第17話⑤ ルーガスという男
下記にキャラクター紹介をしておきます。
□ルーガス
闘技大会決勝でカーティスと戦った男
スキンヘッド、で実物の大剣を扱う
出身はドレンディア
□ボルノス
カーティスと酒場で最初に戦った男
筋肉自慢で、槍を扱うディーター
出身はレスプティア
==杏耶莉=ノークレス・七番倉庫内==
目が覚めると、倉庫の様な場所で椅子に縛り付けられていた。
「……意識が戻ったか」
「っ!?」
すぐ傍にはルーガスが居て、思わず距離を取ろうとするが身動きが取れない。
「安心しろ。 別にこれ以上の危害を加えるつもりはねぇ。 それに、そっちの趣味もねぇしな」
「そう、ですか……」
記憶に残るルーガスとは違って、現在は至って冷静な様子だった。
「だがお前を餌に、あのガキを誘き出すつもりだ。 今、子分に奴を探させてるが、それで事が終わればお前は解放する」
「……何故そこまでカティくんを……」
この大柄な男性と戦って、その強さを実感した。私自身は一撃で戦意喪失した様なもので情けなかったが、それを差し引いても実力は十二分にあると思われる。
にもかかわらず、わざわざ呼び出してまでカティとの再戦を希望する理由が理解できなかった。
「……おれはな、頭が悪いんだよ」
「え?」
「何かを考えるのが苦手なおれには、腕っぷしぐらいしかなかった。 でもその才能はあったみたいでな。 だからおれはレスプディアの闘技大会でボルノスと毎年戦っていた。 が、今年はそうはならなかった」
「……」
「あのガキが長年のライバル、ボルノスを倒しておれも大衆の前でやられた。 おれの面子は丸潰れなんだよ。 それまで築き上げてきた称賛はガキに負けたって侮蔑になった。 あの日でおれは全てを失ったんだよ!」
彼は感情のまま、近くにあった木箱を蹴り飛ばす。大きな音を立てながら吹っ飛ぶそれから目を背ける。
「だから、おれが強いってことを今一度証明すんだよ! おれにはそれしか……」
勝利した人間が居れば、当然敗北した人間も居る。それは、当たり前のことだった。
でも私はあの日、カティを助けたことを後悔はしていないし、ルーガスの態度には不満があった。
「大会って、あなた達の為に開催されてたんですか?」
「あ”?」
「あの闘技大会は、強い人を決める為に開かれてたんですよね? それって、別にあなたとそのボルノスって人? の為に開かれてた訳じゃないですよね?」
「……そりゃ、そうだな……」
「なら、その大会内で負けたあなたが悪いんじゃないですか? 戦って勝ったカティくんは悪くないと思います」
「なっ……。 それはそうだが……。 それだって、てめぇが妨害してドロップを投げ入れたりしなけりゃおれが勝ってたんだろうが!」
私の胸倉を掴み、恐ろしい形相で睨まれる。
「……それに関しては、あなたにとってはそうかもしれないです」
「なら――」
「でも、開催者の人には不問とするって言われました。 なら、ルール上問題ないはずです」
「……」
実際は人伝かつ事後的に言われたので、結果論では違反にはならなかったというだけだが……。
冷静にそう答えると、幾分か冷静さを取り戻したルーガスは、私から手を離す。
「それに私は見てないですけど、子分が居るんですよね?」
「……そうだが?」
「わざわざあなたの頼みを聞いてくれるなんて……、慕われてるんじゃないですか?」
「それは、そうかもしれんが……」
「それなら、その人達に恥じないような事をすべきだと思います。 あなたより二回りは年下の男の子を倒して、その後はどうするんですか? それはあなた達にとって、誇れることなんですか?」
ルーガスは頭に手を置いて暫く考え込むが、突然首を振って再度私を睨む。
「チッ……。 おれは今更止めらんねぇんだよ!」
彼はそう吐き捨てると、倉庫の外へと出て行った。
……
「親分! 奴が来ましたぜ!」
「あぁ、わかった。 おい! あの嬢ちゃんを倉庫の奥に引っ込めとけ。 喋れない様にもしとけよ?」
ルーガスが倉庫の外へ出て行った後、大声で行われるそんなやり取りが遠くで聞こえる。
すると、彼の子分らしき一人が倉庫内に入ってくる。明らかに視線を下方に向け続けながら近づくと、鼻息を荒くしたまま私に猿轡を噛ませる。
(え、キモイ……)
そのまま倉庫内の壁際まで移動させられると、特に何をされる訳でもなくその気持ち悪い男性は外に出て行った。
==カーティス=ノークレス・七番倉庫前==
「何だおま――ぐおっ!」
手にした六尺棒で下っ端らしき者を倒して、七番倉庫の前まで到着する。
「思ったより遅ぇじゃねぇか」
「お前は……」
その男の顔に見覚えがあった。エルリーンの闘技大会決勝で戦うことになったルーガスという男だった。
特徴的な大剣を担いではいるものの、その側部には特徴的すぎる切れ込みが入っていた。
(あれはアヤリの……)
とすると、あの偽の勇者が言っていた話に現実味が帯びてくる。ほぼ間違いなくアヤリがこの一件に関わっているということなのだろう。
「ガキィ! お前をここまで連れてきた子分はどうした?」
「子分?」
俺はあの偽の勇者が言っていた事を信じてこの場に来ていた。なので、俺を案内した子分とやらは存在しない。
「面倒だから突っ切ってきた。 それよりもアヤリは無事なんだろうな?」
「あの嬢ちゃんか? それは安心しろ。 不必要に傷つける趣味はねぇ」
そう言ってルーガスは笑みを浮かべながら大剣を構える。
「おれはお前をぶっ殺せばあの頃に戻れるんだ。 悪く思うなよ?」
「……そういうことか」
恐らく俺との勝負に負けたことで、それまでの地位を失ってしまったのだろう。あの闘技大会ではドレンディアからの観客も多いと聞く。
「その程度でなくなる様なもんに固執したって仕方ねぇだろ?」
「あ”?」
「それに、一つ教えといてやる。 お前は絶対に俺に勝てない」
その理由は唯一つ。闘技大会当日は空腹で調子が悪かったからだった。その状態で負けなかったこの男性に負ける気がしない。
「……その余裕はいつまで持つか? あの時みたいにあの嬢ちゃんは助けてくれねぇぞ?」
(嬢ちゃん? あの時?)
嬢ちゃんとは恐らくアヤリの事。そしてあの時とは外野からドロップが投げられた事について話しているのだろう。
(まさか、あの時助けてくれたのって――)
そう思考を巡らせている最中、ルーガスはその剣で俺に斬りかかった。




