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第17話③ ノービス教の連行


==カーティス=ノークレス・大通り==


 暫くアドと話し込んでいた俺は、別れを告げるとそのまま大通りを歩いていた。


(流石に四節程度じゃ何も変わってないよな……)


 この町の情景に多少の懐かしさこそ覚えるものの、そもそもの滞在期間がエルリーンより短いので大した感慨でもなかった。


「――取り囲め」


 その短い指示と同時に、全身白色の武装で固めた五、六人に周囲を囲まれる。


「……なんか用か?」

「白々しいな。 我らが勇者がこの町に滞在していると知ったうえでそのような外見を施しているのだろう?」

「は?」


 全く話が見えないが、この集団の恰好には覚えがあった。

 ノービス教の僧兵、その中でも高位の者である事を示す三本の縦線が武装に施されている。


「非公式ではあるものの、我らが勇者様が訪れている瞬間にその髪色で町を歩くとは……」

「……」


 彼らの話から、どうやらノービス教が立てた()()()()がこのノークレスの町に訪れているのだろう。

 そういった噂は耳にしていないが、非公式とのことなのでそれも当然だと思われる。


「貴様を連行する。 申し開きは勇者様の前でするがいい」

「……あぁ、わかった」


 一応この人数なら対処することは可能だが、彼らの言う勇者なる者の護衛で訪れているのなら、控えている人数は相当数に渡るだろう。となれば、先に俺のドロップが底を突いてしまう。俺はドロップがなければ唯の子供なので抵抗は途端に難しくなるので、早々に降参することにする。ノービス教関係者なら、暴れなければ悪いようには扱われないだろうという確信もあったのだが。

 高位僧兵の戦闘能力はこの大陸でも一二を争う技術力だ。吟遊詩人の歌に『天災と僧兵には逆らうな』なんて歌詞が存在する程度にはそれが浸透している。比較対象が災害なのはいまいちわかりづらいが、それ程には強いということの現れだった。


「子供とはいえ、ノービスの教えに逆らう者を我らは許しはしない」

「……」


 ノービス教徒では珍しくもないのだが、この様にして教えを遂行することに酔う様な部分は未だに好きになれそうもない。

 そんな彼らに連れられて、その()()とやらの元へ向かうことになった。


 ……


「ここが勇者様の休んでおられる部屋だ。 ドロップは取り上げたが、変なことは考えるなよ?」

「わかったって……」


 既に十回は聞いたセリフにそう返答する。

 ドロップを取り上げられたのは想定通りだったが、手足を縛るぐらいはしてもおかしくないと考えていた。だが、そうではないらしい。


 教会の仰々しい扉を開くと、そこには俺と同じ髪色の男性が一人座っていた。年齢は二十程で手足の細さから荒事なんかに慣れしていないことは明白な見た目だった。


「……君達は席を外してもらえないかな?」

「承知しました」


 扉の前で護衛をしていた僧兵に下がるよう指示すると、その指示を当然と言わんばかりに受け入れて退室していく。


「……護衛が主の一言とはいえ、見知らぬ人間と一緒なのに簡単に下がるのはどうなんだ?」

「彼らは僕の事を本気で信頼してくれているからね。 日々の努力の賜物さ」


 わざとらしい笑みを浮かべて両手を広げると、彼は面白そうに口を開く。


「始めまして。 ようやく会えたね、()()()()()()

「!?」


 目の前の偽者の勇者は俺に席を促しながら、自ら紅茶を淹れ始める。


「何故それを……」

「タネは簡単に明かしたら面白くないさ。 それよりも、喉は乾いていないかな?」


 差し出されたカップを見つめるが、これ程に怪しい人物から出された物に口づけたいとは思わない。


「……別に毒なんて入れていないよ?」


 そう言って彼は、同じポットから淹れた紅茶に口をつける。


「……カップに毒を仕込んでいる可能性もあるし、遅効性の可能性も当然ある。 自分だけ解毒剤があれば助かるだろ?」

「心配性だな()()()()()()は……。 ま、それでも別にいいさ」

「なっ……」


 俺はこいつに名乗った覚えはない。にもかかわらずその名前を当然のように答えた。


「ははっ、本物の勇者を驚かせるのは面白いな」

「……何を以って俺が本物なんだよ」


 最悪名前を調べるのは難しくないだろう。この町まで一緒だった商人しかり、過去この町に滞在していた期間も偽名の類は使っていなかったからだ。

 だがこの大陸で俺が勇者であると知るのは、精々レスプディアの王子とグリッド、アヤリにマクリルロ程度だった。


()()()()()()()()。 庶民には知られていないけど、これを聞けば君なら理解できるかな?」

「!?」


 ごくごく一部でしか知られない、特殊なドロップの名称である。


「君ら、勇者はありとあらゆるドロップの適性を有する。 それに対応したドロップを使うことができれば行使することが可能だ。 けれど、そのルールに当て嵌められないドロップが存在する……」

「……それがユニークドロップだな」

「その通り。 流石に君らは知っているだろうね」

「……その君()って表現は止めてくれ」

「そうかい? 勇者を的確に表現できていると思うのにな……」


 彼は少しつまらなさそうな表情になるが、すぐにそれは元に戻る。


「それで、タネは理解できたかい?」

「ユニークドロップなんて名称だが、その実は唯の未発見のドロップでしかない。 託宣のドロップで発現する第一適性がそれだったというだけだろ?」

「その通り。 そして、そのユニーク持ちが君の知らない能力で少し他人より情報を得られる。 それだけさ」

「情報を得られる……」


 そういった能力を有するドロップは確かに覚えがない。


「もったいぶっても仕方がないから教えてあげるよ。 僕の適性は()()。 予め未来の出来事を予見することができる能力さ」

「なっ……」

「どうだい? 一宗派の長としての箔が感じられないかな?」


 彼の言葉が本当なら、どれだけのことが可能なのだろうか。


「僕はこれを以って君がこの町に来訪することを知った。 レスプディアはノービス教の影響力が低いから手が出せなかったけど、ぎりぎりドレンディアの土地であるこの場所であれば可能だったのさ」

「それで、待ち伏せしてたってことか?」

「そうさ。 君がこの大陸入りをした時点だと僕の影響力は低かったし、移動し続ける君を捉えるのは難しかったから随分遅れちゃったという訳さ」


 そこまで答えると、彼は自ら淹れた紅茶に再度口をつけた。


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