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第17話⑦ マイペースな人質


==カーティス=ノークレス・七番倉庫内==


「動くんじゃねぇ!!!」


 倉庫内に入ると、アヤリを人質にルーガスが立っていた。彼の反応から既に疑ってはいなかったものの、事実としてアヤリが捕らえられていたという事実を見て、あの偽の勇者に僅かながら関心を抱く。


(それより、何で平気そうなんだよお前は……)


 首元に短剣を突きつけられているにもかかわらず、至極普通の表情であるアヤリの方が気にかかった。


「んー! んんー!」

「だから喋んじゃねぇよ! 殺されてぇのか!!!」


 そして、相も変わらず口が封じられていても何かを話そうとするアヤリに辟易する。


(俺がどんな思いで駆け付けたと思ってんだよ……)


 とはいえ、このままルーガスと睨み合いを続けていても仕方がない。何歩か近づくと再度警告を発する。


「動くんじゃねぇって言ってんだろうが! 何なんだテメェら!!!」

「……」


 明らかに冷静さを欠いているこの男をこれ以上刺激するのは不味いと判断し、俺は死角となる位置からあるドロップを取り出す。それは、以前あの王子から受け取ったドロップだった。


(アヤリが人質に取られている以上、普通の遠距離攻撃では傷つける恐れがある。 三つしかないが、出し惜しみはなしだ――)


「おい!」

「あ”!? なんだよ!!!」

「この世界で最も強い力って何だと思う?」

「強い力だぁ? んなもん知るかよ!!」

「……なら教えてやる。 それはな、()()だ――」


 取り出した重力のドロップをディートすると大槌が消失する。そして新たに使用可能になった能力を発生地点をルーガスの位置のみに限定して行使すると、地面に引っ張られるように彼は突っ伏した。


「ぬぐっ……!?」

「ん!? んんん、んん!!」


 意味不明な言葉を喋りつつアヤリはその隙を突いて俺の方に駆け寄る。自らの口元を指差して猿轡を取れと指示してくるが、生憎重力能力のコントロールで俺も身動きが取れないので無視した。


「テメェ……なに……しやがった……」

「言っただろ? 重力だって」


 さらに負荷を強くすると、辛うじて上げられていた顔も地面に押し付けられる。


「ぐおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……」


 重力を維持したままゆっくりとルーガスに近づく。そして、近くに落ちていた大剣を遠くに蹴り飛ばした。


「降参、してくれるか?」

「する訳ねぇだ――おごっ……」


 もう一度負荷を上げると、圧迫された影響か口から吐血する。


「もう一度聞くぞ? こうさ――」

「んー!!」


 すると突然隣に居たアヤリに全身でタックルを受ける。


「ア、アヤリ!?」

「ん! んんー!」


 その衝撃で重力の行使が抜けてしまう。だが、ルーガスはその場から動くことはなかった。

 一先ずアヤリが五月蠅いので口の猿轡を取ってやると、何故か俺を怒鳴る。


「もうこの人気絶してるよ!?」

「え……」


 再度ルーガスを見るが、言われた通り指一本動く気配がなかった。


「どうしたの? カティくんらしくない……」


 そう言われて、俺は()()()()()()()になりかけていたことに気が付いた。


「……すまん」


 思わず反射的に謝ると、アヤリはルーガスの方を見て話し始める。


「この人と戦いになったし攫われたけど、そんなに私は恨んでなかったんだよね。 一応最初は助けてくれたし。 本人にその意思があったかはわかんないけど……」

「……」

「それに身の上話を聞いて、この人そんなに悪い人じゃないって思ったんだ。 多分環境が……運が悪かっただけだと思うから」

「……」

「それと最後に人質にされた時も、本気で私を傷つけようってしてなかった気がするから。 だから……見逃してあげて欲しいなー、なんて……」

「あ、あぁ……」


 そこまで話すと、倉庫の外から数人の男が現れる。


「親分!」


 突っ伏しているルーガスに彼らは近づくと、その大柄な体格を複数人で抱えて外に持ちだそうとする。


「よくも親分を……!」

「この、バケモンが!」

「早く運び出せ!」


 口々にそう喚きながらルーガスを運び出して行った。

 それを見届けると、緊張が抜けてその場に座り込む。


「……え! カティくん、大丈夫!?」

「ん? あぁ大丈夫だ。 それよりアヤリこそ大丈夫か?」

「私? 私は……平気だけど……」


 そう言って脇腹を少し庇う様に俺から遠ざける。


「……?」

「とりあえず、この縄切ってくれない? 私ドロップ持ってかれちゃってて」

「あ、そうだな……」


 適当に短剣をディートして縄を解いた。




==杏耶莉(あやり)=ノークレス・七番倉庫内==


 座り込んだままのカティは顔だけを私に向けると、呆れるような声色で呟いた。


「心配したんだぞ?」

「あ、あはは……。 ご迷惑をおかけしました……」


 そう答えると、目を細めて講義の眼差しを向けるが、すぐに先程と同じように地面に視線を戻す。


(にしても、さっきのカティくんの様子が気になるなー……)


 そう感じるのと同時に、気が付けばそれについて質問していた。


「カティくん。 さっきなんだか様子がおかしかったけど、あれって何だったの?」

「あれか……あれは――いや……。 何でもないぞ?」


 その質問をすると、普段とは打って変わって、動揺しながら否定をされた。


(やっぱり怪しい……)


 私は追及すべく、彼に両肩に手を置いた。


「私、実は西瓜が苦手なんだよね」

「……は?」

「西瓜ってほら。 水っぽいのに微妙に味が付いてて、タネが多いから食べづらい。 大して美味しくないのに人気ってイメージでしょ?」

「アヤリ? 何の話を――」

「それに、何故か塩を振りかけると甘くなるって言うけど、別に甘くならない! 純粋に辛いだけなのにさ」

「だから何の話を――」

「実は今のって、誰にも言ってない秘密なんだ。 みんなが美味しそうに食べてる前では言いづらいでしょ? という訳で、私が一つ秘密を教えたからカティくんも教えて?」


 全力の笑みを作ってそう答えると、数秒の間を置いてからカティは盛大に笑い出した。


「ぷっ……あはははははははっ! 何だよそれ! 意味が分からんし、何の交渉にもなってない!」

「うっ……」


 馬鹿にするように笑い続けるカティの声が倉庫内で木霊する。ひとしきり笑い終えると、カティは口を開いた。


「悩んでるのも馬鹿らしくなって来た。 まぁ、アヤリってそこまでお喋りでもなさそうだし、約束してくれるなら聞いてくれるか?」

「約束って?」

「口外しない事。 これを知ってる人間は世界中でも僅か数名で、これが広まったら最悪俺は暗殺されかねない」


 軽い口ぶりから酷く物騒な言葉が飛び出す。


「暗殺って……」

「アヤリが口外しなきゃいいだけだよ。 約束してくれるか?」


 少し考える素振りをするが、私は他人の秘密をべらべらと喋る人は嫌いなのもあり、頼まれれば守り通せるだろう。


「分かった、約束する」


 そう答えると、カティは淡々と話を始めた。


重力って寧ろ弱い力だったりするのですが……。

尚、意図的にこの表現を使ってます。

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