナの別荘へと来ていた。
「……そんなことがあったのですわね」
「はい、大変でした……」
ドレンディアへ向かっていた間に起きた出来事について教えて欲しいと言われたので、その説明をした。
「御ばあ様より言伝を預かっておりますわ。 なんでも、カティ様にお礼を言いたいと。 何があったのでしょう、アヤリ様は知ってらっしゃいますの?」
「いや、カティくんが何か頼み事ってのをしていたみたいだけど、私も詳しくは知らないですね」
「そうですの……。 それにしても他国への旅行、憧れますわ! 私、他国へと渡った事がありませんの」
「……チェルティーナさんの実家って、ドレンディアと近いと思いますが、それなのにですか?」
「そうですわ。 これでも時期当主の身ですので、自由に行動できるわけではありませんの。 上に立つ者は必要があれば使いを出すものですし、自ら国境を越える機会はありませんわね」
「今はその分自由にやってますわ」と彼女は付け加える。
「……貴族ってのも大変なんですね」
「それはそうですわ。 民の中には、豪華な生活を徒労なく出来ているなどと考える者もいたりしますが、実際は仕事に追われ、睡眠もままならない方も存在しますの。 そういった方々の力で、平和が保てておりますわ。 ……過去、税を引き上げて贅沢三昧をしていた貴族もいらっしゃいますので、そういった偏見も致し方ないのかもしれませんが」
「な、なるほど……」
彼女は「ふぅ」と息を吐く。
「で、その所為でアヤリ様は怪我をしているということですのね」
「そうなりますね」
現在はコルセットをきつくし過ぎない程度で着用している。
「まったく……、危険な場所に自ら向かうからそういった騒動になるのですわ。 軽率な行動は控えるべきですわね」
「……そうですよね……」
気を抜いていたとはいえ、元はと言えば裏路地に迷い込んだのが原因である。
「危険はどこに潜んでいるかわからないものですわ。 アヤリ様は目立つのですから、注意しませんと」
「あっちの町ではそこまで目立っては――」
「まぁ! なら何故人攫いに目を付けられるんですの?」
「それは……。 確かに、そうですよね」
あくまで主観で町に溶け込めていると感じていたが、実際はそうではなかったのかもしれない。
(今にして思えば、露店でもカモにされてたのかも……)
他の客よりも声を掛けられてた事が多かった気もするので、その可能性はないとは言い切れなかった。
「でも、その為に自力を今よりも身に付けるのは良い考えですわね。 私の場合常にフェンが護衛しているので発揮する機会はありませんが、一応の心得はありますのよ」
「そうでなのすか?」
「えぇ、実家では女も強くあるべきという考えですので、その辺のチンピラ相手なら負けませんわ!」
そう豪語する彼女を訝しんて、私は近くに居たフェンを見る。
「……確かにお嬢様は戦えます。 現在のアヤリ様より強い位ですね」
「え!? でも私の剣は――」
「それについての情報は知っていますわ。 そもそも、剣を受けた時点で令嬢としては負けみたいなものですので、華麗に回避してみせますわ!」
チェルティーナは「傷は女の価値を落としますわ」と、その場で踊る様にくるくる回る。
彼女は元勇者の家系なので、武に長けているということなのだろうか。
(なんか、体育会系な雰囲気出てたもんな……)
先日彼女の実家に訪れて、そんな印象だったと思い返す。
「何なら、一戦交えてみます? 私体を動かすのは嫌いではありませんもの」
「いや、怪我してるので……」
何やらスイッチの入ってしまった彼女に、当然の断りを入れた。




