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第19話① ドロップの特異性


==杏耶莉(あやり)=騎士団第七隊宿舎・訓練広場==


「何と言いますか……。 こう……、斬るぞっ、っていう気合で……」


 私は第七隊の宿舎に特殊な剣を使えるようにする訓練をしに来ていた。ドレンディアでの傷が完治していないので、椅子に座ったまま彼らに教えることに集中している。私の訓練は暫くお預けである。


「……うーん。 やっぱオレには難しいな」

「ゾロさん、いい年齢ですもんねー。 やっぱり若い者には勝てませんよー」

「そういうマロちゃんだって出来てねぇだろ?」

「そうなんですよねー。 それが問題でー……」

「オレと変わらねぇじゃねぇか!」


 今日はゾロギグドとマローザに教えている。とはいえ、教えていると言っても私自身特殊な剣を意識的に生成しているわけではないので、ほぼ根性論なのは以前と変わらずだった。


「あー、オレは無理だ、諦めた。 そもそもドロップは好きじゃねぇし、次回以降はオレ抜きで順番を組んでくれ」

「そんなー。 自分が年長者だからって勝手なー」


 年長者。事実ゾロギグドはこの隊で最年長と思われる。恐らく四十歳過ぎなのではないだろうか。対するメルヴァータ隊長は三十歳……、もしかするとそれすら越えていないかもしれない年齢なので、違和感があった。


「そういえば、ゾロギグドさんって隊長より年上ですね」

「そうだな。 俺は元第三隊所属だったんだが、第七隊が再結成する時に移籍したんだよ。 メルヴァータ隊長の父君が元第七隊隊長で、俺も世話になっててな。 若くして隊長に任命されるってんで、助っ人にな。 つっても、隊長には実力がなけりゃあ慣れないぞ? コネだけで慣れる程甘くはないからな」

「そうなんですよー、隊長は凄いんですよー」

「……何でマローザさんが誇らしげなんですか……」


 胸を張ってメルヴァータを褒める彼女に呆れたという表情をすると、軽く頭を小突かれる。


「……隊長の素晴らしさが分からないアヤリちゃんを真っ二つにする剣よ、い出よー!」

「洒落になってませんって!」


 結局、この日に彼女らが特異な剣を生成することはなかった。


 ……


「――という訳で、今日も無理でした」

「成程な。 やはり一筋縄ではいかないか」


 メルヴァータ隊長に今日の成果を報告しに向かうが、事実として私が役立てていないことに焦燥感を覚える。


「……異世界の人間でなければ不可能だとでもいうのだろうか。 だが、君の世界にドロップは存在しないのだろう?」

「はい。 ですので、無理って訳でないと思うのですが……」


 この世界のドロップで発現する能力であれば再現可能だという前提で事を進めてはいるが、それ自体が誤りである可能性も十二分に存在する。

 戦闘で利用しているものの、自らの力の理由を知らないまま使い続けるというのも危険だと感じるので、それを把握したくもある。


「ドロップに関する知見ある人が居れば良いのだが……」


(ドロップの知見……)


 そこまで考えて、ある一人の人物を思い浮かべる。

 ドロップ製品などという便利道具から、列車の設計までをこなしたある人物――


「……知り合いにドロップについて研究している人が居るんですが、会ってみますか?」

「そうだな。 このまま闇雲な事を続けても意味がない。 紹介して貰えるかな?」


 ……


「――という訳なんだけど……」

「ボクは今、ドレンディアで入手したドロップを調べるので忙しいんだけど?」


 そんな事情をマクリルロに説明するが、すんなりと断られてしまう。


「そこを何とか」

「とは言ってもね……」


 私とカティ以外入室が許されない研究室内で、謎の機械を弄りながら彼は面倒臭そうにため息を付く。


「……そもそもボクはキミの剣に特異性があると知らなかったんだけど?」

「それは……すみませんでした」


 研究を手伝う上で説明すべき内容だったが、報告が漏れていたらしい。


「それと、その隊長とやらに会うのは時間が惜しいから断らせてもらうよ。 でも進言として、仮説でよければ教えてあげることはあるかな」

「本当!? どんな事?」


 私が前のめりに質問すると、彼は説明を始めた。


「まず、稀にそういった特異性を有する人は二パターン存在する」


 彼は指を一本立てて説明を続ける。


「一つ目はユニークドロップ。 これは未発見のドロップ適性をその人間が有する場合の呼称だね。 これは託宣のドロップでのみ能力が発現する。 ドロップの元となるタガネにどのような理由で能力が決定づけられるか。 その条件がわからない以上は、その人しか使えない能力の特異性と言えるね」

「ユニークドロップ……」


 続いて彼は、指をもう一本立てて説明を続ける。


「二つ目はキミに近いものだね。 特殊な環境に居たり、閉鎖的な場所で過ごしていた人達が普通に流通するドロップに特殊な能力が見られる事がある」

「それって……」

「そう。 キミはこの世界の人間とは明らかに違う環境で生まれ育っているだろう? だからこの条件に該当するんだよ。 とはいっても、その例で示している特殊な能力というのは、生成される水が硬水だったり、弓の構造が違うという程度で、何でも布みたいに斬り裂けるなどという非常識な代物ではないかな」

「非常識……」

「以上を踏まえた上で考えられるものとして、ドロップの生成物や現象変化にはイメージが重要じゃないかなと思っているんだ」

「イメージ?」

「そう。 そもそも、自然物から抽出したエネルギーを有する品で、人の歴史で作られて来た道具を生成できるというのが可笑しいだろう?」

「それは……確かに」


 意図的に狙っているわけでもないのに、タガネを加工して作られるドロップで、剣の様な武器に限定されて生成できるのは変である。


「脳の■■■■■に関する知識はあるかな? それとリンクして情報を再現していると考えれば……って、付いて来ているかい?」


 私は首を振る。


「脳が記憶や想像を行っている部位についての知識は?」


 再度首を振る。


「その手の分野がキミの世界で進んでいないのか、キミの知識不足なのか。 どちらにせよ教えるのが面倒だからそこの説明はいいかな」


 少なくとも、私はそこ手の込み入った勉強をしているような年齢ではない。


「兎に角、想像力でキミの剣が再現できる可能性があると言えば伝わるかな? 先程もいったけど仮説だけどね」

「……わかった。 説明してくれてありがとう」


 私はそう答えると、今聞いた内容を伝えに、再度騎士宿舎へと戻った。


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