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第19話② 想像力と価値観


==杏耶莉(あやり)=騎士団第七隊宿舎・隊長室==


「想像力か……」

「はい。 そうらしいです」


 騎士団の宿舎へと戻った私は、早速マークから聞いた話をメルヴァータ隊長に伝えた。


「……古来よりドロップ……正確にはそれに準ずるタガネから作られるものだったか。 その研究は行われていた。 それに関する書物を読んだことがあるが、そこではドロップの能力発現が想像力ではないと否定されていた」

「そうなんですか?」

「あぁ。 その書物では、とある実験が行われていたんだ。 槍を見たこともそれが何かも一切知らない子供に槍のドロップを使わせてみる、というね。 けれど、その結果は使うことができなかった。 その実験に参加していた子供に槍の適性があったにも関わらず、ね」

「適性があったのにですか?」

「そうだ。 剰え第一適性の者までいたそうだ。 けれど槍という道具の知識がなければ生成できない。 想像力でドロップが扱えるなら想像通りの槍ではない別の何かが生成されるべきだ。 そう結論付けられていた」

「……」

「だけど、私はその実験が全てだと考えてはいない。 もし、その時足りていないのがイメージ。 それも、実物を見た事があるという鮮明な想像が出来ていなかっただけだとすれば……」

「私の剣も、そのイメージが出来ているから実現している、ということですか?」

「……だって、君の世界にはそれだけの事を行使できる剣が存在するのだろう?」


 正確には創作物の中でしか剣なんて見たことがないのだが、一応頷く。


「であれば、隊員たちの想像力が足りていない。 そうなるかな」

「でも、実物が見れないなら……」

「それは違うだろう?」

「え?」


 元の世界に戻ることができないので、不可能だと考えたのだが、それを隊長は否定した。


「君の生成した剣があるじゃないか。 それを元に固定概念を払拭できれば可能だと私は考えたよ」

「あ、確かにそうですね」


 事実として斬れすぎる剣を生成できる。


「君の武器が非常識だという根底があるから、それは不可能だと考えるんだ。 事実を認めて、常識を破壊すれば無理ではない」

「非常識……」


 様々な人に言われて来た言葉だが、未だに面と向かって伝えられると心に突き刺さる。


「これまでの循環では想像力を養うのは難しい。 ゾロギグドが辞退を申し出てきたのもあって丁度良い。 二人程度に絞って君に伝授願うのが良いかもしれないな」

「そうですね……」


 確かに、今までは順繰りに根性による特殊剣の訓練をしていたが、対象を絞る方が私としてもやり易い。


「頭の柔らかそうなのは……、マローザとライディンだな――」

「ライディンさんは止めてください」

「……では、選出の希望はあるかな?」

「……マローザさんは確かに向いてそうですし、あとは……ジャッベルさんでお願いできますか?」

「ジャッベルはあれでも融通が利かない部分があるぞ?」

「……マローザさんの暴走を止めてくれるので」

「そうか、わかった……」


 マローザはよく暴走する。 隊員の中でも彼だけが、それを止めてくれていた。 隊長の話題に発展すると逃げ出す事を除けば相性が良かったのだ。


「君も籍を入れているが特殊な扱いの見習いだ。 だからこそ言わせてくれ。 我が隊の隊員が迷惑を掛けた……」

「い、いえ。 大丈夫ですから……」


 非常に申し訳なさそうにするメルヴァータ隊長に同情の念を抱きながら、帰路に就いた。


 ……


 マーク宅と騎士宿舎を往復した影響で何時もより帰りが遅くなっていた。日が傾き、夕日が町を赤く染めている。

 現代程街の明かりが充実していないので、この町の夜は本当に暗い。それまでに帰ろうと、道を歩く人達は足早に歩みを進めている。


(まだ少し痛いな……)


 幸いルーガスから受けた傷は大したものではなく、絶対安静という訳ではない。だけど運動や戦闘ができる程軽くもないので、私はのんびり歩いていた。


『長くても一節程度だろう?』


 ドレンディアの町、ノークレス。そこを出発する直前に聞いたアドルノートの言葉を思い出す。


(私が帰れる時期が決まってる?)


 私の怪我のせいでうやむやになってしまったが、それをマークは知っている様だった。

 それを知っているのであれば、何故彼は教えてくれなかったのだろうか。事前に教えてくれていないということは、きっと私が聞いてもはぐらかされるだけだろう。

 そもそも、他の世界からの出身であるということぐらいしか彼自身のことを知らない。精々あの研究室を見て、私が居た地球よりも技術力のある世界だったと予想できるだけだった。


(私、何も知らないな……)


 家事全般は同年代の日本人の中では優秀だと自負していたが、実際は一から料理できるレパートリーはごく少数だった。掃除洗濯はドロップ製品が揃っていたので、遜色なくこなせているが、それがないこの世界の一般家庭ならたかが知れていたことだろう。

 それ以外でも、チェルティーナと元の世界の話をしても表面上しか物事を知らなかったと実感させられた。


(仮に、この世界に残っても、私に出来ることなんてあるのかな……)


 勉強は言われるがまましていた程度の自分に恥じる。もっと様々な知識があれば、もっと色んなことを知っていれば私の価値は違っていたことだろう。


(帰れるとして、また戻れたりしないかな……)


 現代と比べて圧倒的に不便なこの世界だが、それ以上に関わった人達との思い出が頭を過ぎる。

 理想を語るなら、一度元の世界に戻り、知識を蓄えてから再度この世界に来たい。そう考える程には私はこの世界の人達と仲良くなりすぎてた。

 瑞紀(みずき)には悪いが、ここの全員と別れるのは寂しいと考えてしまう。そういった意味では元の世界への執着は薄れてしまっていた。

 仮に、本当に元の世界に帰れるとして、その時が来たら帰るという選択を私は出来るのだろうか……。


「私は……」


 三か月を迫った私の不透明な滞在期間に怯えながら、マーク宅へと戻った。


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