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第18話③ 怪我と帰路


==カーティス=ノークレス・北側出入り門前==


 この町を出発する際に、アドが見送りに来ていた。

 余談だが、今日の早朝には既にあの偽勇者はこの町に残っていなかった。・……まるで、目的は達成したと言わんばかりで気味が悪い。


「折角遥々来たのに。 もう少しゆっくりしていけばいいと思うのだけど?」

「何だ? 寂しかったりするのか?」


 以前のアドからは考えられないセリフに少し驚きながら答える。


「いや、そういう訳ではないよ?」

「別段珍しいものなんかないしな。 マクリルロの目的を達成できて、お前の顔が見られれば十分だしな」

「……そうだろうね。 して、アヤリ後輩?」

「は、はい。 何ですか?」

「君は元の世界に帰りたいらしいね?」

「そうですけど……」


 アヤリの返事を受けた彼女は「ふむふむ」と考える素振りをする。


「であれば、恐らくわたしと会うのは最後になるだろう。 その時までこの世界を堪能するがいいよ?」

「!? ど、どういう意味ですか!?」


 ある種確信めいた一言に、俺とアヤリは驚く。


「だって、君がこの世界に落とされた時期から逆算すれば長くても三か月(一節)程度だろう?」

「何の話を――」

「そこまでだよ」


 アヤリが再度アドに追及しようとしたところでマクリルロが制止する。


「……なんだ? 君はあの話をしていないのか?」

「キミの時とは状況が違ってね」


 一触即発な彼らに挟まれたアヤリは、身動きが取れずにおろおろする。


「もう出発しますよー!」


 そんな折に、俺達をレスプディアまで運んでくれる寄り合い馬車の御者に呼ばれる。


「……ボク達はもう行かないとだからね――」

「まった。 もしもアヤリ後輩の望む結果にならない様なら、わたしは容赦しないぞ?」

「……心に留めておくよ」


 こうしてマクリルロに責付かれながら馬車に乗り込む。


(今の話。 どういう事だ?)


 仮にアドの話が本当であれば、アヤリが帰れる期間は決まっており、それをマクリルロ(この男)は隠していた事になる。


「おい、マクリ――」

「行きとは違って他の客も居るんだよ?」


 彼はわかりやすい位に会話を打ち切ると、窓の外に視線を向けた。


(なっ……)


 アヤリからも何か言ってやれ。と、彼女の方を見るが、アヤリはアヤリで何故か俺達から逃げるように外を見ていた。


「アヤリ、どうしたんだ?」

「っ……」

「アヤリ?」

「ん……え? カティくん、何か用?」

「いや、どうかしたのかって……」

「私? 私は別に……っ!?」


 明らかに様子が普通ではない。よくよく見てみると、アヤリは横腹を押さえている。


「大丈夫か!? 見せてみろ!」

「平気だって――うぅっ……」


 半ば無理やり彼女の上服を捲ると、そこは赤く変色していた。


「不味い。 これは骨折してるぞ?」

「そんなことないよ……っ!?」


 安定した地面の上であれば大事なかったらしいが、この馬車はそこそこ揺れる。それで痛みが我慢できなくなったのだろう。


(位置的に肋骨だな)


 恐らくルーガスに連れ去られる際にでも攻撃を受けていたのだろう。


「待ってろ……。 すまん、一度この馬車止めてくれ!」

「はぁ? 何言って……」

「頼む! 怪我人が出たんだ」

「怪我って……町を出たばかりだろう」


 苦言を言いながらも、その言葉を受けて御者の男性は馬車はゆっくりと停車する。


「悪いが、マクリルロは御者と他の乗客を説得してくれ」

「……わかったよ」


 彼に任せて、広さを確保するために一度、俺はアヤリを支えながら馬車の外へと出た。

 その後、旅準備として準備していた持ち物の中から、鎮痛薬を取り出す。


「見させてもらうぞ?」

「……わかった」


 流石に馬車を止めるに至ったので、我慢することを諦めて観念したらしい。


「ここは痛むか?」

「……そこは平気。 もっと上……」

「ここか?」

「痛っ……。 そう、そこ……」


 折れてはいないが、ひびは入っているようだった。


(この程度なら固定すれば平気だな……)


 幸いすぐに治療が必要という程ではなかったので、彼女の腰回りに何重にも布を巻き付けて圧迫固定する。


「これ飲んどけ」


 水筒と鎮痛薬を手渡すと、それをアヤリは飲み込んだ。


「苦い……」

「そのぐらいは我慢しろよ」


 そんなやり取りをしていると、マクリルロが項垂れた様子で戻ってくる。


「説得には失敗したよ。 商人は予定が狂うのを嫌うからね。 数分とはいえ一度町に戻るのは反対されたよ」

「そうか……」


 歩いて戻ることも考えたが、あまり今のアヤリに負担を掛けるのも良くない。

 とはいっても、この馬車街道はそこまで揺れが酷いわけではない。薬を飲ませてじっとしていれば悪化する可能性は低いと思われる。


「そこまで酷い怪我じゃないし、このまま乗っていくことにするか」

「そうだね。 そうしようか」

「……ごめんなさい」

「次からは事前に言ってくれよ? あと、痛みは引くだろうけど当分は安静にすること。 いいか?」

「……はい」


 その返事を受けて、馬車へと戻った。


 ……


 結局、俺達は本来の予定通りにレスプディアに入国し、そのままエルリーン行きに列車に乗っていた。

 レスターの町でもあのレスタリーチェ一家に絡まれることなく帰路に付いた。

 行きとは打って変わって大人しい様子のアヤリも心配だが、怪我の様子は心配する状態にはならずに済んでいた。


「……なくちゃ」

「は?」

「もっと強くなくちゃ。 負けない様にならなくちゃ。 力を身に付けなくちゃ……」

「……そこまで気を負わなくても――」

「ううん。 私が弱いのがいけないんだ。 だから……」


 ここ数日は終始この様子である。若干危ない思考な気もするが、なにかしらの話題には普段通り答えられるし、自力を見に付けるのを俺の経験から言って悪いとは言えない。


「……その特訓は、手伝うぞ?」

「うん」

「怪我が治り次第だけどな」

「……うん」


 あの倉庫内で、これまで抱えていた感情を打ち明けた上で受け入れてくれた彼女に、少しでも返せるなら手伝いたいと思う。

 これまで以上にハードなメニューを考えていると、エルリーンの町が見えてきた。


「(帰って来れたな)」


 下車する準備を始めながら、そう呟いた。


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