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第17話② 横暴な戦い


==杏耶莉(あやり)=ノークレス・裏通り==


 ルーガスは目的を果たすためにこの場で殺してしまうは不味いと考えたのか、彼の振るう大きな剣は刃ではなく腹を向けて鈍器の様に扱う。

 本来の使い方より空気抵抗が発生する影響か、その勢いは決して速すぎる訳ではないので私は回避できた。


「いきなり何するんですか!?」

「どうもこうもねぇよ。 おれはあのガキを呼ぶよう言ったが、それに応じなかったのはお前だろぉが!」

「そんなの、当たり前じゃないですか!」


 友人を物騒な単語と共に呼べと言われて、それに簡単に応じる訳がない。


「だったら、てめぇを倒して目的を達成するだけだ!」


 そうルーガスは答えると、手にした大きな剣を何度も振るう。彼の武器はドロップ生成物ではないので、私なら武装解除は比較的容易だろう。

 そう高を括っていたのだが、本気で私を攻撃する彼に付け入る隙がなかなか見当たらない。


(何とか不意を突いてこの剣を斬れれば……)


 たった一撃を入れる。言葉にすれば簡単なのに、それだけの事が難しかった。私の怪我を考慮するつもりのない攻撃に直撃すれば、私なぞ一撃で伸されてしまうだろう。そう考えると寧ろ条件は同じだったのだ。


「避けてばっかりか!? つまらねぇな!」

「……っ」


 回避に専念していた私に痺れを切らしたのか。剣の刃を向けるように持ち直して、攻撃を再開する。明らかに上昇した速度の剣を何度か避けるが、次第に追いつかなくなる。


(もう駄目だ――)


 スローモーションの様な時間がゆっくりになる感覚になるのと同時に、回避が追いつかなくなったこの凶器が私に命中することを悟る。

 危険を伴うのでできればやりたくなかったのだが、それ以外の選択肢はありそうもない。私は自分の剣で攻撃を防ぐ様に構える。

 刃を正面に向けられているという前提になってしまうが、この斬れ味であれば相手の勢いて切断することは可能だった。ただし斬れ()()()せいで勢いが殺されずに、切断された武器がそのまま直撃することになってしまう。その為、棒か何かで防ぐよりも危ないので、この方法はあくまで最終手段として捉えていた。


 幸い剣の刃でルーガスの大きな剣を捉えることは出来たらしく、一切の抵抗なくこの武器を切断す――


「――ぐっ……、てめぇ! 何をしやがった!?」


 大きな剣の三分の一程度が切断された時点で、何かを察知したルーガスは剣の軌道を捻じ曲げて一度引いた。

 その所為で私の目的である武装解除は叶わず、大きな切れ込みが彼の剣に入るのみだった。


「……次はそれを破壊します」


 苦し紛れの手段だったが、はったりの意味を込めて強気に答えた。私の剣の特異性はバレてしまったので、同じ手は恐らく通用しないだろう。


(不意を衝くのはもう無理。 それならこの剣に注目させる……)


 カティから教わった戦い方を心の中で復唱する。


「やけにすんなりそいつの腕を斬り落としてたとは思ったが……、面白れぇじゃねぇか」

「……」


 近くで横たわり、斬り落とされた腕の断面を抑えながら『ヒューヒュー』と息をする男性を、ルーガスは楽しそうに指しながら言い放つ。


「鉄の塊をすんなり斬っちまうんだ。 当然人間なんてそりゃあ簡単だろうよ」

「……」


 騎士団で教わった基本の構えで剣を握る。様々な方向からの対処に向いた型であると教わっているが、それを見たルーガスは鼻で笑った。


「避けてばっかりだと思ったが、今度は一丁前に構えんのか。 っていっても、素人みてぇだがな」

「……そうですね」


 明らかに格上と思わしき彼には、即座に私の形だけの構えは見破られてしまう。


「だが素人で綺麗な顔して、斬り伏せた人間をみて眉一つ動かさねぇってのは……。 才能あるぜお前」

「……」


 ここで言う綺麗とは美人という意味ではない。傷一つなくて荒事慣れしてなさそうなのにという意味だ。


「もっと、おれを楽しませてくれよ――」


 凶暴な笑顔を浮かべたルーガスは攻撃を再開する。とはいえ剣の特性に気が付いたので、その勢いは目に見えて落ちていた。

 牽制の為に何度か剣を振ると、それを明らかに警戒した様子で避ける。彼の表情こそ先程より楽しそうだが、同時に冷静さは欠いていないらしい。


(むしろ、その方がやり易いしね)


 何度目かのそんなやり取りののち、私は不意に大きく距離を詰めて武器を狙った一撃を振る。

 その攻撃自体は警戒しているルーガスに避けられるが、寧ろそれを狙っていた私は死角の位置から全力の蹴りをかました。


(よし!)


 確かな手ごたえで直撃した蹴りに、思わずガッツポーズでも取りそうになったが、その喜びも束の間だった。

 確実に胴体に入っていた蹴りを蚊に刺されたが如く、ルーガスは微動だにしていなかった。


「何……で!?」

「……はぁ、がっかりだ」


 蹴られたにも関わらず、その場でただ落胆しただけの彼に不気味さを覚えて、私は一度距離を取る。


「……それは本気だったのか?」

「本気、とはどういう意味ですか?」

「そうか……」


 明らかにテンションが低くなったルーガスは、距離を詰めながら剣を上に振り上げる。

 一瞬私の剣で迎え撃とうかと考えたのだが、明らかな重量で振り下ろされそうなそれをくらえばただでは済まないだろう。そう判断して回避を決めると、実際に大振りに振り下ろされたそれを避けた。

 その下ろされた剣を破壊すべく剣を構えた時点で、横っ腹に強い衝撃が走る。それと同時に宙に舞って数メートルは吹っ飛ばされた。


「ごっ……」


 喉の奥から鉄の味が滲み出て、地面の砂が顔に付く。訳も分からず立ち上がろうとすると、強烈な痛みのせいで動けなかった。何とか顔だけルーガスに向けると、彼の鍛えられた太い足が上げられていた。


(私……蹴られたんだ……)


 その時点で初めてその事実に気が付く。ルーガスはわざとらしく振りかぶった剣を囮に、蹴りをかましたということなのだろう。それはまさに私が実勢した戦い方そのものだった。


(に、逃げなきゃ……)


 のんびりと一歩一歩近づいて来るルーガスを見てそう考えるのだが、思う様に体が動かない。この世界で初めて容赦のないを感じて、痛みで体の全身を震わせながら地面を這う。


「うっ……」

「……別にてめぇを同行するつもりはねぇよ」


 目の前に迫るルーガスを見ながら、これまで私が戦ってきた出来事を思い出す。

 路地裏でランケットのメンバーとの騒動の際は、相手は私に怪我をさせない様に立ち回っていたことに気が付く。

 社交界でも不意を突いて上手く一撃を入れられた事のみで、ペルナートとのそれもほぼカティがやっただけで私は何もしていない。

 ベージルの騒動も、一方的に男の子を止めただけで戦いと呼べるそれではなかった。

 それ以外は騎士団かカティとの訓練で、私を傷つけるつもりの相手と対峙した記憶がない。


「……めんどくせぇから、精々大人しくしてくれよ?」


 とすると、このルーガスは初めて格上かつ遠慮なく攻撃してくる初めての相手ということになる。言い換えればまともな実戦が初めてだったのだ。


(カティく――)


 腕を使って首を数秒絞められた時点で、私の意識は途絶えた。


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