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第18話② 自分を好きになって


==カーティス=ノークレス・七番倉庫内==


 一通りの説明を終えて立ち上がり、アヤリから視線を逸らした。


「話の脱線が多かったが、詰まる所俺は普通じゃない。 こんな存在なんだよ」

「……それって、昔の勇者の記憶がどうこうって話?」


 彼女のその言葉に俺は頷く。


「そうだ。 あのルーガスを連れてった奴らが言ってただろ? 化け物なんだよ……」

「化け物って……」


 過去今までの記憶から、そんな事は誰よりも理解しているつもりだった。


「自分自身が好きじゃない。 過去の記憶に縛られて、引っ張られて……こんな状態だと、いつ自意識が消えてもおかしくないしな」


 過去、自分を保てなくなり、正気を失った勇者は存在する。そういった資料が残る国では俺の扱いは魔王と何も変わらない。


「だからアヤリも、俺なんかと一緒に居ない方が――」


 そこまで言いかけると、突如アヤリに抱擁される。


「私はカティくんと一緒に居たいよ?」

「……話、聞いてなかったのか? 俺は……」


 自らの声が掠れ、目頭に水分が集まっていることに気が付く。


「君にどんな記憶があって、これまでの旅でどんな事があったか知らないし、多分私には理解できないと思う。 けど、カティくんはカティくんだよ」

「俺は俺……」


 先程、自らを欺くように言った言葉を彼女は繰り返す。


「カティくんってさ、なんだか偉そうで、いつもご飯の事ばかり考えてて、それ以外は暇を見つけてはずっと寝てる」

「……駄目人間じゃないか」


 心外である。彼女が指し示す俺の印象はそういったものだったのだろうか。


「でも、誰かが大変な時にはいの一番に動けるし、最終的に最善を尽くせる。 そんな人でしょ?」

「それは……」


 それは過去の勇者に触発された部分が大きい。どちらかと言えば欠点の様な部分が俺自身の特徴なのかもしれない。


「そんな、部分をひっくるめて私はカティくんがLIKE(好き)だよ? 良いところも悪いところもある。 それが人間でしょ?」

「……!」


 初めて俺自身が、勇者ではなく一人の人間として見られた気がした。


「私がそうである様に、カティくんにも自分を好きになって貰いたいな。 って言うのは我儘かな」

「そんなことは……」


 自分を好きになる。そんな簡単で難しい願いを彼女は真剣に話す。


「……それに、カティくんはまだ子供でしょ?」

「アヤリだってまだ子供だろ?」

「私はいいの。 ……カティくんよりは年上だし。 だったらもっと周りに頼っても良いと思うよ?」

「周りに頼る? 俺が?」


 周囲の誰よりも強く、誰よりも知識深い俺が誰かを頼る必要があるのだろうか。


「だって、カティくんっていつも自分で動いて解決しようってするでしょ? でもまだ子供だし、人が一度にできることって限界があるから。 それを誰かに押し付けて良いと思うの」

「……」


 確かに俺も、歴代勇者も自力で解決しようとするきらいがあった。


「私にだって頼ってくれていいんだよ?」

「アヤリに?」

「そう。 私も結構頼りがいがあるでしょ?」


 その言葉を受けて、俺は彼女を押しのけるようにして離れる。


「それはない」


 ……


 破棄された工業地帯にある倉庫を後にして、アヤリと共に宿に戻る。

 どうやらマクリルロはまだ戻っていないらしく、狭い部屋で二人きりになった。


「……」


 先程は感情的になって久しぶりに人前で泣いてしまった気恥ずかしさでアヤリの顔が見られずにいた。


(ぐっ……、何だこれ。 妙に恥ずかしいぞ……)


 一方彼女の方は平常運転といった様子で、俺のカミングアウト前と変わらずに普通に接してくる。

 それを受けて、俺だけが無駄に意識しているのが馬鹿々々しくなる。


「……アヤリ」

「なに?」

「何て言うか……、ああ言うのって誰にでもやってるのか?」

「ああ言うの?」

「その……、ハグっていうかさ……」


 少し前から稀にされるようになっていたので、思わず聞いてしまった。


「? そうだねー……、私結構子供好きで、近所のとかに()()()! とは思ってたかも。 でもあれ、何でだろう? 実行には移してなかったのにカティくんにはよくするかも」

「……俺以外にはしてないのか」

「……あー、一度だけしてた。 同い年の友人が大変な時期に慰めようとしてさっきのカティくんみたいな事をしたかな? あとは家族位だね」


 その一言にわずかに動揺する。


「……その友人って、女子か?」

「そうだよ? よくわかったね。 六笠(むかさ) 瑞紀(みずき)って子」

「そう、か……。 どんな奴なんだ」


 聞きたいことは聞けたが、それを悟られたくないので話題をずらす。


「馬鹿」

「……は?」

「言動がお調子者ってタイプだね。 頭が悪い訳じゃないけど、兎に角馬鹿な奴かな」

「そ、そうか……」


 彼女にそこまで言われるレベルなのか、そう話せるほどに気兼ねない間柄なのか……。


「(また会えるかな)」


 俺に聞こえるかどうかという声量でアヤリは呟いた。

 彼女は可能であれば元の世界に戻るという話を以前からしている。だが、その目途は当然立っていない。彼女曰く「ふとしたタイミングで帰れるかもしれない」とのことだったが、そうなれば……。


(俺とはもう会えなくなるよな……)


 いざ彼女が元の世界に戻れる機会が訪れた時、俺はどう声を掛けるのだろう。


(嫌だな……)


 彼女には、元の世界に家族や友人が居るのだ。にもかかわらず、それを諦めてこの世界に残ってほしい。そう考えた自分が嫌になる。


(俺自身を好きになれ。 って言われたばかりなのにな……)


 暫くしてマクリルロが戻って今後の話をしてから、彼女は借りている一人部屋へと戻って行った。


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